04話 頼りになるハゲ
建物に入り、きょろきょろと観察していると話しかけられた。
話しかけた男はスキンヘッドで顔に大きな傷跡を持っていた。
刃物で斬られたような傷ではなく大きな爪に裂かれたような傷である。
単刀直入にいうならとてもガラの悪い男であった。
だが彼に悪意がにじむような雰囲気は感じない。
目付きは悪く傷が迫力を増させているが、それは歴戦を物語るものであり冷たいものは感じなかった。
「いつだったか。二十か、三十日ほどか前にふらふらとさまよっているお前に話しかけたと記憶してんだが……人違いだったか?」
「にじゅ……えーと、いや、あの、ちょっとあの時は数日寝ずに歩いてたせいで眠気がすごくて……何を話しましたっけ」
二十日か三十日は十日も差があるしはっきりして欲しいが……誤差と言われれば誤差だ。
それにしても俺はあそこで何十日と過ごしていた事になる。
そんな長い時間眠っていたのはさすがの俺でも初めてだな。冬眠程ではないが、普通の人間が為せることではない。
それに、二十日も寝ていれば筋肉は衰える。だが今の俺は充分動けている。不可解だ。
この世界に来たことが影響しているのか?
「敬語なんぞいい。貴族でもなけりゃ、性にも合わん。お前にゆっくり眠れるような場所はないかと聞かれてな。町の外れにある教会なら静かで、魔物連中も寄り付かないから良いって教えたんだ。教会は覚えてるか?」
「あぁ、教会なら今さっき……お陰様で拠点にしてるよ。あれはあんたが教えてくれたのか。礼を言う」
「おお。で、何の用でここに来たんだ? 服を見るに荒事には慣れてなさそうだが」
「ちょっと事情があってな。今金はこれだけしかないんだ」
そういってポケットにある金貨を出した。
金貨の数は十枚。
そして金貨を出した時に気付いたのだが金貨に文章が書かれているじゃないか。
昔の貨幣でも文字が書かれていたはずだ。
男に見せるついでに金貨の文字を見てみると、俺は言語を多く習得してなどはいないが、少なくとも英語などのヨーロッパらへんで話されている言語の文字には見えなかった。
これは……異世界説が大きくなってきたな。
男に見せると、辺りをきょろきょろと見まわして、声を潜めて言う。
どうやら酷く驚いているらしい。
「そりゃ家でも買う気じゃなけりゃあ少なくとも持ち歩くような額じゃねぇ。さっさとしまっとけ。ここがギルドとはいえ盗むような奴がいないとも限らん」
「はーい。んで相談がありまして」
「武器かそれともギルドについての説明か」
「ご名答。どちらとも俺の望みっすよ」
ギルドについての説明が欲しかったというのもある。
ポケットにあったお金があんなに驚かれるほどに額のあるものだとは思わなかったが、あれが尽きた時用に金を稼ぐ手段を確保しておきたかった。
金が無けりゃ友達に飯を食わしてやることも出来ないからな。
「あの大きな掲示板が見えるか。アレに書いてあるのが素材の相場や、討伐報酬だ。大体の冒険者はあそこを見てからここを出る。長い奴はそうじゃないのが多いがな」
「依頼とかじゃないのか」
「それもある。でも毎日毎日依頼が大量に舞い込んでくるようなものでもない。薬草や肉はいくらあっても困らないからな」
「薬草そんなにとってもいいの?」
「草の生命力をなめるなよ小僧。それに、そんな熱心に毎日草ばっかとってる奴もいない。それこそ奥の方の薬草なんか取りに行ける奴はほかの仕事するだろ?」
「確かに」
いちいち依頼を受けるって印象はあれか。
モンスターを狩るゲームの印象が強いんだ。
いちいち依頼を受けるよりもフリー納品にした方が受け取る側としても楽であろう。
「でも把握してないとなんかやばい奴がいた時に気付きにくいんじゃ」
「まぁ、そうだ。だが把握していたとしても結局時間はかかる。ルーキーがその慢心でやられたのと、不測の事態の見分けは難しい。名有りがやられた場合は把握してなくともすぐにわかるものだしな。それに、こういう職ってのに危険はつきものだ」
「ほー」
そう言うものなのか。
ルーキーが死ぬのはやはり多いものなのだろう。
そして会話の中に魔物という単語が出てきた。つまり魔物は存在しているようだ。
魔王のような人類に敵対する奴から生み出された敵対生物?
それとも魔力の核をもった強化された生物?
または魔力があるような環境で特別に進化した生物?
わからないが、この情報を聞くのは恐らく怪しまれてしまう。
今この場で聞くのはやめておいた。
「んであの受付で証拠とかモノ自体を出せば金がもらえるって仕組みだ。他にもいろいろルールがあるが……ギルドを騙そうと考えなきゃ引っかかることはない」
「そのルールに違反したら?」
「怖ーいギルド本部の職員が来るんだと。俺は見たことがないがな」
「……そりゃ怖い」
……んー?
なんか感じた気がするが、まぁ深入りしても良いことはなさそう。
それにしてもこの制度はとても助かるな。
こまごまとした手続きで時間を取られないというのは起床時間が限られている俺にとってはとても助かる。
夕方になってくると眠くなっちまうからな。
「んで武器屋だが……ちょっと手を貸せ」
「それは物理的に?」
「おう。具体的にいうなら手のひら見せろってことだ」
彼に手を見せる。
俺は爺に無理やり鍛えられていたことがある。木刀で叩き起こされて。
その昔の名残は残っているが。
「……これなら、いいだろう。おいお前、偏屈な爺さんでもキレない自信はあるか」
「うちの師匠はクソ偏屈爺なんで。それを超えなければ」
「どのくらいなんだお前の師匠」
「マジでブチギレそうになったのは目隠しして山の山頂に放置されたときですかね。無駄にきつく結ばれてたせいで結局そのまま山を下りた時はさすがにぶん殴りました。当たりゃしなかったけど」
「厳しいなんてレベルじゃないなそりゃ。それなら連れてってやる。言葉で伝えるのも面倒だ」
「ありがとう……その名前なんだっけ」
「ギルドマスターと呼んだらいい。皆そう呼んでる。お前の名前は?」
「え、職員側の人だったんすか。俺は才賀っす」
「俺は一言も冒険者と言った覚えがないがな」
「そんな面してたらそう思いますって」
「よく言われる」
そう言って彼は笑った。
恐らく彼は顔が怖いことで冒険者たちによくそう言われているのだろう。
それに彼の体はとても鍛えられている。職員とは思えないほどに。
恐らく俺は無手では勝てないだろう。片手ですら腕を力いっぱいに握られたのなら骨が折れてしまいそうなほどに。
刀を持てば、ようやく勝負になるのではないだろうか。
「で、もうここでやることはないのか? 掲示板とか一回見ておくのはどうだ」
「あー、じゃあちょっと待っててくれると助かります。ちょっと見てきます」
そう言ってギルドマスターから離れて掲示板のほうへと向かう。
掲示板は大きくいろいろな情報が書かれている。
支払われる金の量も絵で描かれているな。茶色、白色の二つの色がある。字が読めない俺にとってはとても助かる。
そして……この人間のマークは推奨人数か?
薬草などの採取の絵には一人の人型のスタンプ。
ゴブリンらしき緑の人型の絵には二人のスタンプが押されている。
そして見たこともない絵、あえて近いものを言うなら馬のようなものには三人のスタンプが押されている。
とりあえず薬草らしきものの絵、そしてゴブリンの絵を記憶しておく。
この二つは剥がされたような痕跡が無いため何時でも受付をしているという事だろう。
掲示板を見終えてギルドマスターの元へと戻る。
彼は変わらず俺を待ってくれていた。
「じゃあ行くか」
「仕事とかは大丈夫なのか?」
「ギルドマスターってのはあんまり仕事ないんだよ。忙しい時ってのはろくでもない時だ」
金貨
国が保証する通貨の一つ。数か所の国とギルドの認証があり発行されたそれは、裏に記された国旗の地域で使用することが出来る。
だがいくつかの国は滅び、この通貨だけがその歴史を遺している。
金貨は通常使われない硬貨であるが、国家間や商会間で使われることもある。




