03話 初めの一歩
俺は今教会の屋根に立っていた。
大きな鐘がチラチラと太陽の光を反射して眩しい。
こういう体験というのはアニメでは、学校の屋上然りよく見るシーンではあるのだが体験する人間は少ない。それこそ皆無に近いだろう。
冷えた風を感じながら下では見ることの出来なかった遠くまでの景色。どうやらここの近くには下で遠くに見えていた一つの街らしきものしかないらしい。
あれが国であるのか町であるのかここからでは判断することが出来ないがあの場所に行けば情報を入手することが出来るだろう。だが、俺の記憶によれば国なのかもしれない。小さく見えるアレは城なのだろうか。
そして恐らく俺たちがラノベのように人間に召喚されたとするならばあの町で召喚されたと考えるのが自然であると思う。
ここからあそこまでの距離は結構なものだ。だが俺はこの距離を移動してきたのだろうか。
無理とは言わないが眠たいのによく歩ききったなという他人事のような感想を得た。
だが周りに友人二人がいないこと、周りに建物がないことを考えるとそう考える他ない。
「あ……やべっ」
視界がぐるんと回る。
屋根の上から降りようとした時、足を滑らしてしまった。
崩れている壁から登っていた為に足元の瓦礫が滑ってしまう。尻を瓦礫がずり刷りと削っていく。
「あ、しまっ」
転がって地面までたどり着く。いたたたた。
尻と背中が大根おろしになっていないかと、恐ろしくなったがどうにも痛みが軽すぎる。
「痛く……ない?」
重力によって導かれ、地面まで勢いよく滑っていった俺の身体にはジンとした染み込むような痛みはなかった。
瓦礫はとがっていて、なんなら刺さりそうなくらいには危ない。
爺さんから教えられたように死なないための体勢は整えていたとしても、最悪骨の一本や二本は折れるかと予想していたのだが、骨が折れているような痛みもない。
仮説を立てるとするなら、これは転移したことによって体に変化があったのだろうか。
これは……その、チートとかいうやつか?
だが身体強化というのは地味な気もする。
単純に魔力のある世界にやってきたことによる体の活性化と考えるととても興味深い。
魔力があるというのも確認してはいないのだが。
日本の逸話にある天狗のように摩訶不思議なものも高所から降りるというものもある。
「ま、考えても仕方ねぇか。とりあえず情報が欲しい。町に行こう」
体についた土を払い町が見えた方向に歩きだす。
見えているとはいえ、小さく見えるあの町に着くにはどのくらい時間がかかるだろうか。
ふと上を見てみると太陽が真上にあった。日本なら十二時ほどか。
夜になると面倒なんだが時間は足りるのだろうか。
歩き続け、町の細やかな建物の輪郭が見え始めたころ、ふと気づいたことがあった。
武器も持っていない俺がこのように移動するのは危険ではないか?
野盗というものがいるのであれば今襲われたらひとたまりもない。
木の棒でもあれば爺さんから教えてもらった俺は応戦くらいはできるだろう。
だがここは平原、武器は石くらいしかない。
石というのは確かに原始の有用な武器ではあるが……多数で攻められてはやはりリーチのない石では怪我をすることは避けられないだろう。
何か持ってはいないかとポケットを探ってみると見慣れない貨幣が入っていた。
恐らくお金であろう。
問題は何時俺はこれを手に入れたのであろうという事だ。
そしてたった今思い出した事があった。
俺はコレを貰っている。友人二人も近くにいた状況で、だ。
つまりは誠に残念ながら召喚されたというファンタジーにリアリティという肉が付いてきた。
庇護を売り払ったこのお金は身の安全のために使いたい。
これで武器を買うのに使う為にこれを差し出すのは避けたい訳だ。
つまり俺が出来ることは野党とエンカウントしないことを願う事だけらしい。
幸運にも俺は野党などと出会うことなく町にたどり着くことが出来た。
町は昼という事もあり騒がしく活気を感じる。
とりあえず探したいものはギルドのような人間が集まる場所だな。
……あの人、少しばかり血の匂いがする。染み付いたものではない少し鮮やかな匂いだ。
アイツ依頼終わりの冒険者か? 冒険者ギルドなんてモノがあるかどうかは知らんが、定番だなんだと立夏は言っていた。
だが手がかりというものもない。アイツについていくことにしよう。どちらにせよ、人の流れについていけば人の多い場所には行き着く事だろう。
付けているというのがばれるとまずいという事でもない……が説明するのも面倒だ。
それに顔馴染みという訳でもない。新顔は警戒される。
そこから数分彼のことをつけていたころ、一際大きい建物にたどり着いた。
彼が入っていくのを確認し、数分見てみるがそれ以外の人間も入っていることや着けていた男が出てきたことを加味して彼が気付いていないのだと判断した。
うーん、これがラノベとかで有名な冒険者ギルドなのかな。
追いかけている途中で店らしきところに文字らしきものがないものかと見まわしたのだが絵などが多く単語はあれど文は見つからなかった。
恐らく識字率が低いため文字を使わずにわかるようにしているのだろう。
そして残念ながら俺はその文字の意味が分からなかった。俺の目に翻訳機能は付いていないようだ。
だが、話は出来るはずなのだ。
そうでないと俺はあの廃教会にたどり着くことが出来なかったはずであるからである。
眠気の極致に至った俺に記憶は残っていないのだが、突然あの協会に出現していないというのが分かっている。
ならば俺は誰かにあの教会の場所を聞いているはずなのである。
大きな建物に入ってみると中には大きな掲示板に多くの机、そして受付らしきところに素材なのかそれとも証拠なのか遠目ではわからないものを出している屈強な男たちがいた。
うーむ、これは何というか典型的な。
「ん? いつぞやの坊主じゃねぇか」
「……えーと、誰でしたっけ」
ギルド
荒くれ者たちの巣窟。人々からの評判は悪いが、無ければ困る街のライフラインの一つだ。
平等教から度々襲撃を受けて尚、世界広しと手を広げているのは都市伝説にすらなっている。
便利ではあれど、疑問というものは止められぬ。




