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勇者はまた眠る  作者: KURA


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36話 男の眼に何が映る


「意外と、早く着いたな」

「慣れてきたんだろうさ。お前と旅に出て長くなる。お前は歩き続けるのに慣れてきたし、俺はお前を背負って歩くのに慣れてきた」

「そんなものか」


目的の国の門が見えてきていた。

歩くのに慣れてきたという自覚はあるのだが、実際に旅人であるラオから言われると嬉しいものがある。同時にそれ以上に彼に背負わせて旅を刺せているのだから申し訳なさもあるのだが。


門の前には遠目から見ても列が出来ていた。

旅をしているがここまで長い列は初めて見たな。

そして気付いたが防壁が高い、この国は。

防壁がある国というのは俺としてはしっくりくるのだが、この世界の国としては違和感がある。


といってもペネトから教えてもらったことなのだが、この世界において防壁というものはあまり価値が無いらしい。

優れた魔術師や魔法使いにとって防壁というものは障害足りえない。容易く壊せるし、容易く生成できるものだ。

僕なら全部内側に倒してしまうよ、というのは彼女の言葉だ。内側に倒された壁は国民を襲うだろう。そうなればメリットとリスクが逆転することになる。守るための壁が攻撃に使われてしまうのだから。


「なんか、俺の知識じゃ違和感があるんだが」

「古く小さな国だからな。大きな国となると優れた魔術師が結界を組んでいることが多い。故に防壁というものも最低限となる。あって視線を通すための高さ位だな。だが小さな国には優れた魔術師がいない。厄介な鳥などの魔物が来るのを防ぐために壁を築いてるのだろう」

「そういうもんか。でも魔術師からするとあれってすっげー簡単に落とせるんじゃ?」

「そうだな。門をふさぎ、城壁の上から魔法を降らせても、城壁を倒しても、大きな損害を与えられるだろうな」

「やっぱり?」

「とはいえそれだけ警備を多く配置しているんだろう」


ラオが壁の上を指さす。その先をよく見てみると確かに巡回している兵士のような人影が見える。あの警戒をずっと保つのは大変な事だろう。


「それに、そこまで大きな国という訳でもない。侵略するより取引する方が得だろう。……たまに意味の分からない動きをするのも人間だが」

「ま、それはしょうがねーだろうよ。おぉー、近づいてみると改めて凄い長さだね」


そんな雑談をしながら近づいていたのだが、遠くに見えていた列は想像以上に長かった。馬車も数台見える。門番が荷物を見ているから時間がかかりそうだ。

俺らの番が来る頃には日が暮れるんじゃないか?


……ふむ。小国であるのにこんな列が出来ているのはおかしいな。

ルシファーの国はルシファー、ブライやペネトなどの実力者がいる。それに、今はもうその職を下りたであろうダンも。

学校では魔術師が育っているため国の住人の力がそれだけ強くなっているのだ。

それ故か門の監視や検査は厳しくはなかった。ルシファーの性質上来るもの拒まずであるという点を踏まえてもだ。


確かに小国であるため門の監視が厳しいのはわかる。

だがそれ以上にこの人数は異常であるように感じた。

それも必ずしも商人などのように大きな荷物があるという訳でもない。俺らのような旅人のような風体をしている人も多く見受けられた。

ラオの方を見てもその理由は分からないようだった。

だから聞いてみることにした。


目の前にあった馬車の扉を叩いてみた。

すると恰幅と人相の良い男が覗いてきたので、こりゃいいと聞いてみることにする。


「ちょいと前の人。時間いいかい」

「なんだい。あんたも見る限り俺と同じようだし、お互い様だろう? 暇じゃないってんなら何してんのか教えて欲しいくらいだ。暇で暇で、困っちまう」

「俺ぁ旅の途中で立ち寄っただけなんだが、こんな行列が出来てんのは何か事情があんのかい?」

「あんた知らずに並んでたってぇのか。この国の王子様が産まれてから、初めて民に挨拶するってんでお祭り騒ぎなのさ」


ほう、そりゃめでたい事だな。

なるほど、だからあんなにも神経質に荷物を一つ一つ調べてるってわけだ。


「へぇ、そりゃ初めて知った。たまたま寄ってみたんだが運がいいみてぇだ」

「へ、そのせいでこんだけ待ってるんだから、運が悪いとも言えるな」

「確か。あんがとな、話聞かせてくれて」

「いやいや、こっちも暇だったから丁度良かったってもんだ」


気のいいおっさんだった。

おかげで結構情報が聞き出せた。


「どうやら王子様のお披露目会らしい」

「みたいだな。タイミングが悪かったようだ」

「まぁ、おめでたい事なんだろう。悪いなんて言うのはやめようぜ」

「……そうだな」


まぁここからは国には入れるまでずぅっと待機なんだがな。

日差しもあって眠たくなってきたぜ。


「にしてもあの王に子供が。……時がたつのは速いものだな」

「知ってるのか?」

「あぁ。昔この国に来た時ちょっとな」



しばらく列に並んで国へと入り、町中を歩いていると、どうにも活気が凄い。だが少し妙なところもあった。

人々は忙しく働いているし、他から来た人間が物を買い、国の血液のようなものである金が廻っている。

つまりは国として活発な状態である。

だがどこか焦っているかのような少し不安になりそうな雰囲気があった。


「なんだろうな、これ」

「驚いた。意外と勘がいいんだな」

「そりゃ気付くさ。ちょくちょく思うけどラオって俺の事世間知らずと思ってないか。一応この世界のことを知らんだけなんだぞ」


良く分からん感覚に頭をかきながらそう言うと大袈裟にラオが驚いてこちらを見た。

旅をしていて思った事だが割と愉快な奴だなコイツ?


「それを世間知らずと言うのだと思うが。確かに何か変な雰囲気だな。昔来た時は感じなかったのだが」

「ふぅん。ま、そっちは俺の専門外だ。手伝いはしてもいいが……要る?」

「要らん。それに俺も専門外だ。怒りは見えん」


ラオの大罪は憤怒。

怒りがあれば解放し、力がなければ怒りの化身としてその身を焦がす。

そのラオが言うのだから本当なのだろう。

ま、俺に関係ないけどな。人の殺し方は教えてもらったが、政治なんぞは教えてもらってねぇ。専門外だ。


「そうなるよな。ま、俺らの目的は調査だ」


城の前に俺らはいる。

当然、このまま進めば止められるだろう。

ここで俺らの取れる択はざっくり言って二つある。


「どうする? 忍び込むか?」

「いや、知らぬ国でもない」


そう言うと城の門を守っている兵士に近づいていき、話し始めた。

最初は険しい顔をしていた兵士だったが、ラオが話し始めるとその表情も氷解し、笑い始める。

知り合いというのは本当らしい。


「どうぞラオ様」

「良いのか? 勝手に通して」

「ラオ様はご存じないでしょうが私、兵士長になりまして。私が案内すれば文句も出ますまい。……それに王もラオ様とお会いになりたいでしょう」

「そうか。助かるよ」


そして俺たちはあっさりと城に入ることが出来た。

すぐに入ることが出来たことと、兵士たちの表情を見るに慕われているようだ。

緊張が緩和し、頰が緩んでいる。まるでヒーローに会ったような。


「何したんだ?」

「たまたま平等教の連中と一戦交えてな」


案内されながらこっそりラオに聞いてみるとそう返された。

成程。兵士たちの慕いようが少しわかった気がした。

俺が世話になった国のあの惨状を思い出せば。



長い廊下の中。俺たちは一人の男に止められた。

目の前の男は兵士ではない。

一目で俺はコイツが普通じゃない事が分かった。この世界にしては恰好が普通過ぎる。明らかに現代風なその格好は異世界召喚の可能性という話を思い出させた。そして首にあるチョーカーは少しばかり趣味が悪そうだ。なんだありゃ、骨か?


「アンタ……ちょっと遊ぼうぜ」

「客人、何を?」


兵士長が男の言葉に代わりに答えた。

だが、悠長にしている場合じゃなさそうだ。

剣は抜かない。一応城の中だからな。鞘に入ったままの剣を振ってソレを弾き落とす。

鋭い音を鳴らしてそれは壁に突き刺さった。

良く研がれたナイフだ。壁にざっくりと刺さっている。


「別に全員ここで止まれって言ってるわけじゃねぇんだ。そこの男だけ俺とちーっとばかりお話してくれたらいいんだよ」

「王の客人とはいえ、城で刃傷沙汰は許せませんぞ」

「あー……兵士長さん? ちょっと話するだけだから。落ち着いて落ち着いて」


兵士長を落ち着かせながら、今にもこぶしを握り込んで走り出さんとするラオを手で制す。

そんな揉めてもいい事なんてない。

それに、俺もアイツには興味がある。


「行ってこい。ラオ」

「良いのか?」

「俺ぁ王様と別に知り合いじゃねぇ。お前らは積もる話もあるだろうが、な。そんなときに俺に用があるってんだ。別にいいさ」

「よろしいので?」

「良いよ良いよ行っちゃって。だから兵士長さんも落ち着いてよ」


それに俺は王様と会っても礼儀作法が分からん。

会わないで済むのならそれでよかった。


「何かあれば許さんぞ」


俺と目の前に立ちふさがる男をギロリと睨んで、ラオと兵士長は先に進んでいった。

ありゃ俺にも言ってるなぁ。

男は二人が進む間も俺の事を見つめて、何もしなかった。


「随分と楽に通してくれたな」

「言っただろう? 僕は君に用があるだけで、他に用はない」

「このまま俺が逃げたらどうするつもりだ?」

「これ、なんだと思う?」


男が取り出したのはあまりにも分かりやすすぎる爆弾らしきものだった。

黒く丸くて、飛び出した円柱から縄が出ている。あまりにも爆弾らしい爆弾。

そして本当に爆弾なのだろう。

おいおい、まさかとは思うが。


「別に逃げたって良いよ」


指を鳴らした。そして着火された爆弾は投げられて宙を舞う。

規模が分からん。だが、放置するには危険すぎる。

剣を抜いて、着火された縄を斬った。くるくると回っていて、難しかったがわざわざ着火したのならそんな簡単に爆発するようなものじゃないはずだ。少しばかり手が滑ってもいい。

なんなら別に爆発しても俺の責任じゃねぇし。


「イカれてんのか」

「イカれてるんだよ。君も同じだろう」

「お前ほどじゃねぇよ。人殺すのなんとも思わねぇだろお前」

「アハハハッ、面白い事を言うなぁ君は」


何も面白かねぇよ。































クラウン


艶々とした黒い表面に包まれ、上部に太い導火線が付いた爆弾。

偏執的なまでに綺麗に作られていたソレは一朝一夕で作り出されたモノではない。


けれど、それは人を魅了する為でも何かを破壊する為でもない。ただ単純に命を奪う為に作られた狂気の一品。

道化の名を付けられたというのに。

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