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勇者はまた眠る  作者: KURA


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35話 悪夢は跡形もなく


目を覚ますと俺は家の中にいた。

我が家にある、まぁまぁ値が張った俺のベッドほど柔らかくはないが、寝具の上に寝転んでいるようだ。

俺は町の中で倒れたはずだ。だが今俺は柔らかい寝具の上に横たわっている。

ラオが運んでくれたのだろう。

いつもの事だった。


傍らにあった剣を抜いて刃を見てみると、少しばかり刃こぼれをしていた。ちょっと無茶な使い方をし過ぎてしまったからな。怠惰のエンチャントをしていたとはいえ。

後で手入れをしておこう。

この剣は偏屈な職人の爺さんがくれた思い出の品だ。できる限り長く使いたい。


起き上がり、立ち上がって体を伸ばす。関節の固まりが長い眠りだったことを俺に教えてくれる。

体が動くための試運転を終えると、部屋から出た。

リビングまで出ても誰もいない。ラオがいるかと思ったのだが、どこかに出かけているのだろうか。

だがこの町は見た限り人がいなさそうであった。戦っている最中も人の姿は見ていない。

だから食料を調達しているのかもしれない。


家の外に出てみると毛皮剥ぎ等の処理が為された肉を手に持っているラオと目があった。今帰って来たところだったのだろう、少し血の匂いがする。

手を振るが、返してくれることも無く近寄ってきた。

ノリの悪い奴だ。といっても地球では俺はあちら側だったのだから何も言えない。

眠たいのだから許してほしいところだが。


「今回は少し長かったな」

「みたいだな。久しぶりに体ガッチガチだぜ。魔力を多く使ったからかな。ほら、首ざっくりいかれてたし」

「あれか。流石に死んだかと思ったが……助かって良かった」

「いやぁろくに寝てないのに戦闘は駄目だな、やっぱ。気が付いたらあの様よ」


あまりの不甲斐なさにけらけらと笑いが出る。

ははは、良く死ななかったよな俺。

恐らく反射で腕を動かしたんだろうが、首が飛ばなくてよかった。


つってーと、この一際大きな剣の傷はその時の傷か。

どうにもこんな傷が出来るような下手くそな受け方をした覚えがなくて不思議に思ってたんだ。

それでも爺にゃどやされるだろうが。


笑っているとラオから頬をつねられた。

とても痛い。


「馬鹿者。とはいえ俺も目の前に居たのに助けられなかったのは事実だ。力不足だった、すまん」

「ま、しょうがないんじゃねぇの俺だって反応できなかったし。謝んなよ。戦いってそういうもんだろ。憤怒って守るような魔法も無いでしょ」

「……まぁ、な。憤怒は誰かに怒りをぶつける、誰かの怒りを解放するという性質上そういった魔法はない」

「しょうがないしょうがない。反省するより足動かそうぜ。どうせすぐ出発できるようにしてんだろ?」

「あい、わかった。しばし待て」


ま、死ぬのもしょうがないさ。殺し合いなんだ。




「この町は狂王によって滅ぼされたのだろうか」


荷物を纏めて、無人の街の中を歩いているとラオがそう呟いた。

恐らくそれは事実であるだろうが……ふむ。


「そうだろうけど、ラオの思ってる風じゃないとは思うぞ」

「どういうことだ?」

「ここ、多分アイツの国だぜ。あいつがここに誘ったのか、それともたまたま迷い込んだのかは知らんがな。ほれ見てみろ、あの像を」


町の中心に近い大きな広場、そこには手を天高く掲げた男の像があった。

この男こそ狂王だ。

今アバドンから貰った目で見て確認したから間違いない。


ロルはここのことを言わなかった。

恐らく普通の手段ではここには到達できないのだろう。

それが何か条件があるのか、それとも奴が俺らをここに呼んだのかは分からないがな。んなもんどっちでもいいし。


「あの像、手が変だな。手をただ高く挙げてる像なんか見たことないぞ」

「あそこに俺らに何度も何度も振り下ろしやがったあの剣があったんだろうさ」

「あの石剣が? だが……そうか。それならばあの大きさも納得できる。あの異常な強度は魂が囚われているが故という事か」

「そういうこと。きっとあーんなでっかい像が立つくらいにゃ立派な王だったんだろうが。狂気に侵されて、あぁなっちまったんだろうな」


像は大きく立派だ。国の誇りのように広場に掲げられている。

恐らく正真正銘、民たちの誇りだったんだろう。あの王は。

だが悲しきかな、その王がこの国に血の雨を降らせたのだろう。

そしてその誇りの象徴は、悲しみと苦しみの象徴へと姿を変えてしまった。


「あいつは、倒さなければならん」

「良いぜ。その時は俺も手を貸そう。それが旅の途中でも、旅が終わった後でも、な。どうせなら武者修行してるこの旅の途中で決着をつけたいもんだが」

「いいのか? お前の体じゃ時間は大切だろう」

「いいのさ」


確かに俺の一日は人の数日を意味する。

だが、こんなにも助けられているラオのしたいことをただ頑張れーなんて応援するだけってぇのもあんまりじゃねぇの。


「義理も通さないであいつら救ったところで怒られちまうよ。それに……アイツはきっと来るさ。ちょっと負けたからってずっと逃げ隠れするようなタマじゃあない」

「次は、必ず殺そう」


言われなくても。

どうせアイツ放置してたらあいつら助けてるときに襲ってきそうだ。

旅の途中に決着をつけれるんなら話が早いってもんよ。




無人の門をくぐり、原っぱが見えた。何処か澱んだ空気が漂っていた国の中に比べて、外に出てみるとさわやかな風が俺たちを通り抜ける。

後ろを振り返ると平原が広がっているのみで、まるで全てが夢だったかのように何も無かった。

頭がおかしくなりそうだなこれ。


「じゃ、変な寄り道だったがベルフェゴールの言ってた国に向かうとしようか」

「国を抜けて場所を把握した、もう数日で着くだろう。ここほどの修羅場はないかもしれんが、気を付けるとしよう」

「逆にそういうこと言うとなんか事件が起きそうな気もするがね」


ずっと歩くのも少しずつ慣れてきたな。

特段爺は長時間歩くことに関しては訓練はしていなかったし、爺の所に行かなくなってからは特に運動もしていなかった。

人殺すのに長い時間歩くことなんてないからな、瞬発力が大事で。例外もあるかもしれないが。


「そういえばサイガ、どうやってあの致命傷を免れたのだ?」


これを聞かれると困ってしまうな。何故なら俺ですらも良くわからないのだから。ラオの表情から悪気が無いのは分かるのだが。

記憶にある限りは確かにアレは致命傷だった。

だが動けていた。


「そうだなぁ。こればっかりはやってみたらできたとしか。魔力いっぱい持ってんじゃねぇの? ほら元々特異体質じゃん、俺。それか、見た目ほど酷い傷じゃなかったのかもな」


んー魔力がなんやかんや上手いことになった……なんて解釈はご都合的すぎるだろうか?

だが実際魔力は人体を治癒する効果がある。詳しくはそういう風にも使える力だ。

恐らく、多分、メイビー、俺は魔力を多く持っているんじゃないか?


「謎、か。まぁいい。長く旅をしてお前がいたずらに人を騙すような男じゃないことは知っている。お前が分からんというのなら、それで納得しよう」

「はは、なんかわかったらすぐに言うよ」


眠気で少し記憶も飛んでるし。しょうがないよな、わからなくても。





















王の像


天に掲げた腕の手首から先が折れている王の像。今はもう名前すら忘れ去られた王国を治めた王を讃える石像だ。

大きく立派に作られたそれは民たちの人気を後世に示しているが、伝えられず、生き残らず、その国は根絶された。


その石像はその国で起きたことを全て見つめ続けた。だが、石像でしかない王は動く事は出来ないのだから。

彼の王は何を思うのだろうか。

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