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勇者はまた眠る  作者: KURA


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27話 花に嵐の例えもあるぞ


「そうか。旅に」

「短い間でしたが、ありがとう御座いました。師事していた先生には挨拶しておかないとって思ってさ」

「先生ってのは君のために魂さえも使ったあいつのことを言うんじゃないのかな」


ペネトに挨拶をしようと場所を聞いて会いに来たが彼女の顔は暗かった。

恐らく平等軍が来た時の事が影を落としているのだろう。


「あんたから教えてもらった事は確かに俺の武器になってる。それだけで義理を果たす理由にはなる」

「そうか。それは……うれしいな。復習を忘れるなよ。僕の教えは安くない」

「簡単に手放さないよう頑張るよ。んでダンにも挨拶をしたいんだが……どこにいるかわかるか」

「ああ……知ってるとも。ついてくるといい」

「助かる」


ペネトに感謝しているのは確かなことだ。

彼女に教えを請わなければ俺はもう少し魔術の習得に時間をかけていただろうし、ダンの教えだけでは理解が遅れたかもしれない。

だから俺の感謝で彼女の顔が曇るのは本意じゃない。


ついていく、その道中で彼女が口を開いた。

それはダンのことについてだった。


「あの魔法。魂を使ったもの、あれは本来の魔法といってもいい」

「本来の魔法?」

「魔力は魂の滓。魔法という言葉はこの世界では日常的になったが、本来魔法は超常的なものだった。魔法はダンが使ったアレの劣化版と言ってもいい。魔力が万能であるように、魂は全能にも近い力を持っている」

「魂を使ったら、死ぬ……よな」

「死ぬ、じゃあ済まない。未来永劫、それは無くなる。魂が死んだあとどうなるのかはわかっていないが、きっと消え去るよりかは良いものだろう。そう信じられている」

「でも、生きてるんだろう? 死んだなんて話は聞いてない」

「半分ほどを使ったらしい。魂と肉体は結び付いている。その全てを使ったのならきっと彼の体の一欠片だって無かったことだろうさ。彼の体が十全に動くことはもうないだろうがね。……あぁ責めているわけじゃない。君がこういう愚策を使わないように忠告しているんだ。いいかい、サイガ。あんなものは使うなよ。アレは人の域を超えている」


そう言う彼女の顔は責めていないという言葉の信憑性があるくらいには優しい顔であった。子供に言い聞かせるように。だが、誰に聞かせているのだろうか。その目は、ペネト自身に向けられているのではないか。

魔術の探求者である彼女が到達点である魂を使った魔法に手を出さない、なんてことがあり得るのだろうか。


確かに、忠告の意味はあるだろうが。

ダンの使った魔法それをはっきりと悲劇であると告げるためにそう言っているのだろう。

俺に使う予定はない、が必要で使えるのならば使うだろうという確信はあった。きっと使う事で二人を助けられるのなら、迷う事は無いだろう。

それを止めているのだ。

だからこそ俺はその言葉に何も言う事は出来なかった。


「着いたよ。この部屋で寝ている」

「わかった」


部屋に入る。そこにはベッドに横たわるダンが確かにいた。静かに眠っていた。

だが俺は目を疑った。人の臭いがしなかったからだ。人が人である以上、生き物である以上するはずの臭いが少しもしなかった。陶器でできた人形がそこに在るのと全く同じにすら思えた。

思わず近くに駆け寄ると、ゆっくりと彼は目を開けた。


「おう、サイガ」

「だい……じょうぶなのか、これは」

「馬鹿が。大丈夫なわけねーだろうが。だが、不思議と後悔はしてない」


そう言うと手だけで起き上がり、ベッドに座った。

体の動きに違和感を感じる。よく見ると下半身の力が入っていないようだった。


「足が動かないのか」

「おう。足の感覚と、左目と右手の握力がほぼなくなった。それに見てみろ、右手。ひび割れてやがる」


彼の右手は所々白く出来損ないのガラスのようになっていてひび割れている。

それは生命の力強さも老人の腕の弱弱しさも無く、固まった砂のような欠片も力を感じさせない虚ろのようなモノでしかなかった。


剣術の訓練の相手、魔術を複合した剣術の恩師だった彼のその姿は俺に衝撃を与えるのに十分な代物だった。

目が開き、口の中がピリピリと乾くのを感じた。

それをみてダンが俺の肩に手を置く。


「確かに色々と失った。だがこれは俺の選択だ。俺だけの結果だ。それを否定するのは、許さない。それに、今度は間に合ったらしい。最も、今の俺にはアレが最初なんだが」


その言葉に俺は申し訳なさや悲しさ、いろいろな感情がかき混ぜられて喉を通りそうになったのは謝罪の言葉だった。だが、謝るな、というのが彼の言葉なのだから無理やりに飲み込んだ。

申し訳ないという感情をひたすらに閉じ込めながら頭を下げるとその頭を彼に撫でられ、目いっぱいに目を瞑る。





「んで、旅に出るんだろ?」

「わかってたのか?」

「経験則だ。それにお前は戦って強くなるタイプだろうし」

「うん、行ってきます。帰ってくるまでに死なないでくれよ」

「どうだろうな。明日もわからん身だ。墓参りに来て思い出話でもしてくれ」

「嫌な約束をさせてくれるな」

「しょうがないだろ? これが俺の責任なんだから」


彼はそれだけは譲ることはなかった。

自分の使った魔法の代償は自分自身の負うべき責任だと言う。気にするなと言う。それを使わせたのは俺の失敗で、俺の責任だろうに。


「じゃあ、頑張れ」

「はい!」


そう言って俺は別れの挨拶を済ませ、部屋を出る。

きっと限界だったのだろう、勢いよくベッドに沈む音が聞こえた。


「どうだった?」

「墓参りには来てくれってさ」

「あいつらしい。アイツの死がどれだけ魔術界にとって損失かよくわかってないんだ」


教えられていて彼の才能というものは嫌というほどわかっていた。

だからこそそう言う彼女の言葉がなんだかおかしく聞こえて、二人で笑ったのだ。


別れ際、ペネトが呼び止めた。


「いつ出るんだい?」

「明日かな。さっき起きたばっかで挨拶したら寝るつもりだから起きれるだろうし。特に俺って、この国で友達いっぱい作ったって訳でもないしな」

「そうかい。気をつけていくといい。心配はいらないだろうけど」

「その心は?」

「僕らの生徒だ」

「何かあったら怒られそうだ。こわーい先生が二人もいる」


俺とペネトは笑い、別れた。

こういう別れもいいだろう。


明日俺はこの国を出る。

友達を助けるための協力者を作るために、そして強くなるために。

しっかりと眠ることのできる場所を探し、安眠することが俺の目標であったが、それを果たすために今心地の良い場所を手放すのだ。友達の危機に心地よく眠れるはずがあろうか。

二人を助けて、ようやく俺は何の心配もなく瞼を閉じることが出来るのだから。


























右手のカケラ


衝撃が与えられると砂のように崩れてしまう、人体だったもの。

たんぱく質などの有機物で構成されているはずの人体が、砂のようなケイ素に近いものへと変貌している。

コレは戻す事は出来ず、治すことも出来ない。

覆水盆に返らず。

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