16話 魔力の開放
「時に君、魔術……いや、魔法というものはつまり何だと思う? 君の中で魔法という概念はどう定義されている?」
「魔法……人体に備わっているエネルギーを変換して使用する方法」
「間違っちゃいない。……だがその答えに丸はつけ難い。そうだな、蒙を啓かねばならないか。君は魔法を人体に備わっているエネルギーを使うものだと言った。ではそのエネルギーの正体は何だ? 一体どこから来ている? 食物か、空気か、それとも」
魔力。未だよくわからない謎の力。
当然この質問の答えがあるというのならば、発生源の分からない不可思議なものではない。
ならばこの力というものはどこから来たものだろうか。
「魂?」
「何故、そう思った?」
「体の中に魔力が作り出される器官ってないと……思うんです」
「それは物理的に存在しないという話だね?」
「はい。俺の世界じゃ魔力なんてものは身近じゃなかった。少なくとも俺が知っている限りでは。なら物理的に肉体に備わっている所から魔力が発生しているなら魔力を持っている俺は身体が変わってないとおかしいんです。臓器一つの重さって大きいと思うんです」
「ふむ。知らなかっただけというのは? 元の世界にいる時から君の体の中には魔力を作り出す臓器があったとしたら君は気付きようがないだろう」
「それは……そうです。でも確認しようがないので考えから外しました。この世界と俺の世界で共通して存在していて、それでいて非物質的な物。それは魂だと思いました」
そして俺が魂と言った時ペネトはその言葉を理解した。鎌をかけたようになってしまったが、つまり魂という概念はこの世界にも存在するものである。悪魔達にしか分からない高位的な何かではないのだ。
正しいかどうかは分からないが、俺の出せる最大限納得の出来る答えはこれだった。
「素晴らしい。正解だ。魂というものは火のように見える……らしい。僕には魂は見えないし、認識する事すらできないから悪魔たちが言っているのを信じる他ないのだがね。そしてそこから生じる燃えカスこそが、僕たち魔術師が愛してやまない魔力であると考えられている。この魔力を使うのが魔法だ。魔法を使うのは簡単だ。この世界では言葉を喋る事の出来る歳の子供ならば極小のものではあるが使える」
そういうとペネトは指を鳴らした。
すると立てていた人差し指の先に蝋燭ほどの炎が灯された。
それは爪に直接ついているというわけでもなく、猫型ロボットのように爪の先からほんの少し浮いている。
熱くないのだろうか。ほんの少しの隙間があるとしてもその距離はとても近い。炎に直接当たらなくても炎は熱い。ヒーターや焚き火なのがそうであるように。
ならば熱いのではないかと思ってしまう。
「そんな心配そうな目で見ないでもそんなに熱くないよ。これは僕の指が燃えているんじゃない。僕の指先にある魔力が燃えているんだ。魔力が少ない子なんかが真似をすると指を火傷するんだけど……君は大丈夫か。でも疲れている時はしない方が良いよ」
指の先についていた炎を吹き消すと彼女はまた指を鳴らした。
すると彼女の横の地面から黒い板が生えてきた。地面から出てきたというよりは、鍾乳洞が生成されるようにゆっくりと作られたように感じた。
黒板替わり、という事だろうか。
「さて今度は魔法と魔術の違いについて考えようか。この黒板やさっきの炎が魔法。石柱が魔術。この違いとは如何に?」
「言葉による効果の確定。イメージを用いた魔法と言語を用いた魔術ですか」
「ふむ……いいだろう、正解だ。魔法と魔術、その両者は決して違うものじゃない。魔法の中に魔術がある。どれ何か出してみるといい。石や炎なんかは後処理が楽でいいよ」
魔法……か。
体の近くに炎を出すのは怖いな。火傷はとても治りにくい。後に引く怪我はしたくない。これから力をつけるにあたって火傷を負うのはとてもまずい。
石を出すか?
石……石……石。石柱というのはとてもイメージを浮かべにくかった。石の表面は石の材質によって違うし、大きさ、重さなんかもいまいち想像するには情報が足りない。
デッサンやモデリングでもしない限りは石柱自体をまじまじと見ることはない。
やはり形を認識していなくともできる炎の方が良いだろうか。石よりも形が定まっていない炎の方が楽に感じた。
ならば鬼火のようなイメージをするか。浮かぶ炎。
イメージするものを決めた俺は指を鳴らす。人差し指の先に炎が出るようにイメージを作った。
「ん? 少し……小さい?」
人差し指の先には想像したよりも二回りは小さい極小の火が作られていた。
指で消しても火傷しなさそうなほどに小さい。
「あー、魔法を使わない世界ってのは本当みたいだね。魔力が全然動かせてない。とりあえずは魔力を動かす練習をしようか」
ペネトはそう言って俺の肩に手を置いた。
すると肩の処から広がる彼女の手ではない違和感を少しずつ感じ始めた。
「わかるかい? これが魔力だ。目を閉じて、これを感じてみてくれ」
目を閉じてこの違和感に集中する。
ずっとそれに集中していると、それは次第に水に絵の具が少しずつ溶けていくようにゆっくり、ゆっくりと広がっていった。
それが広がりきってもはや違和感を見失った頃、俺は目を開いた。
「なんか……気持ち悪い感覚ですね」
「はは、無理もない。他人の魔力には拒絶反応が出る。魔力に慣れていないのにやるとそりゃそうなる。どうだい? 感覚はつかめたかい」
「なんとなくは。……うーん」
それよりも目眩が少し酷かった。
掴めたような気もしない事もないのだが、目眩が思考をほどいていく。
「ちょっと魔力で酔ってそうだね。魔力は魂の燃えカス、生命力の塊。変に扱えば体調は悪くなる。ま、これもいい勉強になっただろう? 他者の魔力は慣れてないと毒になりうる。数年少しずつ摂取すれば慣れもするだろうけどね。そんな奴はいないけどさ」
感覚の話になるが、きっと彼女が俺に入れた魔力は少量だ。
だが、こんなにも気分が悪いのは俺が魔力を全然使ってこなかったからだろう。
「さて、今日はこれくらいにしておこうか」
「課題は、なんでしょう」
「そうだねぇ。今日君がやろうとした魔法を使えるようになっている事。質問があるならブライから言ってくれれば回答しよう。授業は終わり、お疲れさん。ゆっくり眠り給え」
そう言われた瞬間俺は体を襲っていた違和感と体の力が抜けていくのを感じた。集中していたからか眠気に気が付いていなかった。
あ、コレ気絶だ。そう察した頃には俺はもう視界の半分が地面に支配されていた。
もう体は寝ようとしている。少しだけ脳は動いているが、もはや体は言うことを聞かない。
ゆっくりと目を閉じる。
「んー、どうしようかな。僕じゃ運べないぞ」
そんなペネトの声が聞こえた気がしたが、定かではない。
魔力
生命力の源。魔法を使うために必要不可欠な要素。魂の燃えカス。
魂と精神は強くつながっているため、枯渇すれば酷く衰弱してしまう。
全能には遠く及ばないけれど、万能のエネルギー。




