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勇者はまた眠る  作者: KURA


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13話 傲慢

ギルドマスターが案内をしてくれた。てっきりベルフェゴールが目的地を提案したものだと思っていたんだが、彼が俺をここに連れてきたようだった。

ひときわ大きな建物、恐らく城と呼ばれる類のものであろうそれに入りそこの廊下を進んでいる道中に質問をしてみた。。


「そういえば今までギルドマスターって呼んでたが……その……ほら、もうあの国のギルドはないだろう? なんて呼べば良い?」

「ガル。まぁ……なんて呼ぼうと構わん。仕事上あんまり長くも関わらんだろうしな」

「何も分からん頃に助けてもらった人をどう呼べば分かるかってのは大事だろ? 例えもう会わなかったとしても。……で、どこに連れてかれるんだ、俺は」

「そんなに使ってないから分からんとは思うが……そういうもんか。俺の上司の所だ。此処に住むなら手っ取り早いし、何よりアンタの連れと同じ手合いだ」

「んー。まぁ、そうだね。その認識で間違い無いんだけど、厳密に言うなら違いもするんだよね。サイガなら分かるだろう?」

「俺なら分かる? あぁ、そういうことか。つーことは傲慢か」

「流石、正解。人間に試練をもたらす悪魔さ」


権能からもたらされた知識はこの世界の歴史だった。

その中には七ついる悪魔たちの情報も当然ある。

それは個々の情報というよりは何故悪魔達が生み出されたというもので。


それによると傲慢は初めから人類に……いや生物に試練を与えるために生まれた存在だ。

彼のその存在の芯ともいうべきものは試練、つまり何かを得るためには何かを為さねばならない、というもの。

等価交換とすら思えるソレが彼の悪魔だった。


そうやって知識を頭の中で反芻しながら歩いていると廊下の奥に人影が見えた。

ベルフェゴールはそれを見てため息をついた。

ガルさんは頭を抱えている。

反応からこの人影が話に出ていた傲慢の悪魔であるという事を察した。


傲慢の悪魔……確か地球ではルシファーだったか。

神の最高傑作にして神の敵対者。

現代の日本では名前だけが独り歩きしている気もするが、実際の存在はどういったものなのかは俺はあんまりよくわかっていない。

それに俺は日本生まれでそういうのは実際疎かったというのもある。

あいつら……オタクだからこういうの喜んだだろうな。

二人の影が脳裏をよぎる度に鼓動が微かに早まり不安を感じた。



「お初にお目にかかります。私の名はルシファー。担当するは試練。以後、お見知り置きを」

「客人を迎えに来られるのは困ります。この国の主であるということを自覚してもらわないと」

「おかしなことを言うね、ガル。私は彼を私が迎えるほどの存在だと認めたんだ。私はこの国の主である前に試験官だ。つまり、来ない訳にはいかないのさ」

「諦めなさい、ガル。魚に二足歩行しろと言ってるようなもんだから」


純白の髪に赤い目。

悪魔というよりは神聖さを感じるその姿だが、引き込まれるような美しさはまさしく悪魔らしいとも言えた。

真っ黒な服が白い髪に映えている。

やはりルシファーか。ベルフェゴールもそうだが悪魔の名前は俺の世界と同じらしい。


「俺の名前は才賀。えらく好意的な対応におっかなびっくりしてるよ。こちとら薄っすらとしかアンタの事は知らないからな」

「貴方は私に力を示しました。平等教枢機卿の撃退。私が迎え、話すに値するモノです」

「何でそんな知ってんのとかは聞かない。アンタはそういう存在だろうし、話が早くて助かるからな。だから聞く、ソレを受ける資格は俺にあるか?」

「推奨はしません。時間は限られていますから。貴方の体質を考えると特に。止めは致しませんが、枢機卿の撃退という功績は、私が貴方に強くなれるよう導く事も可能でしょう」


ルシファーは功績を以て人類に報酬を与える。

つまりは強くなれるよう誘導されることが俺にとって今最適解なのだと勧めているのだろう。


「んん……ぐうの音も出んというか明らかな最適解をドンと出されると、すげぇ都合の良い状況なのに腑に落ちないというか何というか。いや、助かるよ。ルシファーが良いならそうしたい。……アンタって友達いる?」

「私は試験官ですから。親しまれないモノです。当然それだけのことを為し、そう望むのならば私とも友人関係になる事もできるでしょうが」


そういうところだぞという言葉は呑み込んだ。

果たしてこの男はどこまで見通しているのだろうか。

彼の眼を見ていると俺の中を見透かされているようにさえ感じてしまう。それはどうにも恐ろしい事で身が竦んだしまいそうになる。

だがルシファーは今のところ敵ではない。それが最重要だった。

確かに今の俺に国と真正面に戦い合う力はない。ここで少しでも力をつけられるというのなら、そうするさ。


「ま、俺は嫌いじゃないぜ。ところで寝室はどこだ?」

「ガル、案内を頼んでも?」

「分かりました。埋まってるところはありますか?」

「全て空いているよ。君の事だから忠告は要らないとは思うが、君は有能だから言うよ。この事は気をつけて話してね。そう安易に口を開いているとは思っていないけれど、ね」

「了解。心配しなくとも俺はアンタの知ってる通りの人間ですよ。サイガ、こっちだ」

「あーい」


ガルさんにルシファーは釘を刺した。

大罪人というのがどれだけの意味を持つ情報なのか未だ俺には掴みきれていない。


ベルフェゴールも彼と話したいことがあるようで、俺もさっさとガルさんについていく。

俺は緊急で聞きたいことなかったし、何ならちょっと眠たかった。

それにクンシラとの戦闘、慣れない馬車の疲れは未だ俺の体に溜まっていっている。それを溜め込み続ければ……俺は一体目が覚めるか分りゃしない。

二人が囚われている今、冬眠をするなんてごめんだ。

こまめに寝ておくことが、一日程度で睡眠時間を抑えるのに重要になるだろう。





二人は、才賀たちの足音が遠ざかると彼らは歩き始めながら話し出す。

歩く速さを緩めることなく、悪魔の会議が始まった。


「相変わらず、大きな国だね」

「これでも平等教の影響が少しずつ大きくなってきて苦心しているんだ」

「ま、そうだろうね。知ってるとは思うけど此処に来る前に慈悲と会ったよ。今は枢機卿は何人いるの?」

「七人だ。慈悲……彼女はその中でも一番の武闘派。そして過激派だ。……目的は?」

「確証はないけど異世界人の回収。というか気付いてなかったんだ」

「成程。道理で」


ルシファーが扉を開け、部屋の中で椅子を引く。

そしてベルフェゴールがその椅子に座った。


「彼の道は苦難に満ちている、全てを見通す事は出来ないが」

「アンタがそんなことを言うのは珍しいね」

「私といえどこの世界に馴染んで久しいからね。それに、分かるだろう? 異世界召喚というのはそういうものだ。私たちとしては頭が痛い話だがね」

「楽な人生を送った大罪人を見た事ある?」

「違いない」


二人は笑いあった。ルシファーが棚からワインを取り出す。最高級とは言えないものの上等であることは間違いない。

彼がワインのラベルを見せて、ベルフェゴールに飲むか問うがそれに彼女は首を振って応えた。

グラスにワインを注ぎ一口、ルシファーは飲む。


「酒なんてよく飲むね。酔えもしないだろうに」

「酔えなくたって味はするだろう? 現世を楽しむコツさ」

「悪魔の中で一番人間離れしてるアンタがよく言うよ。長い時間がそうさせたのかい」

「今回の傲慢は吸血鬼でね、長い間この世界に留まっていられている。だからこそここまで大きな学園を作ることが出来たのさ。彼らも育ってきたってことだ。うれしいよ」


うれしそうな顔でワインをまた一口飲み、彼は心底嬉しそうに彼女に語った。

傲慢の大罪人は吸血鬼で、定命のものではない。魔のものだ。

その強さゆえに、その数の少なさゆえに大罪人が魔のものから選ばれない。今代の大罪人はその珍しい例の一つだ。

けれど今回は特異な個体であったがために傲慢の罪に選ばれた。


「吸血鬼……ふぅん。いいじゃない。この国に?」

「そう。学園にいる。彼が学生じゃないのは残念なことだけどね」

「そうなの? 魔術って最近出てきた技術だろうし、長く生きてても学びやすそうだけど」

「君も知ってる通り私はここに長くいる。まぁ、惜しむらくは彼は魔術の才は無かったようだね。果てのない研鑽の道には進まなかったんだ。……そしてサイガくんは彼に良い刺激をもたらす。良い事だ」

「相変わらず誰と話してんのか分かんない目で喋るじゃない。人間相手には化けの皮が剥がれてないようで何よりだけど。さて、近況報告ありがとう。これでもう十分かな」

「それで……仕事を、と思ったが明日にした方が良いか」

「そうね、今日はもう疲れた。今日の分のタスクはもうオーバーってもんよ」

「あぁわかってる」


ベルフェゴールが疲れた体を伸ばし、血行を促進するように立ち上がる。


「彼のこと、よく見ることだ。またあの時代を繰り返さないためにも、ね」

「言われずとも」

「鍵のかかってない部屋を使うと良い。何より大きい城だからね、空き部屋は結構あるのさ」


ベルフェゴールの背を見送り、また一口彼はワインを飲んだ。

けれど彼の頬は少しも赤くはなく、思考は澄み切っていた。

最後に少しだけグラスに注ぎ香りを楽しむと、その少量のワインを一息に飲み干した。














大罪の記憶1


世界に初めに二つの存在が産まれた。後に神と呼ばれるその二つの存在はただ世界を見守っていた。

生命が生まれ始め、地に満ち始めると彼らはそれを愛した。

だが、彼らの指先は生命にはあまりにも大きすぎたのだ。

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