第2章・円山
一行は百間川に沿ってゆっくりと進んでいった。
春の終わり頃、川の水量は冬よりもずっと豊かになっていた。
川面に降り注ぐ陽光が、風によって無数の銀色のきらめきへと砕かれていた。
道はそれほど広くなかった。
片側は川と田畑。
もう片側は、次第に高くなる山並みだ。
時折、腰をかがめて働く農夫の姿が見える。
武士の行列が通り過ぎると、彼らは一斉に手元の仕事を止め、頭を下げて道を譲った。
行列が遠くへ去るまで、彼らは再び作業を再開しなかった。
遠く。
山の輪郭が次第にはっきりとしてきた。
一人の家臣が馬を駆って近づいてきた。
「殿下。」
「もう少し先が、金光家の明禅寺城です。」
「予定通り、訪問すべきでしょうか?」
馬に乗った宇喜多直家は、すぐには答えなかった。
ただ、前方の山並みを眺めているだけだった。
何かを思案しているようだった。
しばらくして。
彼は淡々と言った。
「その必要はない。」
家臣はわずかに驚いた。
直家は続けた。
「そのまま通り抜けろ。」
「道中の領地、村落、城塞、すべて記録しておけ。」
「巡視の命を受けた以上、宗景様のためにしっかりと見ておくべきだろう。」
「はい。」
岡利勝は小声で応じた。
そしてさらに声を潜めて言った。
「ただ、後ろにいる浦上の目付たちは……そう簡単には承知しないだろうな。」
直家はそれを聞いて、軽く笑った。
「利勝。」
「前方は円山か?」
「その通りです。」
岡利勝が答えた。
「円山を越えれば、明禅寺城だ。」
直家は頷いた。
直家の口元がわずかに持ち上がった。
「それなら、まずは円山へ行こう。」
彼は指を差し出して前方を指し示した。
「伝令。」
「円山で馬を降りろ。」
「俺が山に登って見てくる。」
そこまで言うと。
声がわずかに途切れた。
「ついでに――」
「後ろの連中をあまり近づけさせるな。」
言葉が終わるやいなや。
ムチが空気を切り裂く音が響いた。
鞍下の戦馬が猛然と加速した。
数騎がすぐに追従した。
砂埃が舞い上がった。
瞬く間に後方の隊列をある程度の距離まで引き離した。
岡利勝はゆっくりと手綱を引き締めた。
それ以上進むことはなかった。
彼は馬の向きを変えた。
静かに後方の隊列が追いつくのを待った。
ほどなくして。
山道の果てに、浦上一族の姿が現れた。
先頭の武士は、前方の隊列が突然止まったのを見て、すぐに馬を走らせて近づいた。
「どうしたのだ?」
やって来たのは、まさに浦上家の与力――高取備中だった。
岡利勝は手を合わせた。
「我が殿は、円山でしばらく留まるつもりだ。」
「百間川の地形を視察するためだ。」
「大したことはない。」
高取備中はたちまち眉をひそめた。
「視察か?」
「出発前にはそのような予定はなかったはずだ。」
「今日の目的地は明禅寺城だ。」
「金光家にもすでに通達がある。」
「今になって急遽ルートを変更するのは、少々不適切ではないか?」
岡利勝はただほほえんだ。
「高取様、誤解されています。」
「目的地は変わっていません。」
「巡視の責務とは、そもそもその場その場の状況に応じて臨機応変に行うべきものです。」
「ましてや――」
彼はゆっくりと口を開いた。
「今回の巡視奉行は、そもそも我が殿下ご自身なのです。」
「諸君はただ同行して補佐するに過ぎないのです。」
場の空気が一気に重くなった。
数名の浦上の家臣たちが、一斉に前方の山道へと視線を向けた。
誰もが理解していた。
この同行の旅。
決して単なる巡視などではないのだと。
宇喜多家は確かに備前へと戻ってきた。
しかし、依然として真に受け入れられたとは言えなかった。
かつて浦上家臣団から追放された後、
再び帰還の機会を得られたのは、
その大きな要因は、浦上政宗一派の支持があったからだ。
しかし今、実権を握っているのは宗景である。
宇喜多直家に対して。
彼は決して心を開いたことはなかった。
山風が吹き抜ける。
人々の表情はそれぞれ異なる。
出発の前。
ある者には追加の命令が下されていた。
ただ、ここでそれを口にする者は誰もいない。
高取備中は冷たく口を開いた。
「奉行の名において。」
「人を威圧するためにあるわけじゃない。」
「宗景様も、お前たちが勝手に全員を動員していいとはおっしゃっていません。」
岡利勝は相変わらず平静な表情を崩さない。
「高取様。」
「もし諸君が受けた命令が、我が殿下のもとは異なるのであれば――」
彼はほほえんだ。
「それは面白いことになるな。」
その言葉が落ちると。
全員が同時に沈黙した。
高取備中の表情がわずかに曇った。
結局、彼はただ冷ややかに鼻を鳴らすだけだった。
「口先だけの真似はよせ。」
「行け。」
「後を追え。」
その頃。
宇喜多直家はすでに円山の麓にたどり着いていた。
彼は馬から降りた。
顔を上げて山頂を見上げた。
「山へ登れ。」
傍らにいた数人が一斉に馬から降りた。
そのうちのひとりが、直家の左後方に素早く近づいた。
まさに花房正成である。
直家は、皆の張り詰めた様子を一瞥した。
思わず笑みを漏らした。
「ここは戦場じゃないんだぞ。」
「何でそんなに緊張しているんだ。」
皆は互いに顔を見合わせた。
誰も口を開かない。
直家は首を横に振った。
先頭に立って山道を踏み出した。
花房正成は半歩ほど遅れて歩いた。
しかし、その視線は道沿いの村々、川、そして山並みを絶えず見渡し、まるで目の前のすべてを黙って記憶しているかのようだった。
山道はそれほど険しくなかった。
だが、歩きやすいわけではなかった。
前夜に雨が降ったばかりだった。
土はまだ完全に乾いていなかった。
足元からは時折、小石が転がり落ちてきた。
森は次第にまばらになっていった。
視界も少しずつ開けてきた。
風が木々の梢を通り抜ける。
低くざわめく音がする。
道中。
直家はほとんど口をきかなかった。
皆も静かに後をついていく。
時折、足音と鳥のさえずりが響くだけだ。
山が徐々に高くなるにつれ。
百間川が視界に入り始めた。
最初は川面の一部だけだったが。
やがて次第に広がっていった。
そしてついに。
一行が山頂にたどり着くと。
広大な平野が眼前に広がった。
百間川はまるで銀色の長い帯のように。
大地をゆっくりと流れていた。
集落。
渡し場。
田畑。
道。
すべてが一望できた。
数人の家臣は思わず足を止めた。
たとえ初めてここに来たわけではなくても。
目の前の光景に圧倒される。
山風が顔に吹きつける。
人々の袖を揺らす。
直家は山頂の端に立ち、
長い間、黙り込んでいた。
しばらくして、
直家は平野を見つめ、
突然口を開いた。
「正成。」
「もし誰かがここを占拠したら、
どうなる?」
花房正成は少し考え込み、
そして答えた。
「百間川を見渡せる。」
「近くの村や渡し場も一望できる。」
直家は頷いた。
視線を両側の山並みに向けた。
花房は続けた。
「左には操山。」
「右には笠山。」
「互いに呼応し合っている。」
「もし兵馬が動けば、ここから隠すのは難しいだろう。」
直家は軽く笑った。
「良い場所だ。」
山頂から風が吹き抜けた。
直家はしばらく沈黙した。
そして、まるで独り言のように言った。
「こんな場所が……」
「他人の手に渡るなんて。」
「やはり、少し惜しい。」
一同はしばらく言葉に詰まった。
ただ、花房正成だけがわずかに顔を上げた。
直家の視線を追って、遠くの平野を眺めた。
しばらくして。
再びうつむいた。
まるで何もなかったかのように。
ふと。
山風が一瞬止んだ。
森は再び静寂に包まれた。
その直後。
遠くからかすかな罵声が聞こえてきた。
途切れ途切れに。
まるで風に乗って運ばれてくるかのように。
皆が一斉に振り返った。
山道の先には、誰の姿もない。
ただ、森が風にそよいでいるだけだ。
しばらくして。
再び声が聞こえてきた。
今度はもっとはっきりと。
誰かが走っているようだ。
そして、誰かが追いかけているようだ。
数人の家臣が、無意識に刀の柄に手を当てた。
空気が一気に張り詰めた。
直家はゆっくりと振り返った。
視線を、声が聞こえてきた方向へと向けた。




