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第一幕 瓶長 【三】

春先。

桜の蕾が膨らみ始めるころ、主人公・世羅は週に一度の城への出仕へ向かっていた。

そこで怪異の仕事を受けることになる。

聞けば、他の領地から怪異対応の応援要請があったという。

珍しく領地を離れ、同じ寺で育って既に独り立ちをしている兄貴分であり、『怪異監視官』という職に就いている符術師・狩弥と共に向かうと、そこは水の怪異が起きていた……。

       【三】


 世羅は白い狐の半面(はんめん)を付け、重い足取りで城への道を進む。

 まだ城に辿り着いていないが、既に街中でも立派な石垣(いしがき)の上には赤茶色の瓦が特徴の天守閣(てんしゅかく)(そび)え立っているのが見えている。

 城の周囲には敵に(そな)えるため、町から流れる川を利用した堀が()かていた。

 さらに跳ね橋が降りない限り中に入る事も出来ず、橋を渡れたとしても曲がりくねった通路が続き、一部の壁の上方部分にいくつか穴があり、そこから矢を射かけられる造りだ。それらを越えてやっと城へたどり着く。これはどの領地の城にも見られるものだった。

 世羅が行く頃には跳ね橋はちょうど降ろされていて、悠々と渡り始めると、馴染みのある霊力を感じて口をへの字に曲げた。

(……げぇ、狩弥(カリヤ)兄さんが来てるじゃん)

 狩弥とは、世羅と同様に寺で育った特殊能力や問題を抱えた子供のうちの一人だ。

 寺で育った子供達は既に巣立ち、今は世羅一人だが、そのうちの数人は末っ子の世話を焼きに来ていて面識がある。寺の住職であり養父である白露(ハクロ)と同じく、血の(つな)がりは全くないが、世羅は「兄さん」、「姉さん」と呼んで慕っていた。

 狩弥も随分(ずいぶん)前に巣立ち、今は帝都の符術師の組織に所属し、故郷であるこのメノウ領に派遣された符術師の一人として領主の元で怪異解決の仕事に従事(じゅうじ)している。

 世羅も個人で怪異の仕事をしているため、兄姉達の中で一番狩弥と親しく、兄貴分であり仕事仲間でもあった。

(もう、また厄介事(やっかいごと)の予感……)

 世羅が嘆息し、さらに近づくと詳細が感知できる。

 城の奥にある庭に、狩弥と一緒に男性が一人いる。彼と世羅の上司であり、城の城主でもある、メノウ領領主だ。

呪具(じゅぐ)系統は無し。話してるみたいだけど、これは仕事かなぁ……)

 世羅は、霊力を持たない代わりに、人並み以上に霊力の源である『霊気(れいき)』や、霊力を感じ取ることができ、さらに訓練で霊気を操れる。霊気の流れから物の形を読み取り、目を閉じても障害物にぶつからずに生活できるぐらいだ。その感知能力の高さが影響して、彼女は見えない存在……霊体や隠れたツクモなどを『()る』力が開花している。

 それが世羅の特殊能力『見鬼(けんき)』だ。

 さらに足取りが重くなりながら、長い通路をひたすら歩いて城門へたどり着くと、厳格(げんかく)そうな門番が二人いる。

 世羅は懐から帝国の太陽を模した家紋(かもん)が入っている印籠(いんろう)を取り出し、彼らへ見せた。中には神器使いの登録書が入っている神器(じんぎ)使いの証だ。

「専属符術師の檜皮世羅です」

「お疲れ様です、檜皮様。上様(うえさま)からの伝言で……」

怪異(かいい)監視官(かんしかん)様が来てるんですね。裏手に向かいます」

「え……あ、はい。お願いします」

 (さえぎ)られた門番が面食らうが、すぐ頷いた。

 世羅は頭を下げて慣れた様子で門をくぐると、背後から(ささや)き声がした。

「なんで監視官が来たって分かったんだ? それに場所まで……。やっぱあのガキ、気味悪いぜ」

「腕は確からしいがな……」

「火傷があるから面をつけてるらしいけど、むしろ不気味になってるよな」

(悪かったな)

 世羅は門番たちの話し声に顔を(しか)めた。

 火傷を見たら見たで陰口を叩くのだろう。だったら不気味だろうとお面をした方がマシだ。

 人の偏見とはなんて面倒なんだろうと、つらつらと考えながら庭に敷き詰められた玉砂利を踏みしめ、立派な本丸(ほんまる)御殿(ごてん)の裏手へと周る。

 裏手は広々とした()(えん)があり、庭に降りる階段もついている。その階段を降りると砂利が敷き詰められた広場となっていて、奥には小さな池に石の橋が設置され、さらに庭を真っ直ぐ抜けた先に立派な(くら)が三つ並んでいた。

 庭は手入れが行き届き、松や桜などの樹木や四季に応じた草花も植えられている。

 その中でも特に、春が近づいていると知らせるかのように桜の(つぼみ)がぎっしりと枝を埋め尽くして垂れ下がっている。あと数日もすれば咲き始めることだろう。

 世羅は迷いのない足取りで庭を進み、濡れ縁の階段の辺りへ行く。

 ここの城主は朝餉(あさげ)のあとに庭を眺める習慣がある。このため、挨拶や話をするのも庭や濡れ縁の事が多いのだ。

 感知したとおりに、二人の男性が濡れ縁の傍で立ち話をしていた。

 踏みしめる砂利の音を聞きつけて、二人が顔を向ける。

「おはようございます」

 世羅が(さき)んじて挨拶して頭を下げた。

「おはよう」

 外見年齢は四十代前半ほど。明るい茶髪はざんばらに短く切られ、角ばった輪郭(りんかく)無精(ぶしょう)ひげの所為か、(にら)むと子供が泣くという(いか)つい顔をしている。

 茶色い着物と袴、黄色い羽織は素人から見ても上等な布で作られていることが分かる。

 そんな彼の立派な二本角の左側に嵌め込まれている金の輪が陽光を受けてきらりと光った。

 この角の輪っかは通称『(つの)()』と呼ばれるもので、結婚の証だ。

 他国では金属や宝石で装飾した指輪が証だが、彼らは角も種族としてお洒落する事が多く、既婚(きこん)の証も角に付ける風習がある。

 既婚者の印は左の角に付けるが、一本角の場合もあるため、それに加えて金色の角輪なのが証だ。だから、装飾品として主流なのは銀や鉄、他の宝石類となっている。

 輪、と名称に付いているが、大人の角は生え変わるたびに曲がったり、枝分かれしたりと様々な形状になっていくため、ただの『輪』だと途中で引っかかる。そのため手枷(てかせ)足枷(あしかせ)のように割れ目があり、角の付け根にはめ込む形式になっていた。

 つまり彼が既婚者なのだと一目で分かる。

 彼こそ神器使いであり、帝国内でも有数の武人でにして、世羅の主君。

 メノウ領領主・刈安真虎(カリヤス・シントラ)だ。

 二人のすぐ傍で立ち止まると、真虎が思い出したように声をかけた。

「そうそう。来たら話しておこうと思っていたことがあったんだ。先に言っておこう」

「なんでしょう?」

「檜皮も十四歳になって、大人にもなったことだし、遠征も出来ると『上』が判断してな。今年から神器使いの会合(かいごう)に参加するよう書状が来てる」

「え……」

 嫌な話を聞かされ、思わず声が出た。

 帝国には他の国にはない独特の法律がいくつか存在する。

 その一つが『神器法(じんぎほう)』だ。

 神器使いとツクモに関する法律の総称で、帝国に跋扈(ばっこ)するツクモを倒し、神器を得た者は国の法律により登録する義務がある。

 有事(ゆうじ)(さい)の助っ人など、国の仕事に従事しなければならないが、様々な特典もある。能力を使いこなせず暴走して被害が出ないよう、実力者に訓練する機会を国が作ったり、国からの依頼を受けて報酬を得たり、相応の実力者なら高い地位にもつける。

 登録には、悪事を働かないか監視するという意図も含まれ、登録していなければ国に(あだ)なす無法者(むほうもの)として他の神器使いが討伐(とうばつ)に来る。

 (よう)は『強い力には相応(そうおう)の責任を(ともな)う』ということを、神器使い達に自覚させ、反抗、悪事に使わせないための抑止(よくし)の法である。

 そして、神器使いは春先にある建国記念日に帝都に集まり、皇帝に挨拶をし、共に一年の祈願を行う行事に参加するのも義務付けられているのだった。

 神器使い同士の情報交換も()ねているため、通称『会合』と呼ばれている。

 世羅は最年少で、まだ遠方(えんぽう)の帝都までの旅も困難と判断され、今まで召集を免除されていた。

 というのも、メノウ領から帝都へは片道で七日もかかる。理由は大荷物の上に家臣や使用人など大勢での大移動となり、しかも徒歩だからだ。

 建国記念日は一か月後なのだが、同じ武家同士の挨拶など帝都でやらねばならない事が多いため、早めに行かねばならないらしい。往復だけでも大変なのに、長期間の滞在(たいざい)となるのだ。これはさすがに子供にはきつい。

 ちなみに鬼人の成人年齢も他種族の中で一番遅い五十歳。

 寿命千年と考えるとかなり早いようにも思える年齢だが、十年に一歳の割合(わりあい)で歳を取るから、平均で見た目が大体二十代になるのが五十歳前後とされているために(さだ)められた成人年齢だった。

 初潮や声変わりして大人になったと言っても、体は成長しきっていない。逆に成長速度が緩やかになるし、鍛錬(たんれん)しないでいると体力の付き方も遅いから子供同然だ。

 だから世羅もきちんと体が成長するまで……少なくとも成人するまでは呼ばれないと思っていたのだ。

 人前には極力(きょくりょく)出たくない世羅の心境も把握(はあく)している真虎も申し訳なさそうだ。

「仕方あるまい。陛下も最年少神器使いに早く会いたいんだろう。いつかは神器使いとしての義務を果たさねばならんのだ、我慢してくれ」

「あ、いえ……」

「その面でも素顔でも目立ってしまうしなぁ。とはいえ、神器使いは顔に傷がある者も多いし、特殊な体の者もいる。少し話してみるのも知見を広めるのに良いと思うぞ」

「はい……」

 世羅が恐縮(きょうしゅく)そうに肩を(すぼ)めて(うつむ)く。

 面をつけていても態度が丸わかり過ぎて、主君に気を(つか)わせてしまった。気を付けねばならない。

 真虎が続ける。

「令状は今すぐ渡してもいいが、きちんと形式に(のっと)った渡し方を覚えるのも兼ねて、明日もう一度来てもらおう。保護者の住職も一緒にな。知らせておいてくれ」

「承知いたしました」

「その時にも話すが、帝都はココからだと遠いから、出立は四日後だ。もう少し早めに伝えられればよかったのだが、檜皮の赫紙が来たのが昨日でな。儂らは毎年だからもう準備も出来ておったんだが……急ぎですまんが、準備しておくように」

「……はい」

 世羅が首肯する。

 そして気持ちを無理矢理切り替えた世羅は、次に真虎の傍にいる男性を一瞥(いちべつ)した。

「ところで……『いわく付き』を持ってないということは、仕事ですか」

「さっすが檜皮様です! 言う前に当ててくれると話が早い!」

 彼女が嫌そうなのも完全に無視し、もう一人の男性が両手を胸の前で合わせて嬉しそうに独特なおどけたような口調で声を上げた。

 チリン。

 彼が少し動くと、耳についている小さな鈴の耳飾りが涼し気な音を立てた。

 名を東雲狩弥(シノノメ・カリヤ)という。世羅の兄貴分の一人だ。

 外見年齢は二十歳前後に見える。

 赤い三角形の(かさ)(かぶ)っていて、口元は白い布で(おお)っている。首筋まであるその布には『黒い三日月にかかる黒い雲』の模様が描かれていた。両耳には小さな鈴の耳飾りがぶら下がっていて、それが小さな音をさせているようだった。

 服装は筒のような袖が特徴の黒い着物、下は黒い(はかま)で足元は(きゃ)(はん)で縛って動きやすくしてある。その上から膝まである白い羽織を着て、白い布帯(ぬのおび)で縛っていた。その羽織には左右の胸の部分……そして世羅からは見えないが背中には、口の布と同じく『三日月と雲』の模様が黒く染められている。

 背中には薬や物品を持ち運ぶ行商人(ぎょうしょうにん)が使う紐が付いた箪笥のような箱。これは『背負(せお)箪笥(だんす)』と呼ばれるものだ。

 今は笠と口の布で顔は全く見えないが、世羅は顔も知っている。

 髪は白に近い金髪。前から見ると短髪のようだが、首筋の後ろの一束だけ長く、白い紐できつく結んでいた。瞳は湖を思わせる青緑。角は右の額から一本だけ伸びていた。

 そしてその顔立ちは、目も鼻も口も、人形かと思う程に精緻な位置で、詩的にいうなら天女のような美貌をしていた。

 他人行儀な様付けに敬語の狩弥に違和感があるが、主君の前だからだ。

 狩弥は手を合わせた両手を商人のように揉み手をした。

「そろそろ来る頃合いだと思って待っていたのですよ。ええ」

 世羅が大袈裟(おおげさ)な身振りの彼を見上げる。

「で、今回は何したんです」

「えー? なんであたしが起こしたように言うんですか。あたしは怪異見つけて来るのが仕事なんですってば」

 狩弥が人差し指を世羅の前で振って見せると、彼女は面の奥で目を()わらせた。

 世羅が信用のない視線を送っても仕方のない事だった。

 彼の特殊能力は『魔性(ましょう)』という。

 狩弥は絶世の美貌(びぼう)のため、それだけで()れられやすく、非常に迷惑をしていた。顔も隠さず町中を歩けば、老若男女問わず頬を染めて振り返るほどだ。

 しかも彼を見たり、傍にいるだけで、理由も分からず、無性に彼が欲しくて、欲しくて、欲しくてたまらなくなる。ツクモならば、美味しそうに見えるのだとか。

 これが『魔性』の所以(ゆえん)

 意識して制御できる能力ではないため、その力を防ぐために特殊な布面でほとんどの顔を隠した上で、体の輪郭(りんかく)に沿って結界の膜で力が()れないようにしてある。さらに万が一のために、能力の(とりこ)になってもすぐに解除される術を付与された鈴を耳につけ、やっと日常生活が送れているのだ。

 このため、仕事以外で自身が巻き込まれた怪異に関しては、助けを求めて寺や世羅の店に駆け込むこともしょっちゅうなのだった。

 狩弥は肩を(すく)めてため息を吐いて見せた。

「実は檜皮様に手伝っていただきたい案件がありましてね。急いでハリ領まで行かねばならなくなりまして、火急の案件の為、檜皮様の式神の力をお借りしたいのですよ」

「ハリ領? 管轄外(かんかつがい)ですよね」

 世羅が首を傾げる。

 彼が所属しているのは月夜衆(つくよしゅう)

 コクヨウ帝国皇帝に仕える符術師の組織だ。言うまでもなく符術師の最大組織であり、帝国が誇る最強の軍隊『コクヨウ帝国炎陽(えんよう)軍』と双璧(そうへき)()す。

 戦闘は炎陽軍、怪異は月夜衆。

 一般人からもそう認識されている有名な組織だった。

 そして彼の役職の正式名称は、メノウ領管轄怪異監視官。

 月夜衆の仕事は怪異から祭事(さいじ)に至るまで多岐(たき)に渡り、もちろん分野によって役職もある。その一つに『怪異』が起きたら即座に動けるよう、配属された領地を常に巡っている者達がいる。

 怪異が起きれば現地で領地の衛兵や役人と連携(れんけい)して情報収集をし、無理のない範囲で解決できるなら解決する。それが無理なら、管轄する領地の領主か、帝国の本陣(ほんじん)の月夜衆へ報告するのが役割だ。

 その報告を受けて、皇帝や領主が精査(せいさ)し、ようやく神器使いやその怪異に関した専門の符術師に仕事が回って来る。この順番が世羅には遅すぎると思えてならないのだった。

 他にも、その原因になった代物や、ツクモの体の一部、ツクモが(つく)ったモノの回収。地方に伝わる伝承や怪談話の蒐集(しゅうしゅう)、そしてその怪談話を市民に語り、怪異や化け物への対処法(たいしょほう)周知(しゅうち)させる役割もあった。世羅も町中で彼が「怖い話」を語っているのを聞いたことがある。

 彼の身振りが大きく、大袈裟なのも話を聞かせる時の癖が抜けないためだ。

 ハリ領は世羅達が住むメノウ領の西側に隣接(りんせつ)している領地。世羅の言う通り、彼は管轄ではないはずだ。

 狩弥が困ったように後頭部を掻く。

「いやねぇ……ハリ領の監視官から要請(ようせい)が来ましてね。どうやらハリ領の領主様のお城で問題が発生して、担当監視官たちが動けないそうなんです。で、メノウ領の国境沿いで大規模な異変が起きたから手伝ってくれ、ってな話でしてね」

「……お城の方はいいんですね?」

「それは気にしなくていいです。どうせ自業自得でしょう。目も当てられないほど性根が腐ってても〈十二闘将(じゅうにとうしょう)〉なんですから、自分でなんとかしますよ」

 さらっと毒を吐いて片手を振った。

 さすがに世羅もハリ領の領主が闘将なのは知っていた。

 〈十二闘将〉はコクヨウ帝国独自の法律で決められた最強の武人達の総称だ。

 鬼人は戦闘能力が高く武を重んじるため、法律にも多大な影響を及ぼし、『神器法』と同じく、帝国固有の法律で他国にはない制度で君主を決めていた。

 その名も、『強者制(きょうしゃせい)』。

 弱肉強食がものをいう、『強い者ほど上に立てる』という制度。

 これは百年に一度、国中の強者百人を選りすぐって集め『百鬼御前試合』を行い、その優勝者が皇帝になるというものだ。

 ちなみに、領主も同じく十年に一度、その領地で大会が開かれ、その優勝者がなる。

 その由来は、鬼人の感覚でも長い、二千年前のこと。

 かつては『コクヨウ王国』という国名で、王制(おうせい)()かれていたことから始まる。

 もちろん王制だから、王族の世襲制で国を統治していたのだが、たった一つの王族は民を奴隷にして極悪(ごくあく)非道(ひどう)に酷使し続け、高額の税を課し、自分達だけ贅沢(ぜいたく)三昧(ざんまい)で民たちを飢えさせた。

 それを見るに()えかねた『十二人の武士』が率いる部隊が反旗(はんき)(ひるがえ)し、王族をその地位から引きずりおろし、下剋上(げこくじょう)が成されたのだ。

 偉業を成した十二人は〈十二闘将〉という敬称で(たた)えられ、十一人を纏めていた者はそのまま『皇帝』を名乗り、国も『帝国』に改めた。

 その折に二度と一つの一族のみの支配にならないように、独自の法を敷いたのだ。

 それこそが、『強者制』だった。

 王制を敷かないなら、選挙で選ぶ民主制にすればいいと思うかもしれない。

 だがそこは『戦闘種族』。言葉でどれだけ訴えかけてもなかなか響かない。

 やはり力にものを言わせがちな性質から、最も強い者が上に立つ方が納得するし、安心するのだ。

 『百鬼御前試合』で上位十二人が、かつての英雄達になぞらえて、そのまま敬称を使用し、皇帝一人、側近十一人の構成で武家となって名を連ね、百年間統治する。

 そして闘将は、帝国最強の呼び声高いコクヨウ帝国炎陽軍の全十二部隊の隊長を務める義務があり、皇帝に至っては第一部隊隊長兼総隊長。

 つまり、コクヨウ帝国は完全な軍事国家だった。

 ちなみに闘将の中には役職を複数兼任することが多く、領主をしている者もいる。ハリ領領主もその一人だった。

 そのハリ領の領主の序列は十一位。

 十二人の中では低いものの、『闘将(とうしょう)』という名はそれだけで悪人たちを震え上がらせ、ツクモも警戒して怪異も起き辛くなり、領民たちの信頼を得るだけの力がある。

 しかも真虎も元十二闘将の実力者。現在は()しくも序列十三位……闘将に何かあれば動く立場であり、ハリ領主にとっては大先輩でもある。

 狩弥は視線を()らした。

「それに、子供には説明したくない性格の御仁(ごじん)なんですよ」

「怪異でしたら聞きますよ。これでも一応大人ですし?」

 世羅は結構なお節介だ。仕事ではなくても怪異や困った者を見たら首を突っ込まずにはいられない。これは世話好きかつお人好しの養父の影響なのだろう。

 食い下がる妹分に、狩弥が主君へ一瞥した。

 すると真虎が(せき)ばらいをする。

「いいか。奴は女を見たら声を掛けずにはいられない、無類(むるい)の女好きだ。自分の屋敷の女中だろうと、人妻だろうと、成人してない若すぎる少女だろうと夜の相手をさせようとするクソ野郎だ。そんな奴の周りで起きている怪異の話なんぞ、詳しく聞きたいか?」

「あ、いえ、結構です。東雲様が持って来た仕事の話をしましょう」

「解かればよろしい」

 あっさり引き下がった世羅に頷き、真虎は狩弥へ続きを(うなが)した。

規模(きぼ)の大きな怪異が起きたというが、調査してから話を持って来るのが基本だろう。調査の前に檜皮の力が必要なのか?」

「ええ。前情報で『水の怪異が起きた』と聞いてます。もし水関係で、作物がやられていたら、往復している時間も惜しいです。春先で田植えも始まりますからねぇ……何より、水と解かってるなら、指名するのは一人だけですし」

「なるほどな」

 納得した真虎が頷き、世羅を一瞥して命令を下す。

「檜皮。東雲と共にハリ領に向かい、怪異を(しず)めて来い」

「……承知しました」

 世羅が頭を下げると、真虎は先ほどの威厳(いげん)ある雰囲気から打って変わって、子供のように好奇心旺盛に瞳を輝かせる。

「ふふ。今回はどんな怪異だろうか。儂も行きたいんだが」

「「やめてください」」

 兄妹が口をそろえて止める。

 真虎はそんな小さなことで怒ったりしないし、妙な趣味を持つ城主(じょうしゅ)としても有名だった。

 彼は軽く三百年はこの土地を統治している明主(めいしゅ)なのだが、怪異に関するモノの蒐集(しゅうしゅう)するのが趣味なのだ。

 庭の奥の蔵には、自分が買い取ったり、監視官が集めた蒐集物が収められている。

 とにかく不思議な事が大好きで、怪異を経験した者を城に呼び、それを聞いて本に書き記したり、自分で見に行こうともしていて、家臣達は辟易(へきえき)しているのだ。

 メノウ領は世羅を含めて専属符術師も他の領主より多い。これも彼が蒐集したモノで怪異が起きやすいからだ。

 狩弥も性格を理解しているため、軽くなだめすかす。

「ちゃんとあたしが怪異話をお聞かせし、もし呪物があれば持ちかえりますから」

「むぅ……仕方ない」

 口を尖らせる真虎が諦め、二人はほっと胸を()でおろすのだった。

今回は法律の話をがっつりしました。長い……文章が、長い……。

そしてやっと話も動き出します(遅)。

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