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第三幕 ろくろ首 【三】

赤子の怪異の解決後、数日が経った。

一か月もの間、悪夢にうなされていた愛悟は、限界が近かった。

名家・白藍家の当主と娘の姫君の捜索を急ぐ中、一か月前に起きた流産事件の話を聞く。

一方、城で起きていた複数の女中の行方不明と物品の窃盗の事件も進展があり、二つの事件が同一の組織の犯行だと分かる。

盗まれた物は闇市で売られ、女中達は遊郭に売られていた。その名簿の中には……。

       【三】


 世羅(セラ)に連れられて四人は用意されていた客間へ入った。

 既に座布団が七人分……上座(かみざ)の位置に二つ、少し離れた下座(しもざ)に五つ配置されていたが、部屋には誰もいない。

 下座の一番端に世羅が座り、彼女の隣に狩弥(カリヤ)愛悟(アイゴ)、上座に向き合う形でカルマと、その部下の男性が座る。

 居住まいを正した世羅は、聞かれる前に全員に告げる。

「シンジュ領領主様が先に入城されたんですが、上様……刈安(カリヤス)様が色々と領主としてお話したいとのことで、別室にてお話し中です。話しが終わり次第、今回の件の話を始めますので、しばしお待ちください」

 その『領主としての話』が何か含みがあるのだろうが、領主の立場でない世羅には分からないため、主君の言ったことをそのまま伝えた。

 頷いたカルマが提案する。

「せやったら、来るまで他の話でもしようや。物凄く気になってたんやけど、門で窃盗(せっとう)が起きてるって話やったやん? ワイは謹慎中で知らへんねん。城で窃盗ってホンマに?」

「はい。献上品(けんじょうひん)が少しずつ盗まれていたそうです。数を合わせて蔵に入れた後の物を盗んでいたので、気付くのが遅れたそうです」

「うへぇ……気付いたきっかけは?」

「えぇっと、別件で捜査していた闇市の品物に、献上品として一点もので作った代物が売られていたのに隊員が気付いたのがきっかけだそうで」

「ふぅん。犯人は一点ものだと気付かない素人なんやろな」

「で、他にも任期を終えた女中が何人も行方不明になっていることが判明して、箝口令(かんこうれい)を敷きながら捜査していたそうです」

「はぁ!?」

 世羅の説明にカルマが驚愕(きょうがく)の声を上げ、部下の男性も絶句する。

 そもそも国一番の厳重さを誇るこの城で犯罪が起きること自体があり得ないのに、行方不明者まで出ているなど前代未聞だ。

「この城で? ホンマに言うてる?」

「はい。偶然、行方不明の女中の友人が連絡してきたそうです。『故郷に帰って来るって連絡が来てたのに全然帰ってこないが、何か知らないか』と。それで調査して発覚したそうで。音信不通になっている者は確認が取れただけで七人はいるそうですよ」

「七人!?」

 仰天するカルマに、世羅が一から説明していく。

 窃盗と誘拐は同一犯であり、複数の使用人が関与していて、その裏には犯罪組織が一枚噛んでいたようだ。

 どうやら使用人たちはその組織に借金をしていて、犯罪の実行犯をやらされていたらしい。

 そして女中は、天涯(てんがい)孤独(こどく)で家族からの連絡が国に届かない者を選んでいた。コレに関しては、国の方針で家族を頼れない者を優先的に採用し、仕事をたくさん覚えて今後の仕事先を増やし、生活に困らないようにするための配慮(はいりょ)だった。

 さらに、任期を終えた者は、今まで世話になった者達と最後まで一緒にいると後ろ髪を引かれてしまうということで、『新たな門出(かどで)』として城から出る時は誰にも会わないように全員が寝静まる夜中に出て行くのが国の風習となっていた。

 そこを悪用し、夜中に女中が出てきたところを誘拐していた。周囲は出て行ったと思い込むから探すこともないというわけだ。

 犯行方法に唖然としつつ、カルマが詰問する。

「……で、女中は外で待ってればいいとして、献上品はどうやって運び出したん?」

「食材を運ぶ時に使う箱を使ってたらしいです」

「食材の箱?」

「ええ。城の住人が多いので毎日大量の食材を運び込むでしょう? その時に使う箱は、食材を出したら箱だけ調理場の外に置いておき、翌日の食材運搬で持ち帰って、また食材を入れて運ぶ、っていうのを繰り返していたんです」

「うん。そうしないと勿体(もったい)ないし」

 カルマが首を傾げると、世羅が人差し指を立てる。

「で、門番も毎日大量の箱を持ち帰ってるし、商人とも顔見知りの為、中の確認を(おこた)っていたんです。持ち帰る箱は(から)だという先入観が(あだ)となったようです。ちなみに用心のために薄い板で(ふた)をして二重底(にじゅうぞこ)にはしていて、捕まえた女中も後で大きな行李こうりの中に入れて、町中も堂々と通ってました。もちろん食材を用意している商人も加担しての犯行です」

「――……」

 カルマが天井を振り仰いで片手で目を(おお)う。

 あまりにも単純かつ、悪辣(あくらつ)な犯行だ。

「いやぁ、おっかないですねぇ。っていうか、箝口令を敷かれてるのに檜皮(ヒワダ)様はやけに詳しいですよね? もう城の者も全部知ってるってことです?」

 ずっと黙っていた狩弥の質問に世羅は首を横に振る。

「大騒ぎになっても困るので使用人たちにはこのまま秘密にしておくと思いますよ。不安を(あお)ることにもなりますし」

「あー……確かにそうですね」

「私が知ってる理由は、お手伝いを頼まれたからです。ちょうど任期が明ける女中がいて、無理に頼んで(おとり)になってもらう手筈(てはず)で、任期の話を城に広めて犯行を(あお)っていたそうなんです。で、女中も危険ですし、私がいたので、符術(ふじゅつ)で偽者を作ってくれと」

「あ、形代(かたしろ)のことですね。人の一部……髪や爪を使って怪我や病の『肩代わり』をさせる術なんですが、その人物とそっくりの姿に出来るんです」

 狩弥がすかさず補足(ほそく)を入れ、世羅が頷いて続ける。

「その偽者を使って、どういう風に犯行が行われるのか監視してまして。そうしたら、偽女中が裏口から出たところを使用人に捕まりましてね。その上、献上品も盗まれて箱に入れているのを感知したので、それも一緒に報告して、あとは本業の軍人様にお任せしました」

「ん? 待って、感知って何なん?」

 世羅の説明に不明な点があり、カルマが首を傾げる。

 すると彼女は話が()れても余裕の笑みを崩さず答えた。

「私は幽霊や隠形おんぎょうしているツクモなんかもえる能力があるんですが、その他に生まれつき大気に漂う霊気(れいき)や属性の霊力を感知出来るんです。この力で使用人の動きや、箱の中身を当てたわけです」

「霊気で感知? 確かに気配を察知するとか、鍛錬(たんれん)で霊気を操れる人はおるって聞くけど……箱の中身を当てるとか、そんなこと出来るん?」

「あら、信じられませんか? 竜胆(リンドウ)閣下(かっか)の……」

「あ、カルマでええんやで? 他にも竜胆姓がおるし」

「はい。えー……カルマ閣下の袖に小さな風車(かざぐるま)金平糖(こんぺいとう)の袋を入れてらっしゃるでしょう? そちらの部下の方はでんでん太鼓(だいこ)(そで)に」

「「…………!」」

 急に指摘されて二人が目を見開いて息を()んだ。そしてそれぞれ彼女の言った通りの物を取り出して見せる。狩弥は慣れたものだが、愛悟も声を出さずに驚愕している。

 子供が持つような物を持っていた事も不思議だが、二人は無言で袖に入れ直し、カルマは苦々しい顔をする。

「疑ってたわけやないけどね。門でも兄上へ妙な指摘してたもんな。ってことは、世羅ちゃんにはなんでも筒抜けなわけかいな」

「いえ、なんでもではありません。ツクモや眷属がある事をすると、見破れません」

「ある事?」

「鬼人の体を丸ごと食い尽くして、肉体も戦闘能力も記憶も霊力も鬼火の形も――何もかもを手に入れて、その人物に成りすます、『()()わり』というのがあるんです。これが怪異の中で一番苦手なんです」

 世羅の話で想像してしまったのか、愛悟がぶるりと肩を震わせた。

 一方、軍人で幾度もツクモと対峙たいじの経験があるカルマは顔を(しか)めて頷いた。

「あー、ワイもあれは嫌いや。一番厄介やもんな。ま、記憶を保持しても性格がおかしかったりして分かることも多いけど……でも、なんで見破れへんの?」

「霊力を感知する能力なもので、ツクモの霊力が上書きされていると、分からなくなるんです。見た目も鬼人ですから尚更なおさら見破れないというわけで……っと、話しが()れましたね」

 世羅は咳ばらいをし、話を戻すために思い起こす。

「……えっと……そうそう、捜査状況なんですが、囮捜査のおかげでそのままアジトも突き止められて、第九、第十部隊が現行犯逮捕したというわけです」

「なるほどなぁ……」

 話を戻されカルマが何度も頷いて納得すると、世羅が視線を逸らして遠い目をする。

「でも、犯罪組織の首領が、武家が関わってるって臭わせてるようです。現に城での犯行なんて、使用人を丸め込んでいようと武家の手引きでも無ければ蔵にも入れないでしょうから、今は犯人達から女中達の居所と首謀者の名前を吐かせているところです」

「……昴流(スバル)優駕(ユウガ)が相手なら犯人共が可哀想やなぁ。今頃酷い目に()ってるやろ」

 カルマが口の(はし)を吊り上げて笑うと、世羅はそれに関して答えずに進める。

「門番は仕事をしてなかったということで、その時刻を担当している門番達は解雇かいこ、他の門番も厳重注意の上に減給。改めて規則を厳守するよう長い説教の末に厳命のお達しが出たわけです」

「そらそうなるわな」

 カルマが大きく頷くと、世羅が不意に障子の方へ首を巡らせた。

「……おや、話しが終わったらちょうど上様達が来られましたね」

 思わず部屋の全員が息をひそめてしまうが、何秒経っても来る気配はない。

 しかし、十秒ほど経った辺りで、ドスドスと廊下を歩く音がして、声も掛けずに障子が開けられて二人の男性が入って来た。

 それを見上げてカルマが生温い顔をする。

「うへぇ、感知能力たっか……ホンマに神童っておるんやな……」

「ん? なんだ?」

 何も知らない真虎(シントラ)が首を傾げると、世羅が口に笑みを張り付けて見合げた。

「来られる間に窃盗と誘拐の事件についてお話しておりました。その折に私の能力も少々話しまして、上様が来られることも先にお教えしたんです」

「ああ、そういうことか。コレの能力はそれだけじゃないぞ。怒らせるなよ、カルマ」

 真虎が注意をすると、空いた座布団に座る。

 共に来た、見たらすぐ高価だと分かる緑がかった茶色い着物を着た男性も隣に座ると、真虎が部屋の面々に紹介する。

「こちらはシンジュ領の領主、璃寛慶(リカン・ケイ)殿だ」

 慶と呼ばれた男性が全員に向かって平伏(へいふく)する。

 外見年齢は四十代ほど。

 短く切った薄茶色の髪に、三白眼(さんぱくがん)の黒い瞳の男性で、額に一本角を生やしている。少し丸みのある輪郭に鬼人にしては背が低く、左目の下にホクロがある他は特に特徴のない男性だった。

 彼を皮切りに順番に自己紹介をし、最後に名乗った愛悟へと慶が涙目で見つめる。

「あなたが、愛悟さん……」

 慶は愛悟へと顔を向け、頭を深々と下げる。

「この(たび)は本当に申し訳なかった」

「え、あ……」

「刈安様から連絡が来てから、なぜ私の元へ来なかったのか疑問に思って部下に調べさせると、門番が門前払いし、報告を(おこた)っていたと分かったんです。あなたには本当に苦労させてしまって、申し訳ない」

 慶からの事情を聴き、狩弥が隣を一瞥(いちべつ)する。

「最初はシンジュ領の領主様のところへ行った、ってことでいいです?」

「あ、はい……ご相談しようと思ってました。白藍(シラアイ)家は元シンジュ領領主ですし……でも元使用人で、異変が確定してない状態でしたし、信用されなくて門前払いされまして……」

「故郷の領主に頼る判断は妥当(だとう)なんですけどねぇ」

 納得はしたものの、呆れも混じらせて狩弥が肩を落とす。

 この時点で発覚していれば、もっと違う結果になったはずだ。

 愛悟が使用人の平民だったことや、信憑性が無さ過ぎたこと、慶の部下が上への判断を(あお)がなかった事がとてつもない痛手(いたで)になってしまった。

 話を聞いていたカルマも眉間(みけん)(しわ)を寄せる。

「また門番かいな。さっきも門番の不手際(ふてぎわ)の話を聞いたばっかりやで」

「各領地に関しても言えることだから、今回の会合での議題になるだろう。この件に関しては慶殿には(いま)(がた)、説教をしたんで後々改善していくはずだ」

 真虎が鼻を鳴らすと、慶が背中を丸めて(うつむ)いた。遅かった理由はこの話をしていたからということだ。

「あの時の門番は解雇(かいこ)しましたし、家臣の教育も再徹底(さいてってい)します。どうかお許しを……」

「え、そんな、あの方は真っ当に仕事したと思い……」

「いいえ、仕事をしてるとは言い難いです」

 狼狽(ろうばい)する愛悟に、間髪(かんぱつ)を入れずに狩弥が糾弾(きゅうだん)する。

「まず門番にも手順があって、話しを聞いて、入れるか入れないか決めるんです。で、入れるなら持ち物の検査もする。今回の場合も、はた目から見たら守ってるように見えますがね、元領主で名家に関する話ですよ? 間違いなく上へ判断を仰がなければなりません。独断で追い返すなんて信じられない話です。しかも上に事後(じご)報告(ほうこく)すらしないのは言語道断です。解雇どころか、死刑もあり得ます」

 狩弥の解説に、慶も鷹揚(おうよう)に頷いた。

(おっしゃ)る通りです。門番がきちんと報告をしていれば、こんなに動くのが遅れることはなかった。白藍家の事でしたら、すぐに通して話を聞いていました。白藍の前当主様が存命(ぞんめい)の頃は、私も政治に関して相談をよくしていましたし、今の状況も心配しておりました。それに朽葉(クチバ)家は私にとっては本家に当たる血筋ですからなおのこと、聞かねばならなかったのに」

「ほう? 璃寛様は分家なのですね」

 ハリ領の領主であり闘将である朽葉家の内情を全く知らない世羅が声を上げた。他は武家であるため当然の知識だし、狩弥に関しては仕事柄で勉強しているし、愛悟に至っては故郷の領主の家柄ぐらい頭に入れている。

 そして察しのいい世羅は続ける。

「ということは、朽葉家を紹介したのは璃寛様ですか?」

「はい……朽葉閣下の女癖は存じておりましたが、ご長男の方は誠実で父君とは大違いなのです。それで、里桜(リオ)姫を紹介しても大丈夫だと判断したのです」

 詰問される前に、紹介した理由もしっかり教えた慶が目を伏せた。本気で心配し、後悔している雰囲気は十分に(にじ)み出ているが、世羅は容赦しない。

「どれだけ女癖が悪いか見たことはありませんが、城にその朽葉閣下がおられるなら、息子様と結婚してもどの道、危険な事には変わりないのでは?」

「私もそれを危惧(きぐ)して、婿養子としてご長男がシンジュ領へ来るのを条件として仲介役(ちゅうかいやく)をしたんです。そういう話で進んでいたはずなのに、今回の知らせでハリ領へ姫と当主様が向かわれたと聞いた時には絶句しました。朽葉閣下へ問い合わせても音沙汰(おとさた)がなく……どうやら怪異が起きたとは情報が入りましたが」

「怪異……ああ、そういえば、ハリ領へ仕事で行った時に、そんな話がありましたね」

 思い出した世羅が、その後の情報を求めて狩弥へ首を巡らせると、彼は肩を竦めて見せた。

「内容は分かりませんよ。ただ、まだ解決できてないってことと、朽葉様もこの騒ぎでさすがに帝都へ来られる予定だってことだけ聞いてます。未解決状態なので、きっと出番がきますよ、檜皮様」

「……仕事でしたらやりますけど。帝都に来てから色々とやってますし、そろそろ、報酬を貰いたいところですねぇ」

「それなら考えておくから、しっかり解決してくれ」

 店を経営する世羅の要求に、すかさず真虎が了承を示す。

「では情報収集をしておきましょう」

 頷いた世羅が懐から霊符を取り出して口元に近づけて小さく(ささや)き横へと放った。霊符は障子の僅かな隙間(すきま)をするりと通って見えなくなる。

 それを見計らって、真虎が咳払いをして注目を集め、カルマを見つめた。

「さて、こっちの話もしたし、そろそろ帝都で何があったか聞きたいが?」

「…………せやな。ワイも分からない事はあるけど、起きた事を話そう」

 カルマは僅かに目を伏せるようにして、事の顛末(てんまつ)を話し始めた。

お待たせしました……次の話を続けて載せるか区切るか悩んでましたが、区切ります。その代わり、ちょっと早めに載せますね。


一と二を読み返したら漢字の誤字や意味不明な文章があったので修正。

何度読み返しても出て来るの、なんでだぁぁぁ……。

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