表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天狐の嫁取り〜千四百年待った伴侶は、虐げられ侍女でした〜  作者: じょーもん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

25/30

第二十五話 僕のお嫁さんになって?

「あの勾玉は、壊されてしまったのですか? 力だけ抜き出して、どこかにしまわれているとかはないのですか?」


 茜は鹿奈媛から差し出された、あのほのかな光を宿す勾玉を思い出しながらたずねる。

 夢喰みのもとで、数々の宝物を見てきた茜だったが、あれほどの翡翠は後にも先にもお目にかかったことがない。

 瑞々しく、新緑を思わせるあの美しい玉が、もうこの世に無いとは受け入れがたいことだった。


 しかし、真広は首を横に振る。


「いや、残念だけど、玉は壊されていると思う。

 そうでなければ、あんなにきれいに力が分散して代々忌部の血に宿るなんて、ちょっと考えられないんだよ。

 三の姫の持ち物で、あれと同等の玉器は無いだろう?」


「……そうですね。お嬢様の持ち物は、すべて私が管理しておりましたが、見たことはありません。」


「まあ壊した玉を、この屋敷か、村のどこかに納めた、という可能性はあるけど……

 どっちみち、壊れたものは、二度と元には戻らない。」


 真広は、腕を組み押し黙って何やら思案にふける。

 やがて、思いつめた暗い瞳で茜を見つめると、両腕を広げて抱擁を求めた。


 素直に寄って来た茜を、しっかりと抱きしめて、髪を撫で、顎をすくうと深く口づける。

 真広の手のひらは髪から背へ、背から腰へと撫でおろされ、

 彼女の輪郭を確かめる手つきは、まるで逃がさない、と言っているようだった。


「茜……僕、ちゃんと君に言っていないことがある。

 もしかしたら、もう勘づいてるかもしれないけれど、でも、全部後でちゃんと言う。」


「真広さま?」


 顔はごく近くにあるのに、真広は目をそらしたまま、合わせようとしない。


「僕ね、この村に来たのは、茜を迎えるためだったんだけど、

 それとは別に、忌部の一族から、鹿奈媛の残したものを全部取り戻すって目的もあったんだ。

 それでね……」


 真広は、目をそらしたまま、何度も言い淀んで、

 それからやっと、茜の目を見た。


「僕は、これから、忌部の奴らにすごく酷いことをする。

 鹿奈媛をボロボロにして死なせた天足も、その墓を暴いた成親も、今の忌部家の連中には関係ない遠い昔のことかもしれないけど、鹿奈媛の力で繫栄している時点で、僕はやっぱり許せない。

 酷いことだってわかっているけれど、ちゃんと最後の逃げ道も用意するけれど――」


 ゆっくりと、茜の頬に指を這わす。

 茜は息をつめて、次の言葉を待った。


「こんな僕を、嫌いにならないで。

 僕は、どこまでも残忍になれるけど、絶対に茜は裏切らないし、君なしでは生きられない。

 千四百年生きたのも、いつか君にまた出会えるって信じていたから、なんだよ……。」


「真広さま……」


 真広は唇で茜の口を塞ぎ、言葉を遮る。


「茜、もうすぐ僕たちは嫁選びを終えて、大山へ帰る。だから、おねがい。

 僕と一緒に、大山へ……天狐の里に来てくれない?

 なにも不自由させないし、ほしいものは何だってあげる。何より大切にするし、僕は君しか伴侶にしない。」


 今度は茜がじっと真広の目を見つめる。

 真広はそわそわと不安げに何度もまばたきして、首を傾げた。


「これは――、求婚されているのですよね?

 私、前世はともかく、今は神通力も何もないただの人間ですけれど――、それで良いのですか?」


「うん。良い。

 僕のお嫁さんになって? ずーっと一緒にいてください。」


 真広の表情がパッと明るくなる。

 その変わり身の早さに、茜は思わず苦笑した。


「……諦める気も、断られる気もないんでしょ?」


「うん、だって、茜、僕の事好きって言ってくれたから、断らないでしょう?」


 真広はもう一度茜に口付けると、力いっぱい彼女を抱きしめる。


「ふふふ、そうと決まったら、さっさと片付けちゃおう。

 帰ったら、新しい屋敷を用意しよう。朝も夜も、ずっと茜を独り占めして……

 ねぇ、子どもは何人欲しい?」


「は? はいぃ?!」


 飛躍する真広に、茜は思わず声が裏返った。




 +++++




「おめでとうございます、天狐さま。ご伴侶選びの最終段階に入りましたこと、心よりお喜び申し上げます。」


 満面の笑みを浮かべ、露骨に揉み手を隠しもせず岳彦は言った。


 真広と茜が約束を交わしてから、数日も置かず、

 天狐一行がやって来た時の大広間に、一同が集められた。


 上座には空也が天狐として座り、真広は他の従者に混じって少し後ろで澄ました顔をしていた。


 それと相対するように、

 相変わらず蒼い顔をしておびえた様子の天眼、

 何やら自信満々の夢喰み、

 呆けた顔で明後日の方向を見つめる御座、

 そして、ニコニコと上機嫌の吉彦がなぜか並ぶ。


 茜は夢喰みの後ろに控え、

 主を失った小萩は吉彦の後ろに控えていた。


 ――真広さまも空也さまも、一体何をするというのかしら……


『何があっても動じず、口を挟まないように。君は何も知らない振りして、見ててほしい。』

 真広から固く言われたことを思い出しながら、茜は腹の中で思う。


 真広は、自分を信じてほしい、と何度も懇願したが、とうとう核心は最後まで話さなかった。



「うむ。長い滞在期間、ずいぶん世話になった。」


 空也は岳彦に鷹揚に頷くと、姫たちの方へ向き直る。


「まずは、小萩殿、茜殿……我が従者たちの伴侶として、里に招きたい。」


 空也に呼ばれて、茜は小萩と共に前へ進み出る。

 これはあらかじめ申し合わせていたことで、二人とも驚くこともなく、

 手順通りに天狐たちへ頭を下げた。


「続いて、忌部吉彦――」


 次に呼ばれたのは吉彦だった。

 岳彦は少し意外な顔をしたが、吉彦も織り込み済みだった。


「おまえは、我が伴侶の捜索において、協力し、よく働いた。

 よって、その尽力に報い、こちらを遣わす。」


 空也が合図すると、従者の一人が文箱を捧げ持ち、吉彦の前へと進み出る。


「中を見ても?」


 吉彦が待ちきれないとばかりに確認すると、空也は苦笑交じりにうなづいた。


 文箱の中に入っていたのは、古びた紙や、竹簡や木簡の断片だった。


「ほうほう、これは――、風土記の断簡に、古事記の草稿……物語の原本に、貴人の手紙――」


 ざっと目を通しながら、確認するたび吉彦の目が輝いてゆく。


「我が里に流れ着いた文献の数々、気に入ってくれたかな?

 まあ、我々が持っていても、無用の長物なのでな――、好きにするがいい。

 里への出入りも許可しよう。」


「ふははははっ、ええ、ええ、大いに使わせていただきます!

 って、まだ何か面白いことに、一枚噛ませてくれるんですか?」


「ああ、荷物持ちに呼ぶぞ。」


 天狐と吉彦の、気安いやり取りに驚いたのは岳彦であった。


 岳彦は、吉彦が何をしていたか、ほとんど把握していない。

 欲といえば知識欲ばかりで、権力にも、金にも興味のない次男は、早々に見切りをつけて好きな事をさせておいた。

 むしろかわいがって、期待していたのは兄の篤彦の方で――


 ――もしや、天狐さまは、忌部家の跡取りを吉彦とお決めになったのか?

 なるほど、篤彦は詳しくは言わなかったが、天狐さまの不興を買って早々に東京へ帰ってしまった……。


 岳彦の中で、確信が膨らんでゆく。


「天狐さま、我が息子・吉彦がお役に立てたようで何よりです――

 これからも吉彦は天狐さまのお里へ出入りできるとのこと……これは、吉彦がご加護を得た……ということでよろしいのでしょうなぁ?」


「そうだな。」


「さようでございますか。そうしましたら、吉彦を忌部の跡継ぎに据えましょう。

 ぜひ、今後とも、忌部の繁栄にご助力くださいませ。」


「ああ。」


 空也が何気ない表情のまま答えると、その背後で真広が思わず、にやりと笑った。


 吉彦の厚遇は、もちろん彼の情報収集や、忌み宮での荷物持ちに報いたものだっが、

 彼だけを厚遇すれば、先般の篤彦の一件もあり、岳彦が跡継ぎを変えるのは明白だった。


 ――吉彦は、金にも権力にも興味がない。いや、金があったら、きっとすべて研究に費やすだろう。

 もし彼が成功したとしても、岳彦の理想とする忌部家では、もはやいられまい。


 ――まあ、もちろん、天狐の里に来た際は、面白い課題を与えて、散々焚きつけてやるけどね~。



「そして――、最後に私の伴侶だが――」


 空也がやっと姫たちに目を向けた時だった。


「はい」


 澄んだ声が大広間に響く。


 スッと手を上げたのは、夢喰みだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ