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お公家の事情 火にも水にもわがあらなくに  作者: 英じゅの
鶯餅と海老しんじょう
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狐の説明

「ふー、うちは毛の飛ぶのはダメだと知ってるよな。元の場所に戻して来い」

「オコジョの次は、狐と来たか。四属性は、妖ホイホイなのか?」


私が、緑の狐を抱えて応接室に入った途端に、父様とお祖父さまの呆れた視線にぶつかった。


「雑魚は、若様のような強い魔力には怖がって近寄らないはずなんですけどね」

「牧田、この狐さんは、私のお客だよ。雑魚って言わないでよ。お茶とお菓子、よろしくね」


私が言い返すと、牧田はわざと大きな溜息をつきながら、退出した。牧田どころか、魔王親子の視線にさらされて、妖狐は、さらにぎゅっと私にしがみついた。可哀そうに、さっきから、尻尾がぼわぼわだよ。今日は、芦屋さんとお父さまに加えて、先代と当代の四侯爵も勢揃いだから、オコジョが来た時より、魔力量が格段に上がっているしね。


「この狐さん、智が張り込んでいるところに近い場所から来たんだって。天河村だっけ?」

「はい、天河村の狐の里から来ました」


翡翠色の目をした狐が、ぼわぼわの尻尾を抱えて、ぺこりとお辞儀すると、いつものように、お父様と峰守お爺様と明楽君が身を乗り出した。この三人の可愛い物好きには一切ブレがない。


「ああ、そりゃ、ご苦労さん。で、西都に何の用だ?」


お祖父さまが話しかけると、瞬間、片手で、きゅっと私の腕をつかんだが、それでもオコジョと違い、気絶することなく、私の腕から降りて、ちゃんと二本足で立って、ぺこりとお辞儀をした。狐、根性があるな。


「はい、魔王様。四つの魔力の君に、銀の狼を都に戻して欲しいんです」


狐が真面目に答えた瞬間、ぶっと峰守お爺様が吹き出し、四侯爵の先代と当代もつられて笑い出した。


「ほら、やっぱり、なーくんは妖から見ても魔王様なんだよ」

「うるせー、お前らは黙ってろ」


お祖父さまが、ぎろりと峰守お爺様や、大笑いをしている四侯爵達を睨んだが、この面子が堪えるはずがない。


「狐、いいことを教えてやる。俺は、もう引退している身でな。実は、こいつが当代の魔王なんだ」


お祖父さまが、父様の方に視線を向けると、狐が、ぺこぺこと何度も頭を下げた。


「これは大変失礼しました。当代魔王様とは、つゆ知らず、ご挨拶が遅れまして」

「父様、真顔で何をおかしなことを吹き込んでいるんですか。狐、こんなジジイの言うことは真面目に受け取らなくていい。それで、銀の狼がいると、お前の里に迷惑がかかるのか。銀の狼は悪いことはしないぞ」

「はい。それが、この間から、うちの里の近くで、変な人形を作る怪しい人間達がいて、甚だ迷惑しているのに、今度は銀の狼に、色んな妖までが出没するようになってしまって。小さいものほど、大きな妖力や魔力に敏感ですから、子供たちが怖がって夜泣きをするので、あやすのに大変で、最近は、皆、寝不足でふらふらです」


狐の里の大ピンチだよ。


「子供の夜泣きは馬鹿にできないよ。連日になると、疲れも溜まって、体力のない子は余計に眠れなくなるからね」


子育ては、スペシャリストのお父さまが、同情を声ににじませると、緑の狐は、こくこくと頷いた。


「そうなんです。私達もふらふらで、こんな時に里が襲撃されたら一溜りもないですから、ここは、最悪なことが起きる前に四つの魔力の君にすがるしかないと思いまして」

「そうか。それは、ふーに助けてもらうしかないよな」


出たよ、出たよ、丸投げ大魔神。父様の言葉に、緑の妖狐が翡翠色の目をキラキラさせて、私を期待を籠った表情で見上げた。


「えーと。近くに狐の里を襲撃するような悪いやつがいるの?」

「はい。おかしな人間たちが作っている人形のいくつかが、うちの保育園に乱入してきて、暴れたことがあるんです」

「保育園?」

「はい、実は、私、そこの園長兼保父なんですが・・・」

「狐さんっ、そこ、見学させて!」

「ずるいよ、彰ちゃん。狐君、私も見学希望!」

「僕も!」


いきなり可愛い物大好き組の三人のテンションが上がったので、狐が、また私に、がっしりとしがみついた。


「あ、ごめんね。いきなり大きな声を出して」

「四つの魔力の君のお身内なら、見学はお受けしますけど、お越しの際は、魔力は消して下さいよ。それと、銀の狼と、他の強い妖と、変な人間達の排除をして下さったら、里の狐たちは、四つの魔力の君の手足となって働きます。この条件で、どうでしょう?」


狐がお父さま達を見ながら、そして後半は、いそいそと揉み手をしながら、また私の方を見つめてきた。翡翠の目は、うっそりと細められ、「どうです?どうです?」と言いながら、忙しなく尻尾をふりふり、揉み手をしている。どこの商人だよと脳内でツッコミを入れていると、その後ろで、可愛い物大好き組の峰守お爺様と明楽君が、せっせとスマホで撮影していた。さすがチーム小野、風特有のフリーダムぶりに磨きがかかってきたな。


「狐ごときが、若様にお仕えできると思うな」


お茶とお菓子を運んできた牧田が、仁王立ちで狐をにらみつけたので、せっかく落ち着いていた尻尾が、またぼわぼわになっちゃってるよ。抱きついてきた狐を抱えて、翡翠色の目を覗き込んだ。


「天河の狐の里は、何のお手伝いが出来るの?」

「はい。私たちは、その辺の脳筋妖と違って、なかなか頭がいいんです。里でちゃんと教育を受けた狐は化けるのも上手いですし」


化ける?


「ああ、そう言えば、天河は、化け狐だったか。ちょっと、ふーに化けて見せてくれるか」


お祖父さまの言葉に、狐が頷いて、また私の腕から降りて、ぺこりとお辞儀をした。そして、とんと軽やかに床を蹴って高くジャンプすると、くるりと宙返りして、すたっと床に立つ頃には、ぽちゃっとした小学生くらいの男の子が目の前にいた。


「私だ」

「ほんとだ、ふーちゃんだ」

「そっくりだな」


私に続いて、真護もトーリ君の口もぱかりと開いた。明楽君は驚きながらも、撮影を続けていて、大人達は、それぞれ「結構やるな」「大したもんじゃないか」等と、お酒を飲みながら、好き勝手なことを言っている。このダメダメな大人達、完全に、酔っ払いのエンタメだけに狐に化けさせたよね。


「他の大人の狐たちも、園長と同じくらい上手に化けるの」

「はい。天河では、保育園に入ると、皆、歌と踊りと化けを習うんです」


歌って踊れる化け狐。それも村ごと・・・。


「採用!」

「ありがとうございます!」

「若様!」


牧田の不機嫌な声に、驚いた()が抱きついてきた。自分に抱きつかれるのも変な感じだ。しかも、その私には、ぼわぼわになった尻尾が生えている。


「自分を抱っこするのは変な感じだから、もう解除してもらっていいよ」


私がそう言うと、瞬間、元の薄緑色の毛皮の翡翠の目をした綺麗な狐が現れた。


「保育園を荒らした人形なんだけど、兵隊さんみたいな人形だった?」

「えーと。服は着てなくて、人形というより、人っぽい形をしたモノでしたよ。目も鼻も口もないし。手足はあるんですけど、ロボットみたいな、何でしたっけ?あん、あん、あん・・・」


とっても大好き、ど〇えもん?


「狐君、アンドロイドかな?」

「多分、それです」


狐の説明にお父さまが助け舟を出した。智が連絡してきた「兵隊人形」というのと、狐が言うアンドロイドのような人形は同じものと考えて間違いないだろう。


「こんな感じかな?」


お父様がいつものレスキュー隊の制服を着ていないバージョンの土人形を一体出すと、狐が翡翠色の目をまん丸にしながら、何度も頷いた。


「はい。こんなに大きくて綺麗なものではなくて、もっと荒削りで雑な感じでしたけど、雰囲気は似てます」


お父さまが、芦屋さんと顔を見合わせて頷かれた。


「私達、土の魔力持ちが、土人形をチェスの駒用に作って、それを動かすことによって魔力制御を身に着けていくというのは、風と火の皆さんもご存知かと思うのですが、その時に作るのが、本来は、こんな感じの人形なんです」


土御門さんは、大きなチェスボードまで作ってたけどね。


「そうだったんだ。誰か知ってる人とか、好きな動物の人形を作るのかと思ってたよ」

「ふーちゃん、そんな無駄に魔力の要ること、様式美にこだわる瑞祥一族か、サボり魔の土御門さんくらいしかしないから」


やっぱり、サボり魔だったんだ、あの人。


「土の魔力持ちが、南都で土人形を何体も作って何をやろうとしているのか」


お父さまのお顔が憂いを帯びた。去年の水の家の失態に続き、今度は土の魔力持ちの疑惑だ。


「彰、二条と四条の【潜伏】部隊から何か報告は入っていないのか。それと、二条宣親が、斗利の家から侵入者の作った土人形の魔力の残滓、必要なら北条にも手伝わせるぞ」

「彰ちゃん、うちは、二条とは仲がいいから、いつでも喜んでお手伝いするよ」


北条家の時貞おじいさまが申し出ると、西条の博實おじいさまが露骨にむっとした。


「うちだって四条との付き合いは悪くないから、捜査くらい手伝うけどね」

「いや、時貞と博實は、またローテーションを作って陰陽寮に行ってくれ。佳比古、誠護、お前らも頼む。その代わり、賀茂保憲(やすのり)に西都に来てもらいたい。魔力量で言えば、どう考えても、こちら側の大盤振る舞いだからな。陛下も頷くしかないと思うぞ」


お祖父さまが腕を組んで考え込んだ様子で仰った言葉に、思わず質問する。


「何で賀茂さんじゃなくて、お父様の方なの?」

「魔力器官が壊れても、あの男にはまだ目が残っているからな。それに、古い呪いやら、使われなくなった魔法にもやたらと詳しいから、霊泉と組ませれば、斗利の助けになる」


なるほど。流石はお祖父さま。


「時影、お前、宣親と仲がいいよな。必要なら手伝ってやれよ」

「敦ちゃん、もちろん、そうさせてもらう」

「英喜は、賀茂とみっちーのところに行って、鞍作の話、調べて来てくれるか」

「分かった。今から行くから、飛ばしてよ」


先代チームが、お祖父さまの命を受けて動き出したので、当代チームも動き出した。


「ふーちゃん、僕たちは?」


明楽君と真護が期待を込めた目で私を見たけど、次代チームは、まだ大人に任せていればいいんじゃない?


「ちび共は、狐の里に行って、【風壁】を設置してやれ」


父様がいきなり、ポンと話を私達に投げた。【風壁】って設置できるものなの?あれは、土の魔力で作る物理的な壁と違って、魔力持ちがいないと解除されるよね?


「はいっ!私が引率するよ」

「私も!」


峰守お爺様とお父さまが、速攻で手をあげた。絶対に、妖狐の保育園を見学したいだけだよね。真護と明楽君と三人で、しらっとした目を向けると、二人が焦ったように言い訳を始めた。


「ほら、私は、三人を指導する立場だからね。【風壁】の設置は、まだ覚えてないでしょ。先生が一緒に行くのは当然だよ」


それは確かにそうだ。峰守お爺様と一緒に行くのは確定だな。三人で頷くと、今度は、お父様が負けじと言い訳を始めた。


「峰守おじさま、私だって邪な気持ちで行くわけではないですよ。妖狐の里に人間が行くと目立ちますから、鞍作一族の耳に入るかもしれません。狐の土人形に入って、兄様に飛ばしてもらうのがベストだと思います。土と言えば、瑞祥の管轄ですからね」


うーん。お父さま、どう言いつくろっても、邪な気持ちですね。


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