計画
当面の動きはこうだ。
まず、西条の英喜おじさまが、西都に飛んで、宰相と陰陽頭に面会して情報交換を行う。こちら側の情報には、トーリ君の事情も含まれる。トーリ君自身にお咎めはないが、保護者である父親がどうなるかは、今の時点では分からない。
その後、陰陽頭の賀茂さんに、お父上の保憲氏に連絡を取ってもらって、西都に来て頂く。賀茂家は、元々は西都の水の名家なので、新春の御前試合の打ち上げパーティーで、そろそろ西都に帰りたいと仰っていたそうで、今回、瑞祥一族は、思うところあって、保憲氏への西都帰還を目論むそうだ。裏で、あのちょっと曲者の一条家の先代侯爵が糸を引くらしい。和貴子さんの異母兄の、いかにもフィクサーが似合う雰囲気のお爺様だ。
お父さまは、必死の言い訳を却下され、瑞祥家に戻り、鞍作一族を見張っている二条と四条の【潜伏】チームに合流するらしい。鞍作一族の見張りは、魔力がない鞍作父は、斑鳩で智と喜代水の妖が見張っているが、それ以外は、嘉承や瑞祥と違い、同じ場所にいるわけではなく、南都の郊外にある村々に散らばっていて、一見まとまりがないように見えるらしい。ただ、長老でトーリ君の祖父の鞍作季利氏がいる芳野には、3日に空けず、親族と思われる人達が通っていると報告があった。
斑鳩に張り込んでいた智は、魔力のない、ちょろい善人の鞍作父の見張りには、過剰戦力ということで、西都に戻って来ることになった。ただし、小さい妖の見張りは続行する。主力部隊は、いつものプレーリードッグの小僧さん達だ。
そして、私達こども組は、緑の狐と一緒に今から天河村の近くにある妖狐の里に行って、子狐を守るために、妖狐保育園に【風壁】の設置をする。引率は先代小野子爵で、先の外務大臣の峰守お爺様。
「あの、おっちゃん達、俺は?」
「斗利、お前は、芦屋と魔力の制御の訓練に決まってるだろうが」
「寿命を縮めたくないなら、死ぬ気で覚えろよ」
魔王親子に言われて、いつも飄々としたトーリ君が、明らかにがっかりした表情を浮かべた。
「分かるよ、トーリ君。子狐の保育園見たいよね」
「ううん、そうじゃなくて、何か俺だけ役立たずなのが悔しくて。俺が、問題を持ち込んだ本人なのに。皆、ごめんなさい」
そう言ってトーリ君が、頭を深く下げた。
「おい斗利、そんな風に考えるな。厄介事を引き寄せるのは、ふーの体質だからな。お前が来なくても、狐は、何か理由を見つけて、ふーに会いに来ただろうし、狐が来ない時は、他に何か来るだろ」
「そうだぞ。こんな刺激がないと、隠居ジジイ共がボケて、面倒臭いからな。適度に扱き使うくらいで丁度いいから、逆にうちは助かってるぞ」
さりげなく、色んな人をディスっているような気もするけど、一応、魔王親子の、フォローは、トーリ君の胸の内を慮ってと、信じておこう。私の隣で、緑の狐は、翡翠の目を細めて、楽しそうに尻尾を揺らしているし、父様に隠居ジジイ呼ばわりされた先代侯爵たちは、「敦ちゃんは酷い」とか「老人差別だ」とか文句を言いながらも、顔はニコニコだ。
「トーリ君が、役立たずなわけないよ。それに見ての通り、うちは結構、こういうのを全力で楽しんじゃう家だから」
「トーリ君が落ち込むと、私のさっきの発言に、あまりに配慮がなくて、落ち込んでしまうよ。頼むから、何も気にせず、芦屋君と制御を練習してほしい」
私とお父さまに向かって、トーリ君も何とか微笑んでくれたという顔だ。まだ、気持ちの部分では納得していないんだと思う。でも、今大事なことは、これ以上、体に負担をかけないことだからね。
「とはいえ、斗利の体の中にある呪いが厄介だな。智を戻す前に、鞍作の親父をどうするか、だな。呪いに関わっているとは思わんが、何か事情を知っているかもな。接触すると、鞍作一族に気づかれる恐れがあるが、話は聞いてみたいよな」
うーんとお祖父さまが唸り出すと、南条侯爵親子が手をあげた。
「はい、はい、はい!」
「なーくん、こういう時は、やっぱりうちでしょ」
「南条は、対象が女以外の時は、やる気がないだろう」
「うん、そうだけど。でも、敦ちゃん、帰りに近くの妖狐の里によって、美女に化けられる子たちと歌って、踊って・・・」
瞬間、南条親子の姿が消えた。
「狐、俺の側近が悪かったな」
緑の狐は、突然、濃厚な魔力が吹き上がったと思ったら、二人の人間が消えたので恐怖のあまり、またしても、尻尾がぼわぼわになっていた。私に必死でしがみついているけど、気絶しないだけ、オコジョよりは、妖力が強いみたいだ。
「は、はい。魔王様、あの、お気遣いありがとうございます」
それに、律儀だ。お祖父さまの戯言を、きっちりと信じて疑っていないようだ。まぁ、冥王も、冥府の魔王様だから、正解ではあるよね。
「じゃあ、そろそろ、妖狐の里に行く?【風壁】を設置するのに、練習の時間もいるしね」
峰守お爺様が立ち上がった。
「ふーちゃん、狐の土人形、出してよ。それで、この緑の子と一緒に行けば、周りに怪しまれることはなく天河に行けるんだよね」
峰守お爺様と言葉に、周りが何となく、ワクワクしているのが分かった。絶対に、あの忌々しい、例のやつを期待しているな。
「スナギツネの人形は作りませんよ」
私がそう宣言すると、えーっと一斉に落胆の声が上がった。何を期待しているんだ、この人達は。
「狐なら、こんな感じかな」
ぽんっと一体、出すと、緑の狐がひれ伏した。
「こ、これは節美の天狐一族ですっ。恐れ多いっ」
稲荷屋のキャラクター用に作った、ふかふかの尻尾を持った白い狐は、緑の狐によると、節美族という、稲荷神の御遣いをしている格上の存在に酷似しているらしい。まずいよ、神の御使いを商標化しちゃったよ。まぁ、でも稲荷屋のこんちゃんズは、毎日、節美稲荷大社に参拝して、気前のいい御寄進を何年も続けているから、問題はないよね。稲荷神というのは、世間では狐と思われているが、狐は御遣いで、節美大社の神様は、御食津神のうちの御一柱であらせられる宇迦御魂とおっしゃる神様だ。西都では、白い狩衣を着た神々しい御姿をお社の周りで見かけたという都市伝説めいた話が時々上がって、真相は定かではないが、稲荷屋のベテラン店員の浩子さんも不思議な体験をしている。
「へぇ、妖狐の世界でも、色々とあるんだねぇ」
「ちなみに、チベットスナギツネの妖狐もいるの?」
いるかっ。いたら、それは外来種だよ。陰陽寮、ちゃんと取り締まれ。
「とにかく、節美の天狐の人形をに入るのは不敬です。別のでお願いします」
別のものと言われても、私が作れる狐は、あれだけなんだよ。仕方がないので、結局、いつもの猫で行くことにした。妖狐と妖猫は、どっちも化けるのを得意としているから、同業他社?交流という名目らしい。かなり苦しい言い訳だ。
そんなことで、私は基本のにゃんころ、キジ猫に入り、真護は色違いでサバトラ、峰守お爺様は、お父さまのベンガル猫、明楽君は、私のベンガル猫に入った。同じ種類の猫の土人形だと、制御の差がエグいくらいに際立つな。明楽君、ごめんよ。
「芦屋さん、トーリ君、戻ってきたら、私も制御の特訓に混ぜてね。死ぬ気で頑張るよ」
「うん、何か分からんけど、あんまり思い詰めんなよ」
「嘉承の君、無理は禁物ですよ」
うん、そうなんだけど、皆を、あんなぽっこりお腹の猫に入れるのは申し訳なさ過ぎる。
制御、本気で頑張ろう。それと、夏までに、絶対に五キロ痩せる。
このお話をもって、こちらでの更新を終了しまして、カクヨムさんでの更新のみで続きます。
思ったよりも沢山の方に読んで頂けて、大変光栄でした。本当にありがとうございます。
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