かりっと焼いてみた!
本当に、お墓を掘り起こしちゃったんだ。
隣国政府もまさか、わざわざ隣りの曙光帝国の人間がそんなことをしに来るとは想定せずに言った言葉だろうに。ましてや、侯爵という地位にあろう人が墓を掘るとか思う、普通?
嘉承の冥王と悪魔の側近がケロッとしている横で、全員がドン引きしている。流石のお父さまのお顔も引き攣っているよ。
「検死結果には焼身自殺とあったし、新月の夜中に掘り起こしたもんだから、周りは暗すぎるわ、遺体は真っ黒だわで、全然分からなくてね。いやあ、あれは苦労したよ」
ニコニコしながら報告する西条侯爵に、今、全員の気持ちが一つになったはずだ。問題は、そこじゃない!悪人とはいえ、埋葬されたご遺体を掘り起こすなんて、死者への冒涜だよ。
「それで、敦ちゃんに連絡したら、一部削って持って帰れって言われて、持って帰って来た」
うわぁ、英喜おじさま、それ、死体損壊罪!更にドン引きする私達を、みじんも気にすることなく、西条侯爵がまた自分のカバンから、今度は何か黒いものが入ったシャーレを取り出した。
「じゃーん。これだよ」
「みっちー、ほれ、証拠。帝都に持って帰れ」
父様が言うと、宰相が慌てて立ち上がった。その拍子にガタンと大きな音を立てて椅子が倒れた。宰相の動揺が見て取れる。
「な、な、な、何を言っているのですか、貴方達は。こ、これは、二国間の紛争の種以外の何物でもありませんよ。こんな物、陛下の元に持って帰れるわけがないでしょう」
宰相が手をグーにして後ろに回し、きっぱりと断った。そうだよ、そんな気色悪いものを陛下の元に持って帰れるわけがないよ、と思っていると、小野家の三人がさっと手を出した。え?
「墓を掘れと言ったのは隣国だからね。これ、良真が帝都に持って帰るよ。そのうち何かの切り札として使えるかもしれないから」
峰守お爺様がシャーレを掴むと二の君に渡した。小野家、かわいい顔をして、やっぱりそういう一族か。私とお父さまが顔を引き攣らせたままでいるのに、父様は「おう、いつでも使え」と満足そうに頷いた。西条侯爵も、いい仕事をしたという顔をしている。いやいやいや、やってることは墓泥棒と同じレベルだからね。変な呪いが憑いたりしないように、早々に喜代水に行ったほうがいいから。
「そ、それで、西条侯爵の仰る二つの可能性のうちの一つ、高英実の研究は、存在しないということと、博士の遺体とどういう関係があるんですか」
そうそれ、それだよ。宰相、毎回、及び腰でも言うことは真っ当だよね。
「禁忌について、資料や文献を集めたような形跡もないし、フィールドワークに行った様子もないしね。ただただ、大学で講義していただけ。それなのに、卒業生も在校生も、誰もその講義を覚えていないんだよ。でも、学生達からは、評判の良い教授で、ほとんど崇拝というくらい、高博士に心酔していた学生達がいてね。それで、大学側が高博士を解雇した際に、反対運動を指揮したという当時の学生達を捕まえて、ちょっとだけ焼いてみたんだよね」
いやいやいや、英喜おじさま、言っていることが、めちゃくちゃ変だって。
「学生を捕まえて、ちょっと焼くとは何ですか。西条侯爵、言葉に気を付けてください。第三者に聞かれたら、国際問題になりますから」
みっちーが青筋を立てて抗議した。
「そお?でも、事実だけど。まぁ、話を戻すとね、数人、かりっと焼いてみたら、全員の耳から蜘蛛の死骸が出て来た。それが、これ」
西条侯爵のカバンから、またシャーレが出て来た。気持ち悪くて見る気もしない。宰相が断る前に、これも小野家に早々に回収された。小野家、強い。
「それで、何で高博士の研究が、全くの虚偽で、もう一つの可能性の妖による寄生だと分かったかというと、持ち帰ってきたものを、とある妖に匂いを嗅いでもらって確認したら・・・」
「はああああ?」
西条侯爵の説明を遮るように、みっちー宰相が奇声をあげた。私も声を上げるところだったけど、先を越されたよ。妖に匂いを嗅いでもらうって何?
「みっちー、うるせえ。とっとと座って、英喜の話を聞け」
「宰相。話が進まないから、座って聞きなさい。貴方も、長く帝都から離れている場合ではないだろう」
「恐れながら、殿下、話がめちゃくちゃ過ぎます。隣国に渡って、罪人とは言え、墓を暴いて遺体の一部を持ち帰り、言うに事欠いて、妖に匂いを嗅いでもらうとは、一体、どういうことなんですか!そもそものところで、その妖とは何なんですか。妖がいるなら、さっさと討伐するなり、浄化するなりするべきでしょう」
殿下に諫められても、みっちー宰相は引き下がらない。そうだよ、そもそも、その妖って何なんだよ。
「もしかして、喜代水のプレーリードッグの小僧さん達じゃないよね、おじさま?」
「はあああ?プレーリードッグ?何なんです、一体それは?全く、西都は、誰も彼も訳が分からなさ過ぎです。だいたい、私が西都総督府に赴任していた時も、毎日、毎日、毎日・・・」
宰相がまた壊れた。
「彰、みっちーに【鎮静】をかけろ。みっちー、次、騒いだら弾き飛ばす。帝都に戻されるとは思うなよ」
あらら、宰相、崖っぷち。
「みっちー、すんごい未開の土地とか、とんでもない離島とかもあるからね。念のため、この会議室にあるお水は全部貰っておいた方がいいよ。あ、火村ちゃん、お茶菓子は、これだけかな?」
弾き飛ばされ常連枠の織比古おじさまが、自分の目の前にあったペットボトルを宰相に差し出した。しっかりと叔母様の秘書を「ちゃん呼び」しているあたり、さすがはダンディー南条だ。
「ふーちゃん、私が頼んだ妖は、喜代水にいる妖じゃないよ。喜代水まで行かなくても、西都には、割といるからね」
げえっ。割といるとか、何それ。聞かなきゃよかったよ。
「侯爵、その、割といるというのは?」
殿下もドン引きしていらっしゃる。そうだよね。そこらにカブトムシが生息しているみたいなノリで言ってるけど、妖だよ。どういうこと?
「殿下、言葉通りですよ。例えば、うちのふーちゃんに忠誠を誓っている喜代水の五百羅漢ですけど、あの集団、三分の一くらいは妖です」
うぎゃああああっ。聞いてないっ!!




