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お公家の事情 火にも水にもわがあらなくに  作者: 英じゅの
黄色いおにぎりと練りきりの猫
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ハンザキと曙光玉

享護おじさまの言霊による東条一族の立場の宣言に、織比古おじさまは、いつもの軽妙でエレガントなダンディー南条の佇まいが消え、ただただ押し黙っていた。


「朝食を済ませた者から、さっさと支度して、西都総督府に行ってくれ」


父様が言うと、西条と北条の侯爵二人が、ぽんっと織比古おじさまの肩や背中を叩いた。三人は、一旦家に帰って支度をしてから総督府で私達と落ち合うそうだ。今日は、東宮殿下だけにお会いするので、ドレスコードは略礼装らしい。


真護おじさまは、【風天】で家から衣装を飛ばしてもらって、うちで着替えて一緒に行くそうだ。お父さまは、私と山科に行くつもりをしていらしたのが、私が先に総督府に行きたいと言ったので、予定変更。その旨を牧田が、小野子爵に連絡してくれた。


「旦那様、小野子爵から西都総督府で東宮殿下をお迎えしてお話をされるのであれば、小野家の皆様の出席を許して頂けないかとお問い合わせを頂きました」

「皆さんで出席?」

「はい。先代子爵とご子息様三名がご希望されているとのことです」

「三名?明楽君もってこと?」


お父さまが牧田とお話していらっしゃるのに割り込んじゃったよ。ごめんなさい。


「明楽君もか。それは予想もしていなかったな。兄様、どうします?」

「お前は誰に対しても過保護が過ぎるぞ、彰人。明楽本人に選ばせろ。さっきも言った通り、小野は馬鹿じゃない。何か思うところがあるんだろうよ。ふー、東宮が【魔鏡】を発動する前に、明楽に確認しろよ」


明楽君が来るんなら、真護も来るよね。真護は、どこまでも私に、くっついて行こうと無理しているようなところがあるから、これ以上怖い思いをさせないように、おじさまに説得してもらおうかな。そう思いながら、牧田の用意してくれた服に袖を通す。今日も和貴子さんがお手伝いに来てくれた。


「まぁ、若様、何てことでしょう。一日でこんなにお痩せになってしまってぇ」


和貴子さんがものすごいショックを受けた顔をしてくれたけど、ほんのちょっと子豚がマシになった程度で、まだまだ真護や明楽君と比べると太っているんだけどな。和貴子さんも、東宮殿下のご趣味と同じ系列の人なのかも。


着替えを済ませて、牧田のチェックを受けて、嘉承の玄関に向かう。嘉承の玄関は、天井の高い大きなホールになっていて、その中央に置かれたテーブルにいつも豪華なフラワーアレンジメントが飾られてある。公爵家の威厳を保つ、毎日の牧田のプロの仕事には感謝しかないよ。内裏でロクでもない侍従長と会った後だから、余計にそう感じる。


私が玄関ホールに着くと、享護おじさまが一人で皆を待っていた。これはチャンスだ。先におじさまに真護の説得を頼んでおこう。


「おじさま、お待たせ。待った?」

「ううん、今、来たとこ」


嘉承の四侯爵は、こういうベタな遊びが大好きだ。


「おじさま、真護のことなんだけど。小野が明楽君を西都総督府に連れて来るから、一緒に来ると思うんだよ。真護は、ここ最近、私にずっとくっついて、しなくてもいい怖い思いをいっぱいしているよね。今日の麻生の記憶は、多分、一番酷いものになるでしょ。おじさま、真護に家で待っているように言ってよ」


おじさまが、「うーん、そうだねぇ」と言いながら腕を組んだ。これは、断る気だな。


「ふーちゃんの気遣いは嬉しいんだけど、敦ちゃんと同じことを言わせてくれないかな。真護に選ばせてやってよ。あれは、まだ小さいけど、気持ちはふーちゃんの側近なんだよ。明楽が許されているのに、自分は帰れと言われたら、どう思うかな」


私も腕を組んだ。


「うーん。そうなんだけど」


あの牛鬼の麻生の記憶だよ。半端なものじゃないと思うんだよ。


「ま、いっか。三人で頑張ればいいよね」

「そうそう。もし辛過ぎたら、東宮に、ちょいっと記憶も消してもらえばいいよ」


おじさまも殿下の扱いが、たいがい粗雑だな。そう思っていると、父様とお父さまがホールに現れた。略礼装のお父さまは、都の公家はかくありきといった雅な佇まいだ。それなのに、その横に並ぶ、ただただ残念な我が実父。何で、略礼装の公爵閣下が小脇にハンザキを抱えているんだよ。


「おい、そこのスナギツネ、さっさとスーツケースか何か運びやすい物に変えろって言っただろうが」


誰がスナギツネだよ!


「ハンザキのお腹に牛鬼の頭があるから、今、形状を変えると、牛鬼の頭を潰しちゃうかもしれないんだってば。私には、まだそこまで土魔法は制御できないよ」

「何だ、それ。彰、何とかならないか」

「そうですね、ふーちゃんの魔力に干渉して、形状を変えることは出来ますが、違う魔力が二つ重なりますので、なかなか厄介なんですよ。普通の土の魔力持ちのものであれば、牛鬼の周りに結界の膜で覆って、同時に魔力干渉して、元の魔力を消して、私が形状を変えれば済むんですが、ふーちゃんの魔力が強いのと、純然たる土ではなくて、他の三属性の魔力も入っているので、面倒な知恵の輪のように一つずつ元の魔力を消す作業になるので、少々時間を頂くことになりますね」


ふふっ。お父さま、面白がっていらっしゃるよ。父様の性格だと、絶対にいつもの口癖が出るもんね。


「面倒だ。このまま行く」


父様が、もの凄く嫌そうに、ハンザキの尻尾を掴んで、そのまま車寄せに向かった。お父さまと後ろで目配せして、にやにやしながら父様の後に続いた。


今日は牧田の息子の智が、西都総督府まで車で送ってくれるらしい。西都総督府までなら、歩いても行ける距離だけど、さすがにぽっこりお腹のハンザキを抱えて公爵が歩くわけにはいかないよね。うぷぷ。


助手席に享護おじさま、後部座席にお父さまと父様と私が乗ることにしたが、ハンザキが大きすぎてトランクに入らない。


「ふー、デカ過ぎるんだよ、このハンザキ。頭と尻尾をちょん切れ。手足も要らん」


父様がイライラした様子で私に言う後ろで、牧田が珍しく焦った声で「旦那様、若様」と私たちに声をかけた。振り向くと、牧田の後ろに私たちが一番会いたくなかった御方が、それはそれは良い笑顔で立っていらっしゃった。


曙光帝国、やんごとなき姫ランキングの首位を70年間保持する、瑞祥の大姫。お祖母さまだ。


「敦ちゃん、今、何か仰って?」

「いえ、あの、お母様、誤解です。これは、ふーの作った土人形でして」


うわっ。酷いよ、父様。ぺろっとお祖母さまに私を売っちゃったよ。


「そう。それで、何でこの子のお腹はこんなに膨らんでいるの、ふーちゃん?」


ほらほらほらーっ。矛先が私に向いちゃったじゃないか。


「お祖母さま、あの、これではですね。父様が牛鬼の頭をハンザキの中に入れろって仰ったんです!」

「ちょっと待てよ、ふー。お前は父をそうも簡単に裏切るのか。彰人にどんな教育されているんだよ」

「ええっ、私ですか。何で、そこで私の教育が出て来るんです?」


お父さまにまで飛び火しちゃったよ。三人であたふたしていると、お祖母さまが、ハンザキの膨らんだお腹の上に、そっと手を置かれた。


「敦ちゃん、曙光玉を二つ貸して下さるかしら?」

「はい、お母様、こちらに!」


父様がミニ召喚を使って、蔵から曙光玉を持ち出した。父様、態度が完全に従順なわんこだよ。お祖母さまが、曙光玉を取り上げると、すぅーっとハンザキのお腹から黒い煙が上がり曙光玉に吸い込まれて言った。これは闇の魔力だ。やっぱり、お祖母さまは、瑞祥の土と水以外の魔力もお持ちだったんだ。


「敦ちゃん、こちらをお持ちなさいな。中にあった記憶は全て移しましたよ。ふーちゃん、この子は、もういいわね。土に還す前に、【清火】できちんと浄化してあげてね。人形とは言え、ハンザキの中にあんなおぞましいものを入れたら可哀そうでしょう。中のものは敦ちゃんがきちんと【業火】で焼いてあげなさい」

「はい、お祖母さま。ハンザキのお人形に変なものを入れてごめんなさい」


私も父様に習ってわんこモードだ。長い物にはぐるんぐるんに巻かれるのが私のポリシーだからね。ぺこりと頭を下げるとお祖母さまが頭を撫でて下さった。顔を上げると、お祖母さまが私をしげしげとご覧になっていた。


「少し制御が上手くなったのね。ふーちゃん、こちらは小野の子に渡してちょうだい」


そう仰って、私の手にもう一つの曙光玉を載せて下さった。


「ではね」

「はい、お祖母さま、ごきげんよう」


お祖母さまが、くるりと背を向け、瑞祥のお庭に向かって歩き出されたので、慌てて頭を下げた。お祖母さまのお姿が見えなくなったのを確認してから、後ろで控えていた牧田を呼ぶ。


「牧田、髪の毛、元に戻して。また七三分けにされちゃってるよね?」


お祖母さまに頭を触られると、いつも髪が七三分けに変化する。ハンザキと七三分けのどこら辺が良いのか、ご趣味が謎過ぎて、私では理解が追い付かないよ。牧田が家からブラシを持ってきて、私の髪を元に直してくれている間に、父様にお祖母さまの仰った【清火】のやり方を訊いた。


「お前、白出せるか?」

「白はまだちょっと安定して出せないかも」


火が一番苦手な私は、赤い火は、さまになって来たが、白がまだ安定して出せない。青い火なんて、まだまだ先だ。火は、赤、白、青と上位性が増して、使う魔力も上がる。お祖父さまくらいに制御の鬼になると、少ない魔力を使う赤い火でも【業火】になるが、私のようなひよっこの錬成と制御では、白くないと浄化にならない。今回は時間がないので、父様が代わりに【清火】でハンザキの土を浄化してくれた。皆で、嘉承の庭に行き、牛鬼の頭も【業火】で浄化して消えるのを見送った。あの中には、牛鬼だけでなく、その犠牲になった方々の魂の残滓もあったので、供養のためにも【業火】がふさわしい。お祖父様の火もそうだったけど、父様の火も同じ。【業火】は強くて美しくて、涙が出るくらいに優しい火だ。父様、お父さま、享護おじさま、牧田と私の五人で合掌して、浄化の火を見守った。


「これ何だろ。曙光玉、明楽君に渡してもいいのかな。国宝なんだよね?」

「国宝は、曙光が持っているやつな。うちにあるのは、単なる厄介な玉。渡さないと、お母様に、あら、何故渡していないのかしらって良い笑顔で尋問されるぞ。絶対に、明楽に渡せ。嫌がられても押し付けろ」


めちゃくちゃだよ、この人。


「兄様、そろそろ出ませんと、殿下をお待たせすることになります」


お父さまに言われて、慌てて車寄せに戻った。出かける前に、もう疲労困憊だよ。


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