土御門会議室
「まー兄がふぬけてる」
「まあ、しょうがないさ」
「和泉ちゃんの事、諦めるのかな?」
「さあな。諦められたらまだいいさ。問題は諦められない時だ。そうだろ?」
と仁が言い、陸がうなずいた。
会議室内はしんとしている。
出席している者がすべて、真剣な面持ちで報告を聞いていた。
メモを取ったり、何か隣人に囁いて確認をしてる者もいる。
プロジェクターにて会議室内に映し出された映像は、広い公園の内部とその中央部に城跡とそれをぐるりと囲む城壁の名残だった。
「古くからの城跡ですから、かなりな執着が未だに残っている状態でしょう。何もなければこのまま眠りについたままのはずでした。たまに目覚めはしても現世に仇なすほどの物でもなかった。ただうろつきさまよい、時代の差にその者らのほうが驚愕するくらいでした。彼女がその地で住み着いてしまうまでは」
そう言って調査局の最古参の者が三兄弟の方を見た。
つられて他の者も見る。
三兄弟は一番上座に座っていて、会議での決定権を持つ者である。
「どういった経緯で土御門和泉がその能力に目覚めたのか、その辺りの報告がまだされておりませんが、それについてはいかがでしょうか」
すぐには誰も答えない。
仁も陸もうかつな発言は控えている。
だが、
「和泉さんにつきましてはまだその能力は未知数。分かっている事は再の見鬼であるという事だけですわ。思わぬ事故で足が不自由になってしまいましたので、能力の調査、研究、修行への参加は一時中断です。古来よりの、枯れ果てた戦場で眠っていた霊を活性化させてしまうほどの霊気なのは間違いないようですが、何分今は事故の後で和泉さんご自身も不安定ですわ。和泉さんに今必要なのは、身体にも精神にも充分な休養です。それ故に神道会からの余計な接触は避けていただきとう存じます」
と美登里が言い切ってから賢を見た。
「和泉……土御門和泉は子供の頃から見鬼だったが、再の見鬼としての能力が発現したのは最近の事だ。再の見鬼だろうという予測はしていたが、実際の発現まで年月がかかったので、その能力値はまだ未知だ。だが、俺、仁、陸の霊気を最大限まで再生してまだあまりあるというのは確認済みだ」
と賢が言うと、会議室がしんっとなりそれから感嘆の息が漏れた。
「素晴らしい!」
「それはぜひ、神道会の能力者として!」
「だが不幸な事故で足が不自由になった。療養に行った先が古戦場だったというのは重なる不運だ。城跡の古来の霊を活性化させてしまったのはまずかった。和泉自身が霊に取り憑かれその霊気を吸収されるとやっかいだ」
「では、彼の地での地鎮の祈祷は?」
の問いに賢は、
「もちろん行う。土御門の人間が起因の現象だ。責任は我々にある。費用は持ちだしでも祈祷の準備を」
と言った。
「では賢様、和泉さんに警護をつけるべきでは? 活性化した霊が滋養を求めて和泉さんを狙うのでは?」
と美登里が言ったが、賢は肩をすくめて、
「和泉にうかうかと近づくと赤いやつに引き裂かれるぞ」
と言った。
「赤いやつ?」
「まー兄、それってもしかして赤狼?」
と陸が言った。
「ああ」
「復活したの? あれだけ粉々に自爆したのによく復活できたね!」
「和泉の霊気があればこそだ。しばらく前から和泉の周囲に気配があった」
「じゃあ、また赤狼が和泉ちゃんを護ってるんだ」
「そうだ」
「では、安心ですわね。赤狼は強いですもの。赤狼が復活したら一狼も喜びますわ」
と美登里が言った。
「和泉には強い守護が側にいるから心配はしていない。だが、城跡の霊が悪霊化して拡散するとやっかいだ。祈祷は早めにしよう。準備を急げ」
と賢が言った。
会議に出席していた者達が心得たという風にそれぞれうなずいたり、メモ取ったりしている。これからそれぞれの局が祈祷祭の準備にかかり、その後、調整と意見を求める為に賢の元に予定表が届けられる。
「賢様、和泉さんはご自分の能力をどうお考えなのでしょう? 今は療養の時期ですが、その後の事は?」
仁、陸はややこしい二人の関係を承知だが、美登里にはその微妙なところが伝わっていない。会議に出席した者達も興味津々で賢を見た。会議が終わったと腰を上げかけた者もまた座り直した。
賢はしばらく考えていたが、
「見たところ、和泉の能力は土御門の再の見鬼の中では最上級の霊気。本人はそれがどういう事かまだ理解していない。幼い頃から見鬼であるが修行もしていない。先代の命により、和泉は神道には近寄らせない、となっていたからな。土御門の歴史すらろくに知らずに育ってしまった。陰陽師がどういうものかも理解していないだろう。その和泉にすぐに能力者としてどうのこうのは無理な話だ」
と言った。
「和泉さんがその気にならなければやはり無理でしょうね。賢様のご意見は?」
「無理じいはしない。和泉が嫌ならしょうがない。そこまで土御門に縛られなくともいいと思う。昔とは違う。和泉の人生だ。好きなように生きていけばいい」
「そうですか」
と美登里ががっがりしたような声でつぶやいた。
「とは思うんだがな、実際、あの能力を眠らせておくのは非常に惜しい。修行もせずにあれだけの霊気を保っていて、それを使わないというのはもったいない話だ。せっかく土御門に生まれて授かった能力だ。できれば土御門に尽力してもらいたいと思う。和泉にも言い分はあるだろうが、それなりの生まれには運命と責任がついてくる。あれも嫌だこれも嫌だ、では話にならない」
「そうですわね、ぜひ、和泉さんには能力者として活動していただきたいですわ。最上級の再の見鬼だなんて、素晴らしいですわ! 賢様と和泉さんがご結婚なされば歴代の御当主の中でも最強のご夫婦ですわね!」
と美登里が言い、自分の胸の前で手を合わせた。
会議室の中はひそひそ話から、いやいや、これは、めでたい、というささやき声が聞こえ始めた。
仁と陸がちらっと視線を合わせて肩をすくめた。
賢は表情を変えなかったが、立ち上がって、
「あーそりゃめでたいな」
と言ってから会議室を出て行った。




