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土御門ラヴァーズ  作者: 猫又
第四章

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赤い髪の男

 和泉が徳島に来た時には運悪く梅雨時に入っていた。

 父親が用意した家は大きな公園の近くの小さい中古住宅だった。

 裏の縁側から庭に出るとそこから川沿いの道路に出られる。

 古い中古住宅はバリアフリーの設備が全然なく段差ばかりなので、家の中はほぼ松葉杖をついて歩く。腕に筋肉がついてきたような気がする。

 川沿いの道路を進んで橋を渡ると大きな公園だ。

 昔の城があった場所で、ぐるりを散歩するだけでもかなり広い。

 中には城跡が少し残っていて、堀の池には大きな鯉が泳いでいる。

 そこを車椅子で回るのが日課だ。

 綺麗で大きな公園だが、やはり車椅子には向いていない。

 勾配の急な橋があちこちにかかっているし、段差も割とある。

 それに少し小高くなっている城跡を上っていくと、嫌な気配があったので、あまり中までは入らないようにしていた。

 視たくもないし、関わりになりたくもない。

 

 その日は梅雨の合間の晴日だったので、和泉は車椅子で散歩に出かけた。

 城壁の周囲を進んで行く途中で雲行きが怪しくなってきた。

「やばい」

 と思って引き返そうとしたが、車椅子の車輪が後方にあった大きな石にひっかかってしまったらしく、どっちにも動けなくなってしまった。

 ぽつぽつと雨が降ってきた。

 黒い雨雲が広がって行く。ザァーっときそうだ。

 車椅子に積んである短い杖を出して、それを使って立ち上がる。

 挟まっている車椅子を引っ張ろうとして、バランスを崩した。

「あ~~転ぶ~~」

 と思った瞬間に、倒れかかった和泉の背中が何かに当たった。

「へ」

 と思ったら、

「大丈夫?」

 と声が聞こえた。

「え、あ、すみません」

 誰かが背中を支えてくれたらしく、和泉は転ばずにすんだ。

 腕につかまらせてもらい和泉は体勢を立てなおした。

 やけに背の高い男で、長い髪の毛が真っ赤だった。

 茶髪とかいう問題でない。真っ赤だ。コスプレの人か、バンドの人なのかな。

 ひょえ~と思うほどのイケメンだった。

 背が高く、ほっそりとした手足、なんて整った綺麗な顔。

 ホストかな? こんな田舎にホストクラブなんてあるんだ、と和泉は思った。


 だが、着ている物はTシャツにジーパンで普通だった。

「失礼」

 と言って、その男は和泉をひょいと抱き上げた。

「え、ちょ」

 近くに屋根付きの四阿があり、、五段ほどの階段がある。

 ひょいひょいと駆け足でそこへ上がって、和泉をベンチに座らせた。

「す、すみません」 

 すぐに車椅子のところにとって返して、車椅子を担いで持ってきた。

「ありがとうございます」

 と和泉が礼を言うと、

「いつも、この辺を散歩してる?」

 と言った。

「え、ええ」

「あまり中までは行かない方がいい」

 と言った。この人も視える人なんだ、と和泉は思った。

「あ、はい、そうですね。どうせ中の方は砂利だから車椅子で入っていけないし」

「歩けないの? 全然?」

「え、いえ……左足だけ駄目で。松葉杖使えば歩けるけど……」

 と言うと、男は少し悲しそうな顔をした。


 雨がザーーーーっと降り出してきた。

 その赤い男は和泉の横に立っていた。

 和泉も黙ったまま、雨を見ていた。


「カァーーー」

 とカラスが鳴いて、大雨の空から急降下して四阿に飛び込んできた。

「きゃっ」

 和泉は両腕で頭を覆った。

「グエッ」と悲鳴が上がったので、和泉が顔をあげると赤い男がカラスの尾を掴んでいた。

 カラスは激しく羽ばたいて逃れようとしたけれど、赤い男は腕を大きく上げてからカラスの身体を地面にたたきつけた。

「ギャッ」鳴いて、カラスは息絶えた。

「え……」

 赤い男はカラスを掴んでいた手をぺろぺろっと舐めた。

 え、カラス掴んだ手、舐めた…と思ったが、もしかしたらカラスは和泉をつつきにきたのかもしれないので、お礼を言った。

「あの、どうもありがとう。助かりました。最近よくカラスに威嚇されるの」

 カラスに威嚇って、我ながら格好悪いけどしょうがない。

「カラスだけ?」

「え、そういえば、猫とかにも引っかかれる。猫好きなんだけど、嫌われ度高くて」

 えへへと笑ったけど、赤い男はにこりともしなかった。

 それから赤い男は空を見上げた。

「雨が止む」

「え?」

 和泉空を見た途端に雨が止んだ。 

「本当だ」

「でもまた降る。雨が止んでいるうちに帰った方がいい」

 と赤い男が言った。

「そうですね」

 赤い男が車椅子を下の地面に置いたので、和泉は杖を使って階段をそろりそろりと下りた。雨に濡れた石の階段はつるつると滑るが、最近はこういう場所でも少しは慣れた。 焦らないでゆっくりと動くのが基本だ。だからあまり人がいる場所には出向かない。

 人に見られると焦るし、邪魔だとばかりに舌打ちされるのにはまだ慣れないからだ。

 車椅子に杖を乗せてから自分も座る。

「どうも、ありがとうございました」

 と和泉が顔を上げると、もう赤い男はどこにもいなかった。


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