最終決戦2 金の闘鬼
二匹の黒い狐が加寿子の前に飛び出したが、一匹は頭を飛ばされ、一匹は腹に大きな穴が開いて、落下していった。
「ふん、そんなものなの?」
次の瞬間には加寿子の操る狐軍が一斉に賢に襲いかかったが、青帝の大きな尾がそれらをはじき飛ばした。茶蜘蛛が加寿子に勢いよく糸を吐いたが、加寿子の手から放たれた細い鋭い閃光がそれを断ち切った。
すかさず白虎が加寿子に牙を剥いて襲いかかったが、加寿子に見つめられただけで白虎の動きが止まった。痺れたように身体が動かない。
「グギギ」
と白虎が呻いた。
「銀猫、私を敵に回すとはいい度胸ね」
と加寿子が言った。
白虎の中の銀猫の気配がたじろいだ。
「お前は私に逆らえない。そういう風に私が育てた。賢の懐にいても、お前は私の僕なの」
「グ……」
「お前はもう動けない。お前が動けないから、黄虎も動けない。ほうら、もう二匹脱落。橙狐もいない。生意気な狼もいない。水蛇も今ではただの蛇。動けるのは? 青帝、朱雀、紫亀、茶蜘蛛、緑鼬? 年寄りばかりじゃない。ほほほほ」
白虎はぴくりとも動けない。空中に固まったまま、止まっている。
「白虎!」
と賢が叫んだが、白虎は悲しそうな瞳を賢に向けるだけだった。
「ガウ!」
と唸って緑鼬が加寿子へ飛びかかった。
同時に朱雀が紅蓮の炎を吐き出す。
「ほほほ」
加寿子が笑いながら手を振り上げた。
閃光が生まれて、流れ星のように勢いよく式神達の上へ降り注いだ。
「ギャーーーーーーーーーーー」
と悲鳴が上がり、緑鼬の身体が炎に包まれた。
朱雀も青帝も茶蜘蛛も紫亀も一瞬でその身体を焼かれ、絶叫を上げた。
賢もただ眺めていただけではない。
閃光が降り注いだと同時に加寿子に向かい、攻撃を仕掛けた。だが全ての波動が跳ね返され、賢自身の身体を真っ赤な溶岩のような激流が襲った。
「賢兄!」
と陸が叫んだ。
「駄目だ、式を操るだけで精一杯だ! 賢兄、全然、回復できてない! 八神! 賢兄を護れ!」
仁が再び八神を呼んだ。
「和泉ちゃんの能力でも駄目だったって事? 水蛇を再生したじゃん!」
「それは……分からない。和泉ちゃんの能力も開花したばかりだから、使いこなせてないんだ。急に賢兄を回復しろって言われても無理な話だったんだ」
八神が現れて賢の前に立った。
銃を構えて加寿子へ射撃を始めたが、疲れ切った仁から力が送られない。
加寿子へ攻撃どころか、すかさず襲ってくる狐を防ぐ事も危うい。
賢は膝をついて大きく息をした。
「やはり、駄目か」とつぶやいてから、頭上の加寿子を見上げた。
賢の身体中の傷から血が流れ出ている。
ふさがっていた傷が衝撃で開き、激痛が賢を襲う。
痛みの為に精神の集中が出来ない。
手にも足にも力が入らず、パワーをひねり出す事も難しい。
攻撃の技を出す力を自分で感じられないのだ。
賢の身体を傷つける為の加寿子の作戦が見事だった、と言う他はなかった。
「しょうが……ねえな……闘鬼……闘鬼」
と賢がつぶやいた。
ふいに雪が止んだ。
加寿子がちらっと周囲を見渡す。
黒い狐がぐるるると空へ向けて威嚇した。
「やはり呼んだな? 若よ」
大きな大きな体格の男だった。
筋肉隆々の逞しい体躯、長い手足。
黒髪に、涼しげな瞳。
冷酷そうな薄い唇の両端からにゅっと牙が出ている。
頭の上には二本の長く鋭い角。
身体全体が金色に光る鬼、だった。
金色の鬼が空から下りてくる。
その為に暴風雨は止む。雷も遠慮する。夜は急いで明けようとする。
自然をも味方につけている鬼は賢の前に下りてきて、笑った。
「やはり無理か。強いな、お前のばあさんは」
と十二番目の式神、金の闘鬼が言った。
「……」
賢は何か迷っているような表情をしている。
「賢兄! 駄目だ! それは駄目だ!」
と陸が言った。涙声になっている。
「しょうがねえだろ、もうこれしか手がない。闘鬼なら……勝てる」
賢は顔を上げて、闘鬼を見た。
金色の鬼は素晴らしく不敵な笑みを浮かべている。
久しぶりの戦いに舌なめずりしているようだ。
逆に加寿子の緊張感が高まる。ぽつぽつと黒い狐が数を増していく。
「駄目だ! 賢兄! 闘鬼の力を借りたら、賢兄は闘鬼に食われてしまうんだぞ!」
仁が叫んだ。
「他に選択の余地がないだろ、それとも、俺に和泉を見殺しにしろって言ってるのか?」 と賢が言った。
「賢兄……」
「仁、陸、後の事は頼む。和泉の事もな。あんまり、泣かないように言ってくれ」
そう言ってから、賢はゆっくりと立ち上がった。
「いい覚悟だ、若よ。お前の思う通りにあのばあさん討ち取ってやろう」
と言って闘鬼がにやりと笑ってから加寿子を振り返った。
黒い狐が一斉に闘鬼に襲いかかった。
何千といる黒い狐が大群となり、闘鬼の方へ飛びかかりながら大きな固まりとなり、整列し、秩序よく並び、やがてそれは巨大な一匹の黒狐となった。
「笑止!」
闘鬼が片手を振った。




