格好いいセリフ
「時間がこのまま止まればいいのに」
と和泉を抱きしめたまま賢が言った。だがすぐに、
「……駄目だな、やっぱ。俺、こんな時なのに格好いい事が言えない」と言った。
「そんな事ないわ。賢ちゃん、格好いいよ」
と和泉が賢を見上げて言うと、
「どこが?」
と賢が聞き返した。
「え?」
「どこが格好いい? 俺の格好いいとこあげてみろ?」
「え……えーと、そ、そう! 土御門で一番強いし、悪霊もさらっとやっつけちゃうし、霊能力であたしの怪我も……」
「そーじゃなくてさ。そういう付加価値みたいなので得点を上げるんじゃなくて、人間として? 男として格好いい所はないのか?」
「そ、それは、あるわよ。小学生くらいの時にね、おやつを半分こした時にあたしにすっと大きい方を……」
「そんな昔までさかのぼらないと、俺の格好いいとこを思いつかないんですか、そーですか」
「そうじゃないけど、子供の頃って賢ちゃんて意地悪だったじゃん。でも賢ちゃんにそういう優しい一面があったっていうのが印象的でずっと覚えてるっていうか」
「そーですか。結局、霊能力以外に取り柄がないって事だろ」
「そーじゃなくてさ……でも、じゃあ聞くけど、賢ちゃん、あたしのどこが好きなわけ?」
と和泉が反撃した。
「え……」
みるみる内に賢の顔が真っ赤になって、賢は和泉から手を離して背中を向けた。
「賢ちゃん?」
「そ、それはいろいろあるけど」
「いろいろって?」
「小さいとことか、可愛いとことか、顔も超好みだし……」
黒い狐にやられたよりも、和泉の怪我をその身に引き受けたよりも賢にはダメージが大きいかもしれない。せっかく回復しつつある気力を振り絞っている。
「でもさ、そう言う割にはデートに誘ってきた事もないじゃない?」
和泉に向けたままの背中がぴくっとなる。
「だってよ」
と、賢が言って振り返った。
「そのうち、そのうち、と思ってるうちに、年取ってからの方が言いだしにくくなっちまって。何か会う機会もなくなってきて、就職したら、お前、彼氏とかすぐ出来たし」
「幼なじみって難しいわね」
和泉はふふっと笑ったのだが、
「彼氏出来るたびに呪ってやったけど」
と賢がつぶやいた。
「ちょ、何よそれ!」
「冗談だ…冗談」
和泉は少し考えてから、
「三年くらい前に結婚するはずだったんだけど、あたし」
と言った。
「え」
「二十五の時、前に勤めてた会社の営業一課の岡崎さんとつきあってて、プロポーズされたんだよね」
「……」
「でも、岡崎さん、それから体調悪くなって「狐が反対する」とか「鼬が後をつけてくる」とか言い出したんだけど、もしかしてそれ、あの子達の仕業なの? あたしが見た限りじゃ霊に取り憑かれてるとか全然感じなかったんだけど」
「……さて、そろそろ行かないと」
「賢ちゃん!」
「だ、だって、あいつ、二股かけてたんだぜ? お前と受付の女と。二股以外にも会社の女を食いまくりだったしよ。借金もあったし、絶対、苦労すると思って。お前、男を見る目がないから」
和泉はしゅんとなって、
「そうなの。あたし、今までつきあった人、割と変な人が多いの」と言った。
「短大の時、つきあってた男、既婚者だったしな」
「え?! 嘘!」
「本当、お前知らなそうだから言わなかったけど」
「嘘、じゃあ、あたし不倫してたの?」
「馬鹿だろ、お前。普通、気づかないか?」
「だ、だって、相手も大学生だったのよ?」
「子供が二人いた」
「本当に? …じゃあ、その人が「神様の声を聞いたから山で修行する」って言って消えちゃったのも?」
「……」
「そっかぁ」
と和泉は大きなため息をついた。
「あたし、賢ちゃんに凄い守ってもらってたんだ。水蛇ちゃんが怒るはずね」
「俺のストーカーっぽい行動に気づかない鈍感なとこも好きだ」
と賢が言ったので、和泉が笑った。
「あたし、そんなに鈍感かなぁって、賢ちゃん、あたしのストーカーだったわけ?」
「そんな人聞きの悪い。ストーカーじゃなくて、ストーカーっぽいだけ。いつも遠くから見守ってたっていう控えめな俺」
「何よそれ、それをストーカーって言うんじゃないの?」
和泉はくすくすっと笑った。
「でも、あたしに彼氏が出来る度に呪って、いつまでそうするつもりだったのよ。もっと早く言ってくれたらいいのに」
と和泉が言うと、
「いや、それは違う」
と賢が言った。
「違うって?」
「つまり……は吊り橋効果だ。今、和泉が俺とつきあおうって気になってるのは、いろいろと事件が起こったからだ。それ以前に和泉に告白しても玉砕して終わったはずだ」
「……」
「反論できまい?」
「……そうかなぁ。じゃあ、一回の告白で断られたら諦めるって事? 二十年もストーカーする割にちょっと諦め早くない?」
「いや、それは……いつか権力でいいなりにしようと……そのうち嫁のもらい手もなくなるだろうし」
「何よ、それ! 結局、あたしの気持ちがなくてもいいわけ?」
「だってさ-、実際、悲しいくらい和泉の眼中に俺はいないんですけど感が半端ねえっていうか……もう、そんな突撃出来ないっていうかよー。将来的に手に入ればいいかなって」
「将来的にって、あたしが四十になっても? 五十になっても?」
「うん」
「え~、五十才まで賢ちゃんに呪われるなんてやだっていうか、五十才っておばさんじゃない? それでも?」
「まだ全然大丈夫だ」
「え、じゃあ、五十まで独身で結婚できなくても、最終的に賢ちゃんがプロポーズしてくれるんだ」
「あの~どうしても五十まで待ちたいってわけじゃないんですけど、そこんとこ、分かってるか?」
「あたしだって五十才の花嫁なんて嫌よ」
と和泉が唇をとがらせた。
「和泉の事は五十になっても六十になっても好きだ」
と言って賢が和泉のとがらせた唇にちゅっとキスをした。




