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土御門ラヴァーズ  作者: 猫又
第三章

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時逆の娘2

「賢ちゃん……あの人、あの振り袖の女の人、加寿子大伯母様なの?」

 と和泉が言った。

「そうだ」

「大伯母様が……なぜ?」

 和泉は天井を見上げた。

 姿は見えないが、禍々しい気配は伝わってくる。

「竜之介さんってうちのお祖父ちゃんの事?」

 和泉は賢の顔を見上げたが、賢はふいと目をそらした。

「賢ちゃん」

「その話は……後だ」

 確かにそうだ。

 謎の追究よりも今はこの場をどうにかしないと、と和泉は思った。

 賢の身体は熱く、壁によりかかって立っているだけでも辛そうだ。

 式神達はまだ動けないで、敵の黒い狐と絡み合ったままだ。

 

 だが、時間の経過とともに力の拮抗が崩れてくる。

 最初に弱ったのは茶蜘蛛だった。足の一本を食いちぎられ、力がゆるんだ瞬間に黒い狐が茶蜘蛛の絡んだ足から抜け出して、和泉の方へ突進した。

 牙を剥いて和泉に襲いかかるのを賢がその身体を後ろへかばった。

 狐の牙は賢の肩に食い込んだ。

「ぐうっ」

 と、唸って賢が膝をついて床に倒れ込んだ。

「賢ちゃん!」

 と和泉が手を伸ばして賢の身体を支えようとした。

「若様!」

 と悲鳴に近い声がして、水色の大蛇が天井から落ちてきた。

「ば、ばかなっ、水蛇!」

 水蛇は賢の身体を護るように巻きついて狐に対して威嚇したが、水蛇が北の護りを放棄した事によって玄武神が消え、紫亀だけでは大挙する黒い狐軍を止められなかった。

 建物の中には次々に黒い狐が突撃して、賢と和泉を囲んだ。

 

 四神は変化をとき、それぞれに個体に戻り舞い降りてきた。

 黒い狐軍VS土御門の最高式神の壮絶な戦いが始まった。

 黒い狐は際限なく飛び込んでくる。

 無限とも思える数が絶え間なく飛び込んで来るのだ。

 倒しても、倒しても、次々に襲いかかってくる狐に式神達も疲労する。

 例えば無限に飛び交っているヤブ蚊の中にいる人間が蚊に勝利する為には? という問題だ。一匹潰す間に、十匹が噛みついてくる。

「セイリュウタイコウ! ミズヲ! スベテナガシテシマエバ!」

 と赤狼が叫んだ。

 だが青竜は首を振った。

「若様まで巻き込んでしまうし、この近辺の人間にも被害が出るやもしれん」

 賢と和泉がその場から逃げ出せればそれなりな攻撃も出来る。

 しかし、ここは野中の一軒家でもなく他の別荘にも人間がいるのだ。

 結局、式神達は一匹づつ黒い狐を倒していくしかないのだった。

 疲労していくという事は神経が消耗するという事だ。

 神経の消耗は反応の遅れにつながる。

 すべての者がその瞬間に気づいた時には、和泉の目の前にひときわ大きな黒い狐が立っていた。大きな口をぱっくりと開け、真っ赤な舌と尖った鋭い牙が見える。

「ふふふ。さようなら、和泉」

 と狐が言った。


 狐が和泉の首筋に噛みつこうとした。

 和泉は目を瞑った。

 賢が和泉の方へ手を伸ばした。

 水蛇が和泉の前に身体を投げ出した。

 狐の牙が水蛇の頭部を噛んだ。

 賢が「水蛇!」と叫んだ。


 すべてがゆっくりと流れていった。


 次に和泉が目を開けた時に、水蛇を噛んだ狐を赤狼が倒していた。

 目を大きく見開いている和泉の両手に、噛みちぎられてぽーんと飛んだ水蛇の頭部が落ちてきた。

 和泉の絶叫が上がった。


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