和泉、ウエディングドレスを着ちゃってみる3
土御門本家にて。
家族用のこぢんまりしたリビングで、朝子はティータイム中だった。
まだ、朝の十時だけど。
沢が手作りのクッキーやケーキを運んできて、テーブルに置いている。
「ふわ~」
と仁が出てきて、
「俺にも紅茶入れて」
とソファに座った。
「かしこまりました」
一人がお茶を飲み始めると、ぞろぞろと出てきて茶が欲しくなるのは世の常かもしれない。陸が出てきて、雄一も出てきて、最後に賢が出てきた。
沢は賢に砂糖とミルクをたくさんいれたコーヒーカップを渡し、その前にケーキをいくつも皿にのせて賢の前に置いた。
賢はコーヒーカップには口をつけたが、ケーキには手を伸ばさなかった。
「あら、賢さん、ケーキは?」
と朝子が言った。
「いらねえ」
「どうして?」
「そんな、甘いもんばかり食えるかよ」
「でも、食べないと。来週の祈祷場は大きいんでしょ? また痩せちゃうわ」
賢の霊能力の安定の為には巨体が必要なので、家族はいつも賢にあれこれ食べさせようとするのだが。
「これ以上太ると和泉ちゃんに嫌われるからいらない」
と賢が真顔で言ったので、仁と陸が紅茶を吹き出した。
「賢、和泉ちゃんは痩せた方が好きなのかね?」
と雄一が心配そうに言った。
「え、そんな事は知りませんが」
「男心だよねぇ、賢兄」
と陸が言った。
「メンズエステにでも……」
と仁が言いかけた時、賢が「しっ」と言って指を立てた。
「赤狼か?」
と賢が言った瞬間に、目の前がぐにゃぐにゃっと歪んだ。
「きゃーーーーー!!」
と言う声とともに、和泉の身体が空間にあらわれて、すとんと賢の膝の上に落ちた。
「和泉? な、何やってんだ?」
「まあ、和泉ちゃん、賢さんのところに来るのに、ウエディングドレスで飛んでくるなんてせっかちねぇ。うふふ」
と朝子が言って笑うと、
「白無垢もいいと思うよ」
と雄一が言った。
「和泉ちゃんをお義姉さんって呼ぶのかぁ」
と陸が言い、
「神道会館、春の予定を押さえとかないとね」
と仁が言った。
のんきな一家である。
和泉ははっと顔を上げて、周囲を見渡した。
「あ、あの、すみません。こんな格好で……あ、賢ちゃん、赤狼君が!」
と和泉が言うと、賢はしばらく耳をすますような素振りをしたが、
「やばいな、黒凱! 白露! 橙狐! 茶蜘蛛! 赤狼の援護に飛べ!」
と大きな声で言った。
「グエエエエエエエエエ」
「キエエエエエエ」
「ケーーーーーーーーーン」
「すぐにあっしが!」←?
式神達の返事があり、賢の背後から四つの影が飛び去った。
「一体何があった?」
と賢が言い、和泉はじたばたと暴れて、賢の膝の上から降りた。降りた瞬間にふらっとふらつきソファの背もたれに手をついて、崩れるように座り込んだ。
和泉は頭の上の薄いベールを取りながら、
「仕事で…山の教会? 廃墟みたいになってる場所で写真撮影だったんだけど……」
と言った。
「もしかしてS山町の上の方にあるやつ?」
と仁が言った。
「うん」
「あそこは駄目だよ。行方不明者が何人も出てる。うちも今調査中で、来週にも賢兄が大がかりな祈祷をする予定なんだ」
「え……」
和泉は動揺している。
「どうしよう……会社の人が三人一緒だったんだけど憑かれたみたいで、変になっちゃってて……赤狼君があたしだけ逃がしてくれて……でも、赤狼君も何か凄く疲れてたみたいだし……だ、大丈夫かしら?」
一息でしゃべってから、和泉ははあはあと息をついた。やけに息苦しかった。
和泉は不安そうな顔で賢を見た。
「赤狼は大丈夫だ」
と賢が言った。
「っていうか、お前は霊に憑かれやすいつってんだろうが! 山の上の廃墟となってる教会なんて、霊のたまり場に決まってるだろ! どうしてそんな所にのこのこ行くんだ! 馬鹿なのか? その頭の中には綿でもつまってんのか?」
「う…」
和泉は涙目になっている。
「まあまあ、和泉ちゃんも仕事ならしょうがないよ。世の中には霊の存在を信じない人もいるし」
と仁が言った。
「ご、ごめんなさい」
涙目の和泉にふんっとしてから、賢は立ち上がった。
「仁、陸、様子を見に行くぞ」
「はーい」
「ういっす」
「あ、あたしも!」
と言って和泉は立ち上がろうとしたが、すぐにふにゃっとソファに座り込んでしまった。
賢は携帯電話で秘書を呼んで車の手配をさせた。それから朝子の方へ振り返って、
「和泉の霊気が減ってる。しばらく歩けないだろうから休ませてやってくれ」
と言った。
「え、ええ、分かったわ」
と朝子が言って立ち上がった時、
「何を騒いでるんだね」
と声がして、加寿子が入ってきた。
加寿子はソファに座っている和泉を見て、
「またお前かえ。そんなドレスを着て押しかけてくるなんて、いやらしい娘だね」
と言った。
和泉はそれに答える言葉もなく、呆然としている。
皆が何て返事をしようかと考えた一瞬に、賢がソファから立ち上がれない和泉の身体を抱き上げて、
「失礼します」
とだけ言って、リビングから出た。
抱きかかえたまま自分の部屋に連れて行き、ベッドに和泉を寝かせると、
「しばらく眠れ。赤狼がお前を逃がす為に霊能力を少し吸い取ったから、力が出ないだろう?」と言った。
「うん」
「俺は教会の様子を見に行ってくる」
「うん、賢ちゃん、ごめんね」
賢はふっと笑うと、和泉の頭を優しく撫でてから部屋を出て行った。




