気づけば二人っきり
残ったのは賢と和泉と真っ赤な赤狼。
「あー、賑やかだったね。十二神って、いつから側にいるの?」
「一番古いのは銀猫で小学生くらいか、霊能力が高まる度に支配できる数が増えていく。揃ったのは高校生くらいかな」
「そっか、賢ちゃんて学校で友達いなかったじゃん、でもあんまり寂しそうな感じがしなかったのは十二神がいたから?」
「友達いなかったって、失礼だな。まあ、少なかったけど。そうだな、いつもあいつらがいるからうるさかったな」
「ふうん、いいわね。頼もしい仲間がいっぱいいてさ。みんな、若様のお役に立ちたくてしょうがないって、それだけ慕われてるって事よね」
「さあな、それはどうかな」
「どうして?」
「主従関係なんてそう深いもんじゃねえ。俺に力がなくなればこいつらはすぐに俺を食って逃げるだろう」
「そうなの?」
和泉は赤狼を見た。
赤狼は(そ、そんな事しませんよ、キリッ)という顔をしたが、視線が泳いでいた。
「銀猫にしても昔は加寿子ばばあの眷属だったんだが、力が弱いという理由でばあさんに捨てられたんだ」
「捨てられた?」
「ああ、ばあさんはああ見えて、結構な技を持ってるんだ。霊能力的の高さではそうでもないが、それを使うのが巧い。低い能力を上手に活用する。いくつも式を飼っていたが、銀猫を飼う余裕を他へ回したい為に銀猫を捨てた。式の側からにしても、霊能力の弱まった術者には用はない。上手に式神を扱わないと、こっちが食い殺される場合もある」
「そうなんだ」
和泉は赤狼を見た。赤狼はぎくっとした感じで和泉をちらっと見た。
「だがまあ、厳しい掟で主従の契りは交わしているから、俺が元気なうちは裏切る事はないだろう」
赤狼は大慌てで、うんうんうんうんとうなずいた。
「へえ」
和泉がふふっと笑った。
「和泉」
「ん?」
「明日、どっか行かないか? デートしよう」
と賢が言った。
「明日? 駄目よ」
「即答ですか……そうですか」
「だって、お正月の元旦は近い親族のお年始で、二日は親族でお弟子さんのお年始の日でしょ? 三日は一般のお弟子さんだっけ? いつも一月は忙しいんじゃなかった?」
「まあ、そうだけど」
「賢ちゃんがいないと駄目でしょ?」
「そうかな」
「そうかなって、あたしに言われても~でも、あたしも明日から仕事だし」
「二日から?」
「うん、最近は書店も開いてるわよ、お正月でも」
「へえ、何時に終わる?」
「六時半くらい」
「じゃあ、迎えに行くから飯食いに行こう」
「うん、場所知ってる? あのね」
と和泉が説明しようとすると、
「知ってる」と賢が言った。
「え? あたし、言ったっけ?」
「和泉の事ならなんでも知ってる」
と賢が言った。
「そういえば、ここのアパートの場所も知ってたよね? ストーカーなの?」
「ストーカーじゃねえよ。和泉の居場所はすぐ探知できる。式がついてるから」
「そうなの?!」
「うん」
「もしかして、お風呂に入ってるとか分かるんじゃないの? やだ、えっち」
「あほか、そんなもん覗かねえよ」
「覗こうと思ったら、覗けるの?」
「覗けるわけないだろ」
「本当?」
「まあ、式と一緒には入らないほうがいいな」
「じゃあ、覗けるんじゃない!」
「いや、だから、覗かないって」
「もう~」
「もう~って……実物が目の前にいるのに、わざわざ遠くから覗いてどうする」
と賢が言ったので、和泉はふと今の状況に気がつく。
赤狼はふあ~っと大きくあくびをしてから、前足に頭を置いて目を閉じた。
(あ~どうしよう、気がつけば二人っきりだ。これは非常に……やばいんでない? 押し倒されたらどうしよう……こんな狭いアパートでなんかやりたくないなぁ。賢ちゃんの巨体じゃシングルのベッドじゃ身体がはみ出しちゃうよ。雪深い別荘とは言わないけど、せめて最初はもうちょっとムードある場所で……なんて賢ちゃんにそんな気遣いないだろうなぁ……銀猫さんが童貞って言ってたし。この年で女の子とつきあった事もないのかしら。デートした事もないのかしら……えっちの仕方知ってるのかしら)
などと考えていると、
賢が和泉の方に手をのばしてきたので、和泉はちょっと緊張して身構えた。
賢の手が和泉の頬を触る。そして。
和泉のほっぺたをぎゅう~っとつねった。
「いたたた、何すんのよ!」
「俺、昔っから、和泉の考えてる事は分かる。童貞で悪かったな」
と言った。
「え、嘘、いや、悪いとか思ってないし。ってか、本当に考えてる事が分かるの!?」
「分かる」
「霊能力で?!」
賢は笑って、
「そうじゃない。霊能力は漫画みたいな超能力じゃねえし。そんな超能力が実際に存在するかどうかは知らねえけど。何となく、だ。それに和泉だけだし」
と言った。
「何で分かるの?」
「さあ、好きだからじゃねえ」
「へ、へえ」
和泉がぽかんとしていると、
「やり方くらい知ってるし、雪が残ってるうちに別荘に行こう」
と、賢が言って笑った。




