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土御門ラヴァーズ  作者: 猫又
第四章
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幸せの予感

「まあ、それは許してあげるわ。それでまだ体力が戻ってないの? 痩せたままなのね」

 と言って和泉は賢を見た。

「まあな…。今は休暇取ってるから、ゆっくりとな」

「首あったんだね。今まで埋もれて見えなかったんだ」

「あるっつうの」

 賢の言葉に和泉はふふっと笑った。

「赤い奴は? 気配がねえな」

「赤狼君はお留守番よ。一人でここまで来るの大変だったわ。とは言っても空港からタクシーだけど」

「どうして留守番なんだ。側にいなきゃ、護ってる意味がないだろ。いくらかは霊気をコントロール出来るようになったみたいだが、一人じゃ危ないぞ」

「うん、だって、さ、やっぱ、恥ずかしいじゃない」

 と言って和泉はまたうつむいた。

「何だ?」

「だからさ、まだ、有効かな、と思って」

「?」

「……美登里さんがさ、来世は虫に生まれ変わるって言うんだけど、本当?」

「虫?」

「うん、あたしが……逃げたから来世は虫だって……」

「どうして和泉が虫になるんだ? 生まれ変わりにはまあ、多々、いろんな説はあるが、罪を犯した人間が人外に生まれ変わるの確かにはある。普通の虫にでも生まれ変われたらまだまし、ウジ虫になって一億年も二億年もというのもあるしな」

「……あるんだ」

 和泉の顔は引きつっている。

「それはよほどの罪人の話だ。殺生は罪が深いからな、何度生まれ変わっても人にはなれない。生まれ出た生で徳を積んで、それを何回も繰り返してようやく……」

「ようやく?」

「……忘れた」

「何よそれ。そういうの教えてるんじゃないの?」

「教えてるけど」

 和泉は一体何をしに来たんだ、と賢は思った。

 もう会えないと思っていたから、会えたのは嬉しい。

 心臓がばくばくして破裂しそうだ。

 どうやってこの会えた時間を引き伸ばそうか、なんて考えてしまう。

 輪廻転生についてしゃべればいいのか?

 話せと言われれば一晩中でも話すが、わざわざそんな事を聞きに来たのか?

 パソコン一台あれば自分の所まで来なくても調べられるのに。

 いや、そんな事はどうでもいい。

 早く帰ってもらって、一人で泣こう。

 そうしないと……無理矢理にでも押し倒して、犯罪者になってしまいそうだ。


「輪廻転生についての講義なら仁の方が上手い。初心者用のクラスに申し込んで講義を受けてくれ。初心者用はテキストがついて、月に二回の講義で半年間で三万九千八百円だ」

「へえ、高いのね。でもそんなにお客さん来る?」

「来るさ。だが、霊感があるのと陰陽師として適正があるのは違うからな。修行の道に入っても、挫折する人間は多い」

「ふーん」

 と和泉は言った。

「で? 何がまだ有効なんだ?」

 と賢が聞いた。

「だから……お嫁さんにしてくれるのは、まだ、有効かな、と思って」

 と和泉が言った。

「……」 

「もう遅い……?」

「今、何て言った?」

「もう遅」

「いや、どう考えてもその前のセリフだろ。重要なのは! いや、その。き、き、き、き、き、聞き間違いだったら、お互い困るし。俺の妄想が重症なのかもしれないしな。仁が言うには和泉の事は俺の妄想と思い込みらしいから」

 和泉は息を一つついて、

「お嫁さんに……してくれる?」

 と言った。

「……」 

「賢ちゃん?」  

 賢は和泉の方を見ているが、視線が動かない。

 和泉は手をひらひらと賢の顔の方へ振ってみた。 

 賢は固まってしまっているようだ。

「賢ちゃん!」

 和泉は立ち上がって、ひょこひょこと賢の横まで歩き隣に座った。

「いろいろ考えたんだけど、結局、まあ、要するに、賢ちゃんの事が好きみたい。だから足を理由に身を引いてもいいんだけど、賢ちゃんと美登里さんが結婚したらすっごく後悔しそうだし。嫉妬でなんだかすごく嫌な人間になってしまいそうだし、それだったら少し頑張ってみようかなと……」

「……」

「賢ちゃん! 聞いてるの?」

 和泉は賢の腕を掴んで揺さぶった。

「き、聞いてる」

「……お嫁さんにしてくれる?」

「そ、そんなに俺の嫁さんになりたいんだったったたたら、し、してやってってもいいぞ」

 と全身が真っ赤で脂汗をかいている賢が言った。

「噛み噛みじゃん」

 と和泉はぷっと笑った。

「な、何だよ」

「でも、足、悪いしあんまり役に立たないわよ。いいの? 親族の大伯母様達に反対された上に、御当主を継いでも奥さんがあたしじゃ恥かくのは賢ちゃんよ? 本当はおじさまもおばさまも美登里さんの方がいいのかもしれないし」

 と言った。

「俺が……俺が和泉がいいんだから、好きなんだから……だから、絶対、絶対、幸せにするから……嫁さんになってください」

 と賢が更に真っ赤な顔で言い、和泉は、

「はい。よろしくお願いします」

 と答えた。

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