表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
土御門ラヴァーズ  作者: 猫又
第四章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

100/107

前夜

 祈祷祭、前日、午後八時。


 夕食も済ませ風呂にも入り、後は明日に備えて寝るだけである。

 和泉は自分の部屋でぼーっとしていた。

 明日の祈祷祭の事を考えれば、今夜は眠れそうもない。

 心臓がどくどくと脈打つのが自分で分かるほどに緊張していた。

 自分で何かするわけでもないのだが、やはり平静ではいられない。

 側で寝そべっていた赤狼が、ひょいと顔を上げた。

「どうしたの?」

「呼んでいる」

「え?」 

「次代が呼んでる」

「賢ちゃんが?」 

「ああ、行くか? 断るか?」

 会いたい気持ちと会わない方がいいと思う気持ちがある。

 会わない方がいいのは分かっている。だが和泉は、

「行くわ」

 と答えた。


 人型になった赤狼に車椅子を押してもらって、和泉は外へ出た。

 九月の夜風は少しだけ秋の気配を連れてくる。

 昼間はまだ暑いが空を見上げれば高く、それはすでに夏の空ではなくなっている。

 庭から外へ出ればすぐに公園の堀が見える。

 堀の外周には小さな橋がいくつかかかっているが、今はどれもが通行禁止になっていた。

 城跡周囲には足場が組まれて白いシートがかかって、中を覗くことも出来ないようになっていた。赤いランプを灯して、警備員が二十四時間交代で見張っている。 


 小さい橋の上で立っている人影が見えた。

 橋の上にはオレンジ色の照明が灯っている。

 赤狼は橋の手前で車椅子を止めた。

 賢が和泉の方を向いて、

「久しぶりだな」

 と言った。

 和泉はかすかにうなずいた。  

「赤狼、よく復活したな」

 と賢が赤狼に言い、

「まあな」

 と赤狼が答え、それから、

「これから和泉は俺が護るさ。あんたはもう和泉を護るつもりがないんだろう? 足が不自由になったくらいで追い出しやがって!」

 と言った。

「違うのよ。赤狼君、あたしが勝手に逃げ出したの。賢ちゃんは……」

 と和泉が言ったが、

「あんたがずっと側にいて和泉を護ると思ったから、俺は!」

 と赤狼が続けた。

「悪かったな、赤狼。自爆までして俺達を護ってくれたのに」

「……」

「だけど、お前が和泉の側にいてくれてありがたいと思ってる。赤狼なら安心して任せられるからな」

 賢の言葉に赤狼はぷいとよそ向いた。

「少しだけ話をしてもいいか?」

 賢がそう言うと、赤狼は和泉の車椅子から手を離した。

 そして人型の赤狼の姿がゆらっと揺れながら消えた。

「夜とはいえ、どこででも姿を消すなよ」

 と賢が笑った。

 

 しばらくの沈黙の後、

「銀猫達が来たか?」

 と賢が言った。

「うん」

「そうか、悪かったな。あいつらの言うことは気にするな」

 銀猫さんの言う通りだよ、あたしが悪いから、という言葉を和泉は飲みこんだ。

 今更、それを言ってもどうにもならない。

 何の慰めにもならない。

 心臓がきゅーっと痛くなるほど、それは分かっている。

 せめて涙は見せないでおこう、と和泉は少しだけ笑って見せた。

 微笑みを顔に貼り付けるのが精一杯だった。

「明日の祈祷祭で最後にする」

 と賢が言った。

「やっぱり駄目なんだろ? もう諦めるよ。電話もメールももうしない。今まで悪かったな。これでさよならだ」

 和泉は少しうつむいた。

 身体が重くなって、急に動けなくなった。

 左足だけではない、右足も、手も、顔も、頭も、もしかしたら心臓さえ止まってしまったのかもしれない。言葉を発する事も出来ず、涙も出なかった。

 今までありがとう、と言うべきだと思ったが、和泉の口は開かなかった。

こつこつと足音がして、和泉に賢が近づいてきた。

 そしてうつむいている和泉の頭を優しく撫でてから、

「送らないから、赤狼に迎えにきてもらってくれ」

 と言って、そのまま和泉の横を通り抜けて去って行った。



 一時間ほど和泉はそのまま動けなかった。

 賢が去って行った瞬間から涙が溢れた。

 それをぬぐうという行為も頭に浮かばなかった。

 ただ、泣きながら、しょうがない事だと自分に言い聞かせた。

 自分で選んだ道だった。

 ぐるぐるぐると頭の中で「さよならだ」の言葉だけが何度も聞こえた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ