僕はゴスロリ少女をお姫様抱っこした
あの後、不良たちは非行少年更生プログラムと称する謎の大人に引き渡すことになった。
非行の裏には家庭環境など様々な事情が考えられるため、そこに一旦預けてしまうのがこの町のやり方らしい。
……いやあれヤ〇ザだったよな。どう見ても。
「もしかして――」
「誰某組関係よ。あまり深入りしないことね」
これから夏休みの間、彼らは迷惑かけた方々への謝罪参りや清掃活動に駆り出されるそうだが……果たして無事生きて2学期に登校することはできるのだろうか。
いや、そんなことは正直どうでもいいが。こんなところでバイトしていて僕のキャリアに致命的な傷がついてしまわないだろうか。
「なんでもやと誰某組に直接的な関係はないわよ。だから、深入りしないことね」
「……そう」
こういう時の忠告は素直に聞くものだ。この件には深入りしないようにしよう。
――――――――――
不良退治という斎藤さんからの依頼を達成し、事務所への帰路に就いた僕たち。
「随分と快適じゃない」
「そりゃどうも」
僕は緋奈ちゃんを、所謂お姫様抱っこした状態で飛行していた。
「探す時もこれで良かったんじゃ? というかスィンジェちゃんって自分で飛べるよな」
「駅の近くは町外の人間がいるから迂闊に超能力は使えないわ。それと、私はあんたと違って飛ぶと物凄く『iE』を消費するの」
だから事務所から直接飛んで探しに行くことはできない――と、成程ね。
「あんた戦闘では役に立たなそうだし、私の専属ヘリとして頑張りなさい」
酷い言われよう。
そうだ、戦闘といえば聞きたいことがあったんだ。
「さっきのアレは何だ。傀儡って一体……」
「全く質問が多いわね」
ジト目でこちらを見上げてくる緋奈ちゃん。
そんな言い渋ることなのか。
「私は血を吸った人間を操れるのよ。血液を通じてね」
曰く、この子の本来の能力は血液を自由自在に操るものなんだとか。昼間の日傘も、昨日の蝙蝠の羽も自らの血液で形作った創造物。いざとなれば武器も作れるのだとか。
重要なのは、自らの血のみならず牙が触れた人間の血も、吸血から暫くの間は操れるということ。
「暫くってどれくらいなんだ」
「大体2日くらいかしら」
「結構長いんだな」
血液というのは血管を通じて全身に張り巡らされているものだ。それを操れるということは即ち、相手を操り人形にすることもできれば、容易く命を奪うこともできるということだ。
「僕に怪我が無かったのは」
「そういう風にできるからよ。私も感覚で操ってるから、詳しい仕組みは分からないけど」
詳しい仕組みが分からない状態で人の血液を操るのは勘弁してほしい。
知らず知らずのうちに生死を握られていた――これを知って恐怖しない方がおかしいだろう。心拍数が上がるのを感じる。
「ちょっと、何ドキドキしてるのよ。もしかして私の足を触って欲情してるのかしら」
「違ぇよ、落とすぞ」
もちろん冗談だ。もしそんな素振りを見せたらこの子はすかさず僕の行動を縛るだろう。僕の血で。
全く恐ろしい子だ。
「そろそろ降ろしてくれるかしら」
眼下の景色は農地から住宅地へと変わり、駅前商店街のアーケードが徐々に近づいてきた。
僕は前方への移動をやめて道路へゆっくりと降下する。
「運んでくれてありがとう」
地面に降り立った緋奈ちゃんは僕の目の前でくるりと1回転をすると、優雅にお辞儀した。その姿はとても優雅で綺麗だ――
ったろうが、夕日の逆光のせいで影しか見えなかった。とても残念なことだ。
「またぜひお願いするわ」
まあ、そう言ってコテンと首を傾げる仕草は影の輪郭だけでも可愛かった。




