普通に灰になる
ところで、僕が吸血された理由は何だったんだろうか。
あの後、事務所を出て(鍵はちゃんとかけた)緋奈ちゃんの道案内で汗高校の立地する西地区へと向かった僕たち2人。その道中で僕はそんなことを考えていた。
「なんで教えてくれないのさ」
というより、このように直接何度か聞いてはみたのだが……。
「内緒、その時になれば分かるわ」
しかし、この子は一向に教えてくれなかった。
教えてくれないのにも理由があるのか。
いや、何となくだが、唯々意地悪をされているだけのような気がする。
「しっかし暑いな」
「そうね」
真夏の農道でも緋奈ちゃんの恰好はゴスロリのままだ。日傘があるとはいえシックな色味の且つ厚着では大変暑そうだが……それでも汗の1滴かいている様子はない。これも吸血鬼の能力なんだろうか。
……この子、吸血鬼なんだよな。ここ、日光を遮るものが何もない炎天下だぞ。
何となく感じていたミスマッチの正体はこれか。
「ひ……スィンジェちゃんは日光大丈夫なのか。吸血鬼なんだろ」
「駄目に決まってるでしょ。当たったところから灰になるわ」
……昨日、夕日に当たってなかったっけか。
「冗談よ。普通に日焼けするだけ。超能力にデメリットは無いの、知らなかった?」
そうかな。僕の能力はある意味デメリットなんだけど……まあ受け取りようによるか。
軽トラによって雑草が踏み固められた虫多めの小道にも臆することなく、前をスタスタと歩いていく緋奈ちゃん。時々振り返って僕が付いて来ていることを確認すると、少し微笑んでまたスタスタと歩き出す。
言動はキツイが、笑いかけてくれるということは悪い印象を持たれているわけではないようだ。
「アレね」
少し大きめの舗装された道路に出た。僕たちが歩いてきた道との丁字路にはカーブミラーが設置されていたが……それはスプレーで真っ黒に塗られてしまっていた。
「酷いな」
そこから横に伸びるガードレールにはひたすら落書きがされていて……まさに悪ガキの所業。高校生にもなって恥ずかしい。
「斎藤さんによると……この辺一帯で暴れているガキ共は強そうな人からは逃げ、弱そうな人には喧嘩を売ってくる――だったかしら」
少女の口角が上がり、鋭利な犬歯が姿を見せる。
「これは懲らしめ甲斐があるじゃないの」
しかし、現場には来てみたものの都合よくここに現れるということもないだろう。
「どうやって探すんだ」
「あんたが飛べばいいじゃない。ドローンカメラみたいに探せるでしょ」
僕はドローン扱いか。いや、それくらいしか活躍できないといえばその通りなのだが。
ただ――
「こんな誰が見てるか分からないところで大っぴらに超能力を行使するのはマズんじゃないか」
この国は一般の人々に対して超能力の存在を伏せている。観測されていないこともないが、それら超能力の引き起こす超常現象はオカルトとして消費され、国が言及することは絶対にない。
組織の管理下にない超能力者に秘匿義務があるというのもそういうことだ。
「いいわよ、自由に使ってくれて。この町の住民は皆、知ってるから」
……
「え、知ってるってどういう」
この町に来てから1番の衝撃が僕を襲った。
成程、あんな駅前で大っぴらに超能力者を募集していたのもそういうことだったのか。
「え、じゃあ昨日の『記憶を消す』発言は何だったんだ」
謎は謎を呼び、混乱は加速する。
……正体の分からないものはないものとして考えた方が人生はきっと上手くいく。であれば、僕は違和感を無視して必要な行動だけしていればいいのだ。
……
「え、もしかして緋奈ちゃんも社長も僕がこの町の出身じゃないことに気づいていた?」
同じような反応を3回もしてしまえば諄いことくらい分かってはいるが、流石に色々と不審なところが多すぎ――
「ええそうよ。だからさっさと……行ってきなさい!」
「吹っ飛ばす必要は無ぇだろおおおぉぉぉぉ!!!!!!」
苛烈な少女は僕に混乱している暇を与えない。
気づけば僕は凄まじい風圧で地上X0mまで巻き上げられていた。




