なんだこの怪しい会社は
「まずはねー、君について聞きたいんだよね」
面接が始まった。僕はバイトの面接というものの経験が無いので少し緊張している。
「君は超能力者みたいだけど……どこかに所属していたりはするのかい?」
「いえ、どこにも所属しない秘匿超能力者です」
基本的に超能力者は国の管理下に置かれ、何かしらの組織に所属している。組織への所属を希望しない超能力者は一般人の前での能力使用を制限され、超能力者であることを秘匿する義務を負う。
「そっかそっか、秘匿解除の手続きをしないとだね。出身はこの町……ではなさそうかな」
「はい。一昨日、隣県から引っ越してきました」
「それはどうして」
まあ聞かれるよなあ……うーん、どう答えよう。「あの事件」を起こしたから――なんて言えない。
「まあ、超能力者に秘密はつきものだからね。無理に応えなくても大丈夫だよ」
「ありがとうございます」
よかった。このおじ……杉本さんが超能力に明るい人間だとしても、あのことを自ら話すのは憚られる。
「じゃあ、最後の質問。君の持つ超能力は何かな」
「私も気になる。あんたからはとても強い『iE』の匂いを感じた」
「iE」の匂いとはなんだ。
でもそうか、さっき緋奈ちゃんが僕の首元を嗅いでいたのはそれだったのか。
「僕の能力は――」
杉本さんと緋奈ちゃんから熱い視線が向けられる。それが面白くてつい勿体ぶってしまった。
「僕の能力は、チート飛行です」
……
急速に場が冷えていくのを感じる。いや、僕は悪くないよ。
「えーと、具体的にはどういう」
「『Minecraft』というゲームを知っていますか」
「ごめんね、僕ゲームよく知らなくて……」
そうか、知らないなら無理もないな。
「緋奈ちゃんは――」
「スィンジェ」
「スィンジェちゃんは知ってる?」
「知ってるけど」
おかしい、どうしてそんなに声のトーンが低いんだろう。
「僕らって普段重力に囚われながら生活しているじゃないですか。僕は『iE』を消費して重力の影響を排除して自由に移動できるモードに入れるんですよ」
「それで、チート飛行なのね」
「はい。マインクラフトというゲームのクリエイティブモードの飛び方にそっくりなので」
分かる人には分かるだろう。分からない人は……YouTubeで検索してみて欲しい。
「成程ね、それから?」
「……?」
「えっと……それだけかい?」
「はい、それだけです」
……
沈黙が痛い。
分かるよ。ショボイよね。ごめんね、よくある異能モノの主人公みたいな能力じゃなくて。
「はぁ……興醒めよ」
勝手に期待され、勝手に落胆されるということがこんなにも腹立たしく虚しいものなのか。
ため息を吐きたいのはこっちだよ。
「ま、まあ、それが役に立つ場面はきっとあるさ」
あるかなぁ……キモい動きで空飛べるだけだよ?
「こ、今度は僕からこの会社について説明するね」
気を取り直して。杉本さんから遂に会社の説明が始まった。
「有限会社汗町なんでもや」――これは僕が想像した以上に歴史ある企業らしい。
「業務は単純、町の人たちからの依頼を素直にこなす――以上だよ。駅前の清掃、迷子猫の捜索、防犯パトロール、選挙の時のビラ配り、用心棒代の集金、悪徳超能力者の撃退なんかだね」
ん? 最後の2つはなんだ。もしかして……
「ここってヤ――」
「そうよ」
緋奈ちゃんの即答に冷たい汗が背中から滲むのを感じる。寒気に襲われた僕は思わず熱々の湯飲みを手に持った。
「これはホントは言っちゃダメなんだけどね。ここは誰某組のフロント企業でね」
「ブーッ!!」
思わず口に含んだお茶を吹き出してしまった。
言っちゃダメなことを採用前の人間に言うなよ……もう逃げられないじゃないか。
「ケホッ……も、もしかして、杉本さんも昔は組でブイブイ言わせてたとか……」
「いやあ、僕はただの雇われだよぉ。トカゲのしっぽってやつさ、はっはっは」
……なんか説得力あるな。だって、杉本さんって覇気がないもんな。
「だからたまに他所から襲撃が来たりするんだけどね。まあうちには緋奈ちゃ……しんじぇちゃんの他にも超能力者が4人もいるから、翔君は安心してくれていいよ」
安心できるわけがないだろ。なんだよ襲撃って。ゲームで見るカチコミってやつか。現実にあるんだなそんなこと。
「そんなわけだから。あんた暇なら明日から来なさい」
「翔君、待っているからね」
その後、LINEのトークグループに招待してもらってから事務所を後にした。
サビサビの階段を転ばないよう気を付けながら降りると、アーケード街にはすでに明かりが灯っている。
「いちいち雰囲気があるな」
切れかけなのか点滅している蛍光灯を見て僕は呟く。分かっている、これは現実逃避だ。
とんでもない会社に入ってしまった。妙に目につくシャッター広告が恨めしい。
「……不安だ」




