パンツ1丁のフランケンシュタイン
「あんたたち社長からのライン見てないの?」
「ああ」「見てないッスねぇ」
只今現在はバラバラになってしまったフランケンシュタイン――真人さんの接合中だ。
緋奈ちゃんの温情もあって切断されたのは腕と足の関節部分のみ。「iE」があればこれくらいなら修復は容易らしい。
それにしたってパーツが軽い。何でできてるんだこれ。
「仕事よ。東地区の公園の芝刈りを頼みたいって」
「雑用じゃないか」
芝刈りて。普通そういうのって町がやるものなんじゃないのか。
「俺たちはなんでもやッスからね。可能なら何でも請け負うんスよ」
「そうなんですか」
それにしたってこの灼熱の炎天下で芝刈りかぁ……。
「翔、あんた顔に出過ぎ。まあ気持ちは分かるわよ」
「社長は押しに弱いッスからねぇ。頼まれると本当に何でも請けちゃうんスよ」
客相手にもあんな感じなんだろうか。うーんそれは心配だな。
そんなことを話している間に真人さんの接合が完了し、パンツ1丁のフランケンシュタインが1体出来上がった。
「ありがとう、翔君。『iE』を分けてくれて助かったッス」
僕の「iE」は割と無尽蔵だからな。これくらいなら余裕だ。
「じゃ、早速作業服に着替えるッスよ。あ、作業服は向こうの棚にあるッス」
「僕が取ってきますよ」
「おお、お願いするッス。俺のサイズは3Lで、よろしくッス」
「おれのはきっずサイズだ!」
「ハクも!」
これだけ大きいと3Lになるのか。そんでコクとハクは子供用っと。
僕はどれくらいだろう。Lくらいかな。
「ちょっと待ちなさいよ」
「何?」
「あんたらここで着替える気なの?」
緋奈ちゃんは何を言っているんだろう。何か問題があるだろうか。
「どうして?」
「更衣室があるんだからそこ使いなさいよ。今お客さんが来たらどうするの」
成程。確かにそれは尤もだ。
「でもここで俺をパンツ1丁に引ん剝いたのはスィンジェちゃんッス――」
「何か文句?」
「いや、何でもないッス」
弱いなあ。幾ら怪力の持ち主と言えど、バイオレンスな女の子には敵わないんだな。
「えーと、真人さんは3L、コク、ハクは子供用、僕はLで……緋奈ちゃんは?」
「スィンジェ」
「……スィンジェちゃんは?」
「私は要らないわ」
どういうことなんだろう。まさかゴスロリのままで草刈りするのか。
「しんじぇねえはへんしんするんだ!」
「だからさぎょーふくいらない、の!」
なんだと。変身できるのか。
……もしかして、あの服も血液で作った創造物?
ということは、変身するときには――。
「ふふ、気になる?」
そう言って妖艶に笑う少女。
それに見惚れてしまった僕はつい作業服をドサッと落としてしまう。
「ああもう何やってるんスか」
我ながらなんてチョロいんだ。情けない。見た目年下の女の子の変身シーンを想像して動揺するなんて。
「ほーら、コク、ハク、お着換えに行くッスよー。翔君とスィンジェちゃんを邪魔しちゃ悪いッス」
余計なお世話だよ。とはいえ、僕の視線は緋奈ちゃんから離れない。
僕だって健全な男の子なのだ。
「そんなに気になるならいいわよ。ふふっ、目に焼け付けなさい」
緋奈ちゃんがそう言うと、身に纏っていたゴスロリ服がみるみるうちに融けていく。
このままでは少女の真っ白で無垢な柔肌が露わになってしまう。
見てはいけない。
そうは思うが僕は己の欲求に逆らうことはできなかった。
僕の視線は釘付けだ。
……ん? おかしい。全くエロくないぞ。
むしろ気持ちが悪い。変身の絵面は想像していたよりも大変にグロい。
少女を包む赤黒い液体は絶えず形状を変えながら生々しく脈動している。それが何というか、見る者の生理的嫌悪を掻き立てる。
対して、着替えというには全くと言っていい程、肌は見えない。それどころか身体のラインすら窺い知ることはできない。
しなやかで薄く儚い体躯を目の当たりにできると勝手に期待し、妄想した僕は見事に撃沈したのであった。
「ふふ、どう? 美しかったでしょう?」
気づけば緋奈ちゃんは赤黒いちょっと目立つ色合いの作業服姿へと変化していた。
髪型も、邪魔にならないようにだろうか、いつものポニーテールがお団子になっていた。
「……僕も着替えるか」
「ちょっと、私の着替え見たんだから何か感想くらい言いなさいよ」
「凄く綺麗だったよ、うん」
なんか、なんだろう……弄ばれた気がして僕は今、凄く悔しい。
そんな気持ちを抱えながら僕はすごすごと更衣室に向かったのだった。




