重いのは運びたくない
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「俺ッスか? 俺はこういう者ッス」
そう言って彼はパーカーを脱いだ。
露わになる首元。そこには太いボルトが刺さっていた。
――――――――――
『必要になったらグループラインで連絡するから。わざわざ事務所に毎日来なくていいわよ』
そう緋奈ちゃんには言われたが……。
「かけるにいちゃん、せんたいごっこしようぜ。おれはレッドな!」
「おにい、だめ。かけるにいはハクとおはなやさんごっこするの」
「はいはい、順番にやるからね」
「いつもおにいがさき。ずるい」
「おれはあにきだからな!」
なんだかんだ僕は事務所に入り浸っている。
だって、冷房は勝手に点けていいし、備えられたお茶も自由に飲んでいいときたもんだ。切り詰めた家にいるよりよっぽど快適じゃないか。
「へん、しーん!」
「ハクもやる! へんしーん!」
「ははは、来たな! レッド、ピンク!」
それに、事務所に来た他のメンバーと交流もできて、まさに一石二鳥というものだ。
コク、ハクの2人と戦隊ごっこを楽しんでいた時、事務所のアルミ製扉がガチャリと音を立てて開いた。
「社長いるッスかー?」
見たことのない青年だった。歳はおそらく僕より上。
半袖パーカーにジーパンとよくいる若者の恰好だが、気になるのはパーカーをしっかり被っているということだ。
この猛暑の中、パーカーを被るだろうか。普通は外して背中にぶら下げておくものだろう。
「社長は今、外出中ですよ。あなたは?」
「まひとにいちゃん!」「まひとにい!」
まひと……もしかしてこの人が社長の言っていたあの――
「俺ッスか? 俺はこういう者ッス」
こうして冒頭のシーンに戻ってくるわけだが。
なんだその首元に刺さったアホみたいに太いボルトは。もしかしてこの人は、超能力者どころか人外そのものなのではなかろうか。超能力者を始末するために送り込まれた政府の秘密兵器とか――
「神崎 真人。持っている超能力者は見ての通り――『フランケンシュタイン』ッス」
フランケンシュタイン?
「まひとにいちゃんはすごいんだぜ!」
「くるまもでんちゅうも、ポイッて、なげとばしちゃうの!」
「大袈裟ッスよ、2人共。『iE』がない時の俺は死なないだけの木偶の坊ッスからね」
……死なないだけで充分じゃなかろうか。
「真人さん、初めまして。僕は早瀬 翔。それで、僕の超能力者は『チート飛行』――空を飛べるだけです」
「つかえねーよな!」
「ハクは、すごいとおもう、よ」
煩いよ君たち。
「スィンジェちゃんから聞いたッスよ! 乗り心地最高って!」
あの子にとって僕のヘリ扱いは確定のようだ。
「重いのは運べませんよ」
「それは心配は要らないッス。俺の体重は50kgちょっとッスから」
待て。何を言っているんだ、この男は。
パッと見でも身長180cmはあるぞ。極端に瘦せ型というわけでもない。それにその怪力だろ? で、おまけに重そうなボルトまで首元に刺さってやがる。
それが、50kgちょい?
「嘘、ですよね」
「嘘じゃないッスよ。担いでみるッスか? 俺はスィンジェちゃんよりも軽いと思うッスよ」
彼はニヤニヤと笑いながらそう言った。
正直、自分よりも大きな男を担ぎたいとは思わないが……。ちょっと試してみたい気持ちも湧いてきた。
「それじゃあ、失礼して……わ、ホントだ。想像より軽い」
「でしょ? だから言ったじゃないッスか、スィンジェちゃんよりも、軽い……って…………」
ん? 急に歯切れが悪くなったな。どうしたんだ。
あれ、さっきまでキャッキャしてたコクとハクが居ない。どこ行ったんだ。
「真人さん、どうしたんです……か…………」
振り返ると、そこにはあの子がいた。
「私の体重がそんなに気になるかしら」
少し俯きながら微笑む少女。上がった口角からはその子特有の鋭い牙がハッキリと見える。
「翔君、諦めるッス」
「いや、でも、僕はまだ死にたくない」
「俺は死なないッスから。だから、ファイトッス」
「ちょ、待って下さいよ」
そう言っている間にも近寄ってくる緋奈ちゃん。
「そんなに軽い体重が良いなら、もっと軽くしてあげるわ」
――――――――――
全ての責任を真人さんに擦り付けた上で且つ全力で謝罪したことで、バラバラになったのはなんとか1体だけで済んだ。
ただ、流石に今回は死を覚悟したな……。こんなしょうもないことで殺されなくて本当に良かった。




