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48歳からの大人バレエ ~うちのママに天才バレリーナが憑依しちゃいました~  作者: 明けの明星


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レッスンからの帰り道

帰り道の会話は?

「え、真由子さん?」

驚いた真理(エリゼ)が叫ぶ。

目立たないように、更衣室を出てきたつもりだったのに、真由子が追いかけてくるとは思わなかった。


「さっきまで」

と真理(エリゼ)。

そう、つい今しがたまでお喋りしながら、ゆっくりと着替えをしていたではないか。


「着替えるの、早いでしょ」

そう言って笑う真由子。


早いというよりも、ブラウスのボタンがはめられていたなかったり、襟がクシャっとなっていたりして慌てて着替えたのがよくわかる。

髪も、お団子あたまそのままだ。

いつもなら、真由子は結った髪をおろしてから帰るのだ。


まあ、わあかるやすく真理(エリゼ)を追いかけてきたのだろう。

真理(エリゼ)とは同じ方向の電車で途中まで一緒だ。


あすかバレエスタジオの出口で、まだ立ち話をしていたいずみ先生と康太先生たちに挨拶をして、

そのまま駅に向かう真理(エリゼ)。


その時、いずみ先生が、真由子に何やらつぶやいたのだが、

「今日は帰るわね。かなり疲れたし」

と小さな声で答えていた。


駅までの道で、

「飲みにでも誘われたの?」

と真理(エリゼ)が聞いてみた。

さきほどのいずみ先生とのヒソヒソ話の事だ。


「そうよ。でも今日はパス。明日も仕事だしね」

と真由子。


真由子が稽古の後、時折いずみ先生と食事に行くことは誰もが知っていた。

もちろんお酒を飲みながらの夕食だ。


いずみ先生と真由子はプライベートでも交流がある。

お互いに似たところがある、とかで話が合うのだそうだ。


真由子にしても、自分だけ「先生」から誘われるだなんて、まるで特別扱い。

悪い気はしない。

いつも、酒を片手にバレエのこと私生活の事を楽しく語り合っていた。


そんないずみ先生からの誘いをその日は断った。

これはどういうことだろうか。

真理(エリゼ)は内心考え込んでいた。


「行かなくていいの?」

ともう一度真由子に言う真理(エリゼ)。

それでも、真由子の返事は同じだった。


「今日は、真理ちゃんと帰りたいの」

あっさりとそう言う真由子。


それから駅までは他愛もない話をしながら歩いた。

真由子が住んでいる、小さなアパートが狭くて引っ越したいこと、

休みの日には無理にでも予定を入れないと一日中寝てしまう事、

仕事は順調だけれど、頑張ると昇進してしまうので有難迷惑な事。


真由子の話はどれも真理(エリゼ)がやりたくても出来ない事ばかりだった。

面白おかしくテンポよく話す真由子。

ひき込まれそうな真由子の話術だが、真理(エリゼ)は楽しいと同時に、空しい気持ちにさせられていた。


真理(エリゼ)には安定した家庭があり家族がいるが、それは自分だけの自由もきままも、そして社会的なキャリアアップも縁がない世界なのだから。


「お嬢さんから、何か聞いてない?」

と急に舞香の話を始めた真由子。

どうやら、次の発表会のことで舞香が知っていることを探っているのだ。


「特に、何も知らないわよ、発表会の出るのかどうかも聞いてないし」

と真理(エリゼ)が言う。


「そうなんだ、舞香ちゃん、トロワの候補みたいよ」

と真由子。


「あなたの方が詳しいじゃないの」

と内心思う真理(エリゼ)。


トロワ、パドトロワ、「白鳥の湖」の一幕で、王子の友人たちが披露する踊りだ。

女性ダンサーが二人、男性ダンサーが一人の三人で踊る。

華やかで、踊りがいもありとても人気のあるは配役だ。

エリゼもパレ・ロワイヤルバレエ団で踊ったことがある。


「そうなんだ。まあ無難なところね」

と真理(エリゼ)。

舞香なら立派に踊ることが出来るだろう。


「でね、もう一人の女性を悩んでいるんだって」

と真由子が言う。


「私さ、舞香やんとは背に高さも同じくらいじゃない?」

と続ける真由子。


そう言えば、そうだ。

真由子と舞香、背格好はよく似ている。

母である真理よりも。


どうやら、真由子は舞香とパドトロワをやりたいと思っているのだ。

それを真理(エリゼ)に話すということは。


「真由子を推薦しろって?」

と真理(エリゼ)が心でつぶやく。


「配役は先生たち、悩むところよね」

と真理(エリゼ)ははぐらかすように言う。


「先生が最適な配役をするわよ」

と真理(エリゼ)はそう言うだけだった。


真由子としても、自分の希望を真理に伝えた。

それで、その日は満足だった。


「それから、バレコンはやるみたいよ」

と真由子。

やはりかなりの情報を知っている。


バレコン、バレエコンサート。

幕物と違って、人気のある踊りや見せ場を集めて上演する。

発表会などでは、生徒の希望を取り入れてもらえることも多い。


「それでね、私たちから選抜して、眠りの妖精はどうかって」

と真由子。


眠りの森の美女にでてくる6人の妖精の踊りだ。

プロローグ、それぞれの踊り、コーダという構成で、なかなか見どころがあり、発表会で踊られることも多い。


「私、リラがやりたいな」

と真由子が言う。


リラの精、この踊りの中心的な存在だ。

まあ、主役といっとところだろう。


「リラのバリエーション、ほんとに素敵。私、どうしても踊ってみたいの」

と真由子は夢見心地で言う。


真理(エリゼ)としては、内心混乱状態だ。

このひと(真由子)は何が言いたいのだろうか。

パドトロワがやりたい、と言ったと思えば今度はリラの精。


あわよくば両方狙っているかのようだ。

さすがに、無理だろうが。


真理(エリゼ)は真由子が期待するような、極秘情報を持っていないのは明らかだ、

トロワのネゴも期待薄。


「真由子さん、飲み会断った意味なかったんじゃないの」

と真理(エリゼ)はいささか心苦しい。


それでも、真理(エリゼ)の中でエリゼが敏感に反応していた。

「リラの精という言葉にだ。


「あのさ、私、リラ、嫌いなのよね」

と思わず口に出る。

それはエリゼの本心だった。

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