初めてのアダージオ レッスン開始4
アダージオレッスンは続く
「ほんとに、難しいのね」
「簡単にやっているように見えるのに」
「全然、出来なかった」
そんな声でざわめくスタジオ。
康太先生による、アダージオレッスン。
アチチュード、プロムナードを生徒たちが「体験」した。
「見てるのと、実際にやってみるのでは全然違うでしょ?」
といずみ先生も笑いながら言う。
「いかがでしたか?難しいでしょう?」
と康太先生も同様に言う。
「体の軸がぶれないように、引き上げておくことが大切ですよ」
と、康太先生。
「こんなふうに」
そう言いながら、康太先生が真理を手招きした。
「大河」
と小西大河も呼び寄せる康太先生。
そして、真理と大河を見本にしながら解説を始めた。
「真理さんはバランス感覚がいいですね」
と康太先生。
そりゃ、エリゼが細心の注意を払って、身体の重心をさぐり軸を作っているからだ。
康太先生の解説付き真理と大河の実演が終わると、生徒たちがもう一度アチチュード、プロムナードに挑戦をした。
少しふらつきはしたが、しのぶも今度はスムーズでにできた。
そして、
「すごいじゃない、幸子さん」
といずみ先生の声がする。
康太先生のサポートにより挑戦した幸子も、一度も止まることもポアントが落ちることもなく、
ぐるりと一周することが出来た。
他も生徒たちも、先ほどと比べると少しばかり上達しているようだ。
そして、真由子の番になった。
先程は散々だった真由子。
二度目の順番が来るまで、何度もアチチュードのポーズをして重心の位置を確認していた。
「こんどこそ」
そう意気込む真由子。
リベンジのパートナーは大河だ。
その側で、康太先生も付きっ切りだ。
相変わらず、手に力が入る真由子。
大河がリラックスさせるように声をかけるが、身体はこわばったままだ。
そして、アチチュードの形に。
大河の手をぎゅっとつかんでいるのがよくわかるが、なんと片足立ちでポーズをとった。
そのまま、大河がゆっくりと動く。
何度かふらつくが、そのたびに大河がバランスを整えるように手を動かす。
真由子は途中で挫折することなく、アチチュード、プロムナードをすることが出来た。
周りからは拍手が起きた。
真由子もうれしそうに満面の笑みだ。
「大河先生のおかげですぅ」
と少しハイトーンな声で言う真由子。
「真由子ちゃん、さっきより全然いいわよ。形がきれいだわ」
といずみ先生。
元々、手足の長い真由子。
きちんとしたポーズを取れば、それなりに美しいのだ。
「大河くん、サポート上手ね」
と心で思うエリゼ。
先程から、大河は女性がスムーズにそして美しく踊れるように動いている。
講師でもある康太先生ならばわかるが、大河もそんな風に動けるだなんて。
エリゼは感心しながらも意外に感じていた。
「どう、私だって出来るでしょう?」
と心でつぶやきながら真由子がチラリと真理を見た。
さっきから、真理だけが、自分の事を絶賛していないのが視界に入っていたのだ。
「妬いてるのかしら」
と真由子。
実際、真理は大河の事を考えており、真由子の事など眼中にはなかったのだが。
「じゃあ、次、ピルエットいくよ。
組むんだったら、これはやっておかないよね」
と康太先生。
次に生徒たちが挑戦するのは、ピルエット、回転だ。
片脚で立ち、もう一方の脚をパッセの形にしてくるくると回る。
これもバランス感覚がとても大切だ。
上達していくと、2回転、3回転と回れるが、個々の生徒たちは1回転するのがやっと。
それもポアント立ちでとなると、足元がおぼつかず回るどころではない状態だ。
みんな、それぞれ自力でのピルエットを試みる。
ポアントに立ちきれない者、パッセにするのがやっとな者、周囲からはため息が漏れていた。
「そんなに気負わないで。みんなしゃきーん、とパッセで立つことだけを考えて」
と康太先生。
ここでもお手本はしのぶが務めた。
前回の合同発表会では、ピルエットなどは振りに入っていなかったのだが。
康太先生の前に立ち、4番ポディションの足から、さっとパッセの形になるしのぶ。
ポアントにも綺麗に軸に乗れている。
そして、自力でのピルエットのように、手を広げて回転を始める。
すると、康太先生がしのぶのウエストに手を添えて、回転をサポートする。
しのぶは両手を自分の前で小さめの丸い形にした。
康太先生がしのぶのうえすとを、クルリと回すとしのぶはあっという間に2回転をしていた。
そして、そのままパッセの足を静かに下す。
「じゃ、もう一人、誰かにお手本をお願い」
と康太先生。
そう言いながらも、
「真理ちゃん、こっちに」
と真理を指名する康太先生。
男性サポートのピルエット、エリゼが大好きなパートだ。
元々回転は得意だったが、男性の補助によりまるで飛び立てるように早く回れる。
もうエリゼのの本能がうずいて止まらない。
真理は、康太先生の前に立つと、そのままポアント立ちするとパドブレを始めた。
トウシューズで細かく刻むように進むパドブレ。
男性サポートがあるピルエットでは助走のように、まずパドブレで重心を整えることが多い。
そして、数歩分パドブレですすむと、すこし大きめに4番のポディションを取る。
これは男性側に、助走が終わったことを知らせるためだ。
それから、ゆっくりとルルベアップし手を広げながらパッセのポーズをとる。
それと同時に、康太先生が支えている真理のウエストを回転させる。
スルスルスル、っと3回転した真理。
3回転目で正面に戻ると、パッセのまま両手を広げた。
回転が終わりですよ、と宣言しているように。
そして静かに足を下すと、康太先生と少し離れて小さくレヴァランスをした。
「まるで、練習動画に出てきそうなピルエットだね」
と康太先生。
いずみ先生も大河も、真理のスムーズな動きに目を見張っていた。
もちろん周囲の生徒たちも絶賛だ。
真由子を除いて。
そんな中、真理のなかのエリゼは、
「どうしよう、ついつい本領発揮しちゃった。真理にこんなことできるわけないのに」
そう思いながら焦りまくっていたのだった。
応援していただけるとうれしいです。




