初めてのアダージオ レッスン開始3
次は何に挑戦?
アダージオ「体験」レッスン、アラベスクからパンシェ。
参加者全員が一巡した。
「みなさん、初めてとは思えない」
と康太先生が多少のお世辞を言う。
しかし、その視線は真理に向いていた。
大西大河も、真理を見る。
「じゃあ、次はアチチュードプロムナードを」
といずみ先生が言う。
生徒たちがざわめいた。
この日の内容は全く知らされてはいなかったからだ。
アチチュード、
片足立ちであげた方の膝をおる。前向き、横向き、後ろ向きと角度は色々あるが、
今回は後ろに足を出すアチチュードだ。
生徒たちはアチチュードのポーズを取り、事前練習しながらを各自で確認している
「アチチュードにしてね、アラベスクの出来損ないじゃなくて」
その様子を見た康太先生が言う。
鏡を見ながら笑いをこらえている生徒たち。
きれいなアチチュードの形を作るのは大変だ。
股関節の開き具合も、背中のしなやかさも必要となる。
「ダメだね、こりゃ」
と諦めに近いため息を出すエリゼ。
鏡で見た真理の姿。
これでは、アラベスクの出来損ないにも届いていない。
アチチュードの形は、致し方ないにしてもプロムナードはなんとかしたいエリゼだ。
アチチュードプロムナード。
女性がアチチュードをして。その手を取った男性が女性の立足を軸に、くるりと一周する。
男性は、女性の手を平行に移動させないと女性はバランスを崩してしまう。
先程のアラベスクパンシェよりも、女性の体感が重要になる。
パレ・ロワイヤルバレエ学校時代。
パドドゥのレッスンは生徒同士で行っていた。
女子生徒を男子生徒がサポートする。
男子生徒も、その頃には体格も一人前ではあるのだが、なんせ生徒だ。
時々は、息が合わず失敗がある。
エリゼが初めてプロムナードの稽古したとき、相手をした男子生徒の進み方が早すぎて、
何度もポアントが落ちてしまった。
その頃は常に主席だったエリゼにとっては信じられないミスだ。
「もう、何やってるのよ」
思わずその男子生徒に荒っぽく言葉を吐いた。
そう言われて増々焦ったのか、その後もその男子生徒はミスを続け、ついに交代させられたのだ。
そしてその生徒はその年の進級試験に落第し、退学することとなった。
「あの彼は今頃そうしているだろう」
ふとと思うエリゼ。
ーあんな酷い事、言わなければよかったー
アチチュードの確認も一通り終えて、生徒たちは再び、列になるが先ほどとは逆だ。
しのぶたちが、大河の列にならび真理たちが康太先生側に立つ。
そこで、康太先生サイドは再び、並び順で一瞬の躊躇があった。
康太先生は迷うことなく、真理を先頭にと手招をきした。
気が付くと、目の前に康太先生の手差し出されていた。
真理は慌てて呼吸を整え、右足前の五番からルルベアップ、そして康太先生の手を取ると、
ゆっくりと後ろ足である左足を上げてゆく。
ある程度足が上がると、気持ちだけでも股関節を回すように膝を折る。
軸足側の手を康太先生に託し、もう一歩の手はアンオーの形で上にあげる。
一瞬、鏡でその姿を確認する真理。
エリゼが「まあ、これくらいならなんとか」とつぶやく。
そして、康太先生が真理の手を取ったまま、ゆっくりと動き出した。
ここで一番重要なのは、軸足にしっかりと重心を乗せておくことだ。
そして、身体をぐっと引き上げる。
そうすればぐらつくことなく一回転できる。
真理はとにかく全神経を、体の軸に集中させた。
足が多少上がらなくても、背中が硬くても、身体の重心がきちんととれていれば大丈夫だ。
男性ダンサーは、女性の軸をずらさないように動く。
康太先生はそのあたりはさすがに先生だけあり、そつなく真理リードした。
真理はポアントから落ちることも、ぐらつくこともなくプロムナードで一回転することが出来た。
最後は、曲げた膝を伸ばし一度アラベスクにしてから、足をおろす。
康太先生がおもわず拍手をして真理を見つめた。
隣りでは、しのぶが大河のサポートで同じプロムナードをしていたが、何度もぐらついて足を下していたのだ。
決して大河のサポートが悪かったわけではない。
「真理ちゃん、密かに練習してたでしょう?」
と康太先生が言う。
「舞香が教えてくれたのよ」
と真理。
もちろん口から出まかせだ。
「じゃ、つぎ、真由子さんも頑張って」
とスタンバイしている真由子に、いずみ先生が声をかける。
真由子は、先ほどまでの真理を凝視していた、とても不満げな様子でだ。
真由子は、真理よりも足を高く上げることが出来る。
真理よりも、股関節も開いている。
真理よりも、背中も柔らかい。
その真由子が、アチチュードの形も康太先生の前ではぎこちなく、手に力が入りすぎているのか、
握っている康太先生の手がガタガタと小刻みに震えている。
これでは康太先生が真由子の手を取り、プロムナードすることが出来ない。
「真由子さん、もっと力を抜いて」
と康太先生が声をかけるが、必死な真由子には聞こえていない。
康太先生は苦笑いしながら、一度真由子の手を離す。
そして、呼吸を整えるように促した。
緊張のためか、息が上がっていたのだ。
そして、再度チャレンジだ。
ゆっくりと康太先生に手を差し出し、それからアチチュードの形に。
康太先生は、真由子の身体の軸を確認すると静かに動き始める。
が、また真由子は片足でポアント立ちしていることが出来ずに、かかとを下してしまった。
それから、なんどやっても結果は同じ。
このアチチュードプロムナード、一度もポアントを落とすことなく一周できたのは、
真理ただ一人だった。
「真理ちゃん、いいわね」
といずみ先生が言いながら、手帳に何かを書き込んでいる。
それを、真由子が見ている。
まるで、にらみつけているかのような鋭い視線だった。
応援していただけるとうれしいです。




