天才バレリーナの運命
天才バレリーナの生い立ちは?
「え?えっと、要は私が誰かの「夢」を叶えれば私は死なずに済むってこと、でいいのよね」
と半ば独り言のようにつぶやくのは、エリゼ・リデル、
自分は天才と呼ばれたバレリーナだ。
それが、今ここで生死をさまよっているようだ。
しかしその自覚はエリゼにはないようだ。
身体が痛む訳でもなく、息が苦しいこともない。
ただ、見たこともないこの空間で所在なさそうにしているだけだ。
「もう一度、説明してもらえるかしら。まだ状況が理解できていないのよ」
とエリゼがもう一度言った。
「そうですね」
と語り掛けた相手、リーズルがエリゼの前に立ち話し始めた。
「貴方はね、ロイヤル劇場の前の小道から飛び出したところをちょうど通りかかった車にはねられたの。
すぐに、中央病院に緊急搬送されて手当てが施されたんだけど、内臓の損傷が激しくて予断を許さない状況よ」
そう言いながら、暗い病室のベッドで横たわるエリゼの姿を写した鏡を見せるリーズル。
「あら、パパとママ、姉さんも」
とエリゼが言う。
ベッドの側には両親と姉の姿があった。
エリゼの顔を覗き込みながら、懸命に何かを話しかけていた。
「心配させてごめんね」
家族の姿をみてエリゼが涙ぐんだ。
「姉さんとは疎遠になっていてね、もう会うことはないと思っていたんだけど、私が危篤と聞かされて駆け付けてくれたのね」
と続けるエリゼ。
「そうね、危ない状態よ、あなた。でもね、あなたは選ばれたのよ、今までの功績に対して。
よかったわね」
とリーズル。
エリゼ・リデル
今話題の天才バレリーナだ。
そんな彼女が
バレエを始めたのは3歳の時。
3歳年上の姉、エレナにあこがれて、私もバレエを習いたい、と両親に頼み込んだのを覚えている。
街の小さなバレエ教室。
窓から見えるレッスンスタジオで、姉のエレナはいつも輝いていた。
自分もあんな風に踊りたい。
その思いを抑えることが出来ず、同じスタジオに通い始めた。
だんだんと頭角をあらわすエリゼ。
バレリーナになるための要素をすべて兼ね備えた身体、リズム感も身体能力も並外れていた。
いつしか、そのバレエ教室では最注目の生徒となっていた。
「今年はエリゼが合格できそうですね」
と先生たちが話している。
パレ・ロワイヤルバレエ学校への入学だ。
世界最高峰のバレエ団の付属学校、こちらも世界最難関の学校だった。
入学資格があるのは8歳から10歳まで。
この国のバレリーナを目指す子供たちは、まずはこの学校への入学を夢見る。
姉のエレナも8歳から挑戦した、しかし10歳、最後の入学試験でも合格することは出来なかった。
エレナもバレリーナとしての素質は十分だ。
それは教師も認めている。
それでも、入学を果たせない難関校なのだ。
エリゼも8歳になった年にバレエ学校の入学試験を受けた。
試験には国内だけでなく世界中の、有望な子供たちが集まった。
エリゼはすんなりと合格をした。
それから、パレ・ロワイヤルバレエ学校の生徒としての生活が始まった。
姉、エレナは喜んでくれた。
自分が果たせなかった夢を、エリゼに託して。
それから、学校でバレエ漬けの日々が8年間続くことになるエリゼ。
毎年の試験で成績が振るわなければ退学させられる。
同級生は友達でありライバルだった。
そんな中でもエリゼの才能はどんどんと花開いた。
講師たちは早くから彼女の素質に注目していた。
両親もエリゼのバレエのために、自宅の引っ越しまでして、全てにおいてサポートをしてくれた。
そんな中、姉エレナの事はだんだんと二の次になっていた。
それをエリゼは知る由もない。
エリゼの才能に夢中になっている両親も気に掛ける余裕などなかった。
「プロのバレリーナはエリゼに任せて、私は趣味として楽しむわ」
そう言って続けていたバレエもいつの間にか辞めていた。
エリゼは順当に進級してゆき、やがて最高学年になった。
その年に行われる、卒業公演は生徒たちの学校生活での集大成を披露する大切な場だ。
そこでエリゼは主役を任された。
それはエリゼがその学年で一番優秀な生徒だと言うことを示していた。
そして、その後、パレ・ロワイヤルバレ団に正式に入団する。
バレエ学校を卒業した全員が入れるわけではないそのバレエ団。
その年、入団試験に合格したのは、12人の最高学年生徒のうち3人だった。
エリゼは16歳になっていた。
バレエ団に入ると、また一番下っ端からのスタートとなる。
バレエ団は階級社会だ。
「プリンシパル」と呼ばれる主役を踊るダンサーを頂点にピラミッド式に階級付けられているのだ。
エリゼはそこでもめきめきと頭角を現した。
パレ・ロワイヤルバレエ団で、プリンシパルになる前から史上最年少での主演ダンサーとして、
多くの演目に出演した。
エリゼのその名は、バレエを知らない人たちにまで「天才ダンサー」として認知されるようになっていた。
そして、21歳になると異例の若さで最高位「プリンシパル」に任命されたのだ。
父も母もそれは喜んでくれた。
プリンシパルとしての初主演の舞台には、遠方に住む親せきも大勢来てくれた。
もちろん、バレリーナとしての第一歩を歩み出した街の稽古場の先生たちもだ。
皆、口々にエリゼを褒めたたえた。
「エリゼ、我が家の誇りよ。」
と両親。
「みんなあなにあこがれて、あなたを目指してお稽古しているわ」
とかつてのバレエ教師。
そんな称賛の中に、姉エレナの姿を見ることはなかった。
母によると、外国で働きたい、そう言い残して家を出て行ったそうだ。
エリゼに一言も告げずいなくなったエレナ。
その頃のエリゼには姉の真意などわかるはずがなかった。
そんな順風な日々を送っていたある日、時間に遅れそうで慌てて劇場まで向かっていたエリゼ。
あと少しで到着、と路地から勢いよくおお通りに飛び出した。
目の前に猛スピードの車が迫っていた、咄嗟に目を閉じて身体を固くしていた。
そして、目覚めたエリゼに聞こえたのは、
「誰かの望みをかなえることが出来れば、あなたはこの世に残ることが出来るわ」
そんな声だった。
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