暴走する心
どうなる進路?
思いがけない大きな声に、静まり返る食卓。
舞香の進路。
舞香本人の決めた道はあまりにも安易だ。
ここは親が出る幕ではないのか。
祥太ににはそう思える。
アニメの専門学校。
アニメ業界で仕事をすることを夢見る若者が集う場所だ。
自分で絵を描いたり、作品を作ったり、とにかくアニメが大好きでたまらない、そう言う学生がほとんのはずだ。
真剣に学ぶ者も多いだろう。
しかし、現実は厳しい。
夢かなわず挫折する者もそれなりにいる。
まず、舞香のアニメ好き、これはあくまでも趣味の域だ。
格別に詳しいわけでも、特別な何かを持っているわけでもない。
それに、意外とい厳しい専門学校のカリキュラムをわかっているようには思えない。
大学で勉強がしたくないから、それが理由となると言語道断だ。
今まで、それなりに勉学はこなしている。
自頭は悪くない、
それが、「楽がしたいから」という理由で専門学校への進学を希望している。
何一つ、賛同できる志望動機がないのだ。
これでは賛成などできるはずがない。
昔から舞香は物事を深く考えず、行動するところがある。
それゆえ、母である真理はいつも舞香の動向に気を配っていた。
進道を指南し、導いていた。
もともと、過保護気味の真理にとって、舞香の性格はますます真理に手をかけさせることとなっていたのだ。
そんな真理が舞香のこの安易な進路希望を認めているだなんて。
舞香の性格を考えたうえで、小学校から大学までレールの敷かれた私立校に通わせた。
バレエだって、
何かに夢中になっていれば、横道にそれることはない、そんな考えもあった。
もちろん真理が夢を託したのは事実だが。
そのバレエを辞めてしまった。
これは仕方のないことだろう。
まあ、父祥太へは事後報告ではあったが。
それにして、この進路だけは簡単に認めるわけにはいかない。
「パパは賛成できない。もう一度よく考えないさい」
と務めて穏やかに言う祥太。
「そうだな、俺も同意見だ」
と和人。
和人としても、これはいささか安易すぎる、そう思った。
「ママ」
と舞香が小さな声で言う。
今この場で味方になってくれるのは母しかいない。
しかし、この母。
本来の母ではないのか。
舞香の脳裏に疑問がわいた。
あの、進路指導の面談があったとき、すでに真理の中にはエリゼがいたのだ。
だとすると、あれはエリゼの意見ではないだろうか。
自分たちとは異なる文化で暮らすエリゼ。
エリゼの母国では、早いうちから子供は自立の道を探る。
高校生ともなれば、自分の決めた進路に親が真っ向から反対することはないという。
「そういうこと?」
と舞香。
あの、あまりにも物分かりのいい態度。
あれはママ(真理)ではない。
エリゼだ。
「わかった」
と舞香がつぶやいた。
「少し考えてみる」
と。
それを聞いて頷く祥太。
舞香の人の意見に流されるところ、これは健在のようだ。
いつまでも、親が意見を振りかざすべきではない、それはわかってはいるがこの場合黙っているわけにはいかない。
「ママ、どうして」
と祥太が真理に言葉をかけた。
またあの違和感が頭をもたげた。
「ママらしくないじゃない」
と祥太が真理に問いかける。
真理はそんな祥太のことをまともに見ることが出来ない。
どうも心が混乱している。
心苦しい思い、
ー真理の心は感じていたはずなのに、なんであんなことを言ったのだろう。ー
それでも、今の真理にはよく理解が出来ない。
何故、我が子が自分で決めた将来を、親が軌道修正するのか、を。
本来の真理なら、今回の舞香の事をたしなめたのだろう。
舞香の気持ちを汲んでやりつつ、うまく話をしたのだろう。
それが真理の本心だ。
しかし、今、その真理の本心がすんなりとエリゼに伝わってこないのだ。
「そうよね、パパ。舞香の希望を尊重したいけれど、これは少し話をしないといけないわね」
と真理祥太に言う。
「ママはまた舞香の口車に乗ったんじゃないの?あいつ、言葉で丸め込む術もってるし」
と和人。
「ママ、何かあった?舞香のこんな大事なことに、冷静な判断を下せないなんて」
と祥太はやはり今の真理に違和感を感じているのだ。
「少し自分の事に夢中になりすぎていたかも。反省するわ。
やはり、舞香もまだまだ私たちの助言がひつようですものね。パパや和人は普段離れているんだから、
私がしっかりしていなきゃいけないのに」
と真理が言う。
「そうだよ、ママ。ママはいつも子供た地の事を一番考えているじゃない。
バレエに夢中になるのもいいけど、ほどほどにしてくれよな、家族を二の次にするなんて、本当にママらしくない」
と祥太。
「そうね、本当にごめんなさい。私、どうかしていたわね。今日、パパがいてくれてよかったわ。
お陰で間が冷めた感じよ」
と真理が言うと、
祥太は満足げにほほ笑み頷いた。
真理、いやエリゼは内心、
「うわっ、この人こんなこと普通に言うんだ。おべっか使いなの?」
とついさっき自分がはいた言葉に寒気を感じていた。
なんだか、夫へのこの発言がまるで、夫の機嫌を取っているように感じたからだ。
自分自身なら、そんなことは言わない。
そもそも、謝ることなどしない。
もしも、自分が悪かったとしても。
それでも、真理の本心がこの言葉を言わせた。
気付くとその場に舞香はいなくなっていた。
部屋に戻ったのだ。
台所を片付け、真理も自室へと引き上げる。
その時、舞香の部屋の前を通ると、中から何やら物音がしている。
そっと覗いてみる真理。
すると、部屋にあったアニメ関連の雑誌を切り刻んでいる舞香の姿があった。
そして、お気に入りだったフィギアはごみ袋に入れられている。
「どうしたの?」
と慌てて真理が部屋に入る。
「もういらないから、こんなの」
と舞香は無表情で言う。
「そうよね、素直にそのまま大学に行くのが真っ当な道よね」
と吐き捨てるように言う舞香。
そして、
「ねえ、ママに会わせて」
とポツリとつぶやいた。
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