エリゼの本音
飲み会終わって帰宅すると
誕生日女子会からの帰り道。
途中まで、しのぶとあと数名が一緒だったが自宅の最寄り駅近くになるころは一人になっていた。
美味しい料理と少しだけ味わったお酒。
そしてバースデーケーキのデザート。
もうお腹はいっぱいだ。
たくさん話した、たくさん笑った。
楽しかった。
はずなのに。
どこか、心が穏やかではない。
気になるのだ、次回の発表会での配役が。
「白鳥の湖」全幕のみ、となると真理の出番は大勢で踊るどれか、になるだろう。
真理の容姿や技量からしてそれが妥当だ。
個人それぞれが様々な演目を踊る「バレエコンサート」
あまり多くの時間は割けないだろう。
出演者は厳選される。
そうなると、こちらも望みは薄い。
いづれにしても、「舞台の真ん中で踊る」のは絶望的だ。
真理の望んでいる「舞台の真ん中で踊る」こと、それは大勢での群舞でたまたまセンターに立つのではなく、出来ればソロで、またはメインとして中央で踊ることだ。
それが叶わなければ。
エリゼの未来もない。
そして、真理も自分が抱えているバレエに対するトラウマ、これから逃れることが出来ず、これからを過ごすことになるのだ。
真理のトラウマ。
それはエリゼにも伝わっていた。
どうしようもない劣等感、好きなのにそれが認められない心の葛藤。
エリゼのバレエ人生の中で、一度も経験したことのない事ばかりだ。
「私だったちもう少し」
とエリゼは思う。
子供の頃の真理に苛立ちを覚えるエリゼ。
発表会への悶々とした気持ちから、かつての真理への不満まで、
ネガティブな事ばりが頭を巡るなか、いつの間にか自宅の前に立っていた。
玄関を開けて、中に入る真理。
「ただいま」
と言いながら。
家の奥からすぐに声がした。
祥太だ。
「お帰り」
玄関先まで出てくる祥太。
そして、
「どう?たのしかった?」
と声をかける。
「ただいま」
もう一度、真理が祥太に言った。
「そうね、まあまあかしら。疲れたのでもう寝るわね。おやすみ」
とそれだけ言う真理。
そして祥太の返事も聞かず、顔を見ることもせず、そのまま自室へと向かった。
そんな真理の後姿を見ながら、祥太はふたたびあの違和感を覚えた。
自室で、部屋着に着替え、それから洗面所にいる真理のもとに舞香がやって来た。
さきほどのやり取りを聞いていたのだ。
「ねえ、ママ?」
と舞香。
「なに?舞香ちゃん」
と答えるのはいつもの真理だ。
「さっきの態度、あれは良くないと思うんだけど。ああいうの、ママじゃないから」
と舞香。
そう言われて、よくわからない表情の真理。
先程、自分は自分の気持ちをそのまま伝えただけなのだ、それが何故、よくないのだろう。
「ねえ、エリゼ、あなたに言っておくけど、ママだったらあんな風には言わないから。そのあたり、ちゃんとで出来るんじゃないの?」
と舞香は続ける。
「ママだったら、どうするの?」
と聞き返す真理。
「まずは、出かけさせてもらって、ありがとう、とか感謝の言葉があるわ。それから、もしもその飲み会が面白くなくても、楽しかったって言う。」
と舞香。
「そんなの、本心じゃないじゃない。なんでそんなおべっか使うようなこと言うのよ」
とエリゼ。
エリゼからしたら、家族にそんな気を使って話をする、それは考えられない。
家族やパートナー、気心の知れた友人たちとは本音で話すのが当たり前だ。
それが普通だ。
時に口論になったりもするが、それは親しいからの事。
とことん話し合って、後には残さない。
それはエリゼの母国では当たり前だ。
まあ、世間的に、エリゼの母国の人種、特に女性は気が強いと言われがちなのだが。
「だからね、ママはそう言う人なのよ。だからそうしてもらわないとパパにばれるでしょう。
郷に入っては郷に従え、よ。知ってる?」
と舞香がやや言葉を荒げて言う。
しばらく考え込む真理。
どうしたのだろうか、真理の本心がエリゼに伝わらない。
いままでなら、真理の本心、真理の気持ち、それはすぐにエリゼに共有されていたのに。
「そうね。それは考えないとね。でもこれって、上手く調整されているはずなんだけど、
今日はどうしたのかしら」
と真理が言う。
「天国の門ってとこの担当者が手抜きしてるんじゃないの?」
と舞香。
「確認してよね、面談まで待てないわよ」
と。
「私、明日、みんなが揃った時に進路の事言おうと思ってるの。
その時、ママがいつものママじゃないと困るのよ」
と舞香が言う。
「そうね、じゃあすぐにでもちゃんと確認するから」
と真理。
舞香はやっと納得したように、その場を離れた。
「気になるのは自分の事があるからね」
とエリゼ。
面談よりも前に、天国の門の審査官に接触することは不可能だ。
それでも、舞香を安心させてために、そう言った。
「真理が戻ってる」
とエリゼ。
こういう時、エリゼ本人ならそんなごまかすようなことは言えないのだ。
ー天国の門、管制室ー
「あら、真理の心遣いその3、通常に戻りましたね。何もしていないのに」
と担当審査官のリーズルが言う。
ちょうど巡回中だった管制室の係員もエリゼのメーターの前に集まっていた。
「よかった、一時的な不具合だったんだろう」
と係員。
「しかし、こちらは相変わらずだな」
と「依頼人の本心その5」を指さし言う。
「これはもう、ゲートマスターのご意思としか思えませんね」
とリーズルも言う。
真理のメーター、
「依頼人の本心その5」、娘の進路に関すること。
このメーターの針は、どうやっても限りなくゼロから動くことはなかったのだ。
応援していただけるとうれしいです。




