真理(ママ)のお出かけ
飲み会コーデは?
「さ、これでいいいかな」
と真理が部屋の鏡を見ながら言う。
いつもよりも少しお洒落なワンピースを身にまとい、いつもより少し丁寧にメイクをした。
支度を済ませてちょうど部屋の姿見の前に立ったところだ。
「これが現実ね、真理」
とエリゼが漏らす。
鏡の前にいる、すれ違う人が思わず振り向く、とはまるで思えないどこにでもいる中年女性。
それが、真理だ。
「背筋はだいぶ伸びるようになったわね。
それからこの首、もうすこしスーッとならないのかなあ」
自身(真理)の姿を見ながらついついあれこれチェックをしてしまう。
エリゼが真理の中に入り込んで以来、いつも身体を引き上げ背筋と首筋を伸ばし手立つ、歩く時は足の裏全体を使い、最後に指ではね上げるようにする。
そのせいか、最近は真理の履くソックスの足の指の付け根に当たる部分に穴が開くことが多い。
それだけ力が入っているのだろう。
それにしても。
この体型。
毎度のことながら、苦笑いと共にため息が出るエリゼ。
本来のエリゼの、長くしなやかな手足。
バランスの取れたバレエ向きにな体型、それは抜群のプロポーションを持っていると言うことだ。
歩けば、誰もが振り向くその姿。
いや、それは少し大げさだが。
バレエ学校時代、休暇で帰宅し街を歩くと何度も声をかけられた。
「ファッションモデルに興味はないか?」
と。
自分がどれほど、「特別」だったかを思い知る。
それはもちろん、人種の差もあるのだけれど。
真理たちの住むこの国は、あまりスタイルの良い人種ではないようだ。
体型には恵まれている部類に入る舞香でさえ、パレ・ロワイヤルバレエ学校の入学基準からは大きく外れている。
それでも最近ではこの真理の身体がどうにも愛おしい。
この身体で、踊る姿は尊いものを見ているようだ。
バレエは見た目が重要。
それはここでも同じようだ。
しかし、それ以外のバレエもありなんじゃないか。
そんな気持ちにさえなっていた。
「ママ、そろそろ時間なんじゃない?」
と廊下から祥太の声がした。
出かけると伝えた時間になっていたのだ。
鏡を後にして、部屋を出る真理。
舞香は既に出かけており、祥太だけが居間にいた。
この後、近所に散歩に行くと言う祥太。
「じゃ、鍵はよろしくね」
と真理が言う。
そして玄関で、久しぶりのスニーカーではない靴を履く真理。
振り返りながら、
「じゃあ行ってきます。あなたがお帰りなのに出かけさせてもらうのが心苦しいのだけれど、せっかく仲間が開いてくれる誕生日会ですので、楽しませていただくわね。あとよろしくお願いします」
と祥太に向かって言うとそのまま外に出た。
「行ってらっしゃい」
祥太もそう言って送り出す。
「いつものママじゃないか」
とそう思いながら。
その頃、天国の門の管制室では、
真理のメーター、「真理の心遣いその3」その針がいつになく低い数値を指していた。
メーター、その3には、
「夫への気遣い」
と小さくメモ書きが付いている。
「これで、いつもの契約者のお心遣いが発揮されるはずです。
まったく、あの挑戦者ときたら、本当に察しがわるくて」
とメーターをなにやらいじくりながら、言うのは、天国の門の審査官、ルイーゼだった。
どうやら、強制的に針の数知を変えたのだ。
「まあ、これで契約者の夫に関してはなんとかしのげるでしょう。しかし、こちらは」
そう言って、眺めているのは、かなり低い数値を指しているメーター、依頼者の本心その5だ。
「これは故障なのか、ゲートマスターのご意思なのか、我々にはわならないな」
とルイーゼに話すもう一人の審査官。
「ひと悶着起きなければいいのですが」
とルイーゼは深いため息をつきながら言った。
「真理さーん」
電車を降りたところで自分を呼ぶ声が聞こえた。
そこは、誕生日女子会の会場である、焼き鳥屋さんへ行く最寄り駅だ。
繁華街のため、いつも賑わっており駅の利用者も多い。
人混みの向こうから手を振りながら駆け寄ってきたのはしのぶだった。
合同発表会以降、仕事が忙しいということでバレエの稽古は休みがちだが、今回は都合がついたようだ。
「久しぶりに皆さんにお会いできるのが楽しみで」
としのぶ。
「お仕事、大変なんでしょう?今日は大丈夫だったの?」
と真理が言うと、
「なかなかバレエに行けなくて、もうストレス溜まりっぱなしなんですよ。
今日は、アポはいっていたんですが、早めに切り上げました」
としのぶは笑いながら言う。
「土曜日なのに?」
と真理。
するとしのぶは、
「私、土日が関係ない仕事をしていて。
だから、この前の合同発表会の時も、土日のお稽古のために仕事を調整するのが結構大変だったんです。」
と口ごもりながら言った。
「あ、でもこれは先生や皆さんには内緒にしておいてくださいね。今度の発表会の配役にひびいたら嫌だし」
と続けるしのぶ。
しのぶは、もう次の舞台の事を考えている。
踊りも上手く、見栄えのするしのぶ。
舞台の上ではその姿が一層映える。
次回も目立つ、大きな役を割り当てられるだろう。
「私だって、次が勝負なのよ」
とエリゼが心でつぶやく。
次回の発表会、その舞台で真理の夢を叶えるんだから。
と。
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