ついに、カミングアウト
いよいよ真理の正体が
「え?あ、気付いてた?」
と真理、いやエリゼが小さく答えた。
真理の娘、舞香が自分に対して、
「あなたは誰?」
と問いかけてきたのだ。
「バレてた」
咄嗟に思いながらも、冷静を保ち舞香に言う。
「あの、話を聞いてほしいの」
と。
母の身体を乗っ取り占領している自分。
その存在を納得し、理解してもらう、そんなことが可能だろうか。
罵られるのではないか、出て行けと言われるのではないか、
エリゼの心は揺れていた。
舞香には何としても自分を認めてもらわねばならない。
今、ここで「追い出され」るようなことになれば、生存への望みはここで断たれてしまう。
自分にはもう後がないのだ。
こうなれば仕方ない、事情を説明してなんとか、
エリゼがそう思って話し始めたのと、ほぼ同時に、
「これって、異世界転生?わあ、リアル転生、初めてだわ」
と舞香が弾んだ声で言った。
「でさあ、異世界って、どんなところなの?魔法使いとか女神とかいるの?あと、エルフとかも!」
時代的にはいつごろからって感じ?やっぱり中世なのかしら。だったら騎士とか魔王とかもいるんでしょう?」
と、矢継ぎ早にエリゼに問いかける舞香。
瞳をキラキラさせながら。
「いいなあ、異世界。ねえ、私も異世界に行けない?一度でいいから異世界体験してみたいのよね」
とついには真理に懇願を始める舞香。
そんな舞香の様子に、エリゼはすっかり拍子抜けしていた。
拒絶されるとばかり思っていたからだ。
「ねえ、私の話、聞いてよ」
と真理。
やっと、口をつぐんだ舞香に向かって、エリゼは話し始めた。
自分の置かれている境遇、
自分のやらなければならない事、
自分に待ち受けている運命。
などを。
「それから、異世界は関係ないからね」
とエリゼが最後に念を押すように言う。
天国の門、かぎりなく異世界に近いとは思うが、舞香の思い描くものとは違うだろう。
「で、あなたはエリゼ・リデルでいいのよね?
と一通り話を聞いたところで舞香が言った。
「そうよ。一度会ってるわよね、あなたの身体の中で」
とエリゼ。
「やっぱりあの時のあなたよね。その時も、夢を叶えたらとかなんとか言ってたわよね」
と舞香も言う。
かつて自分の身体に入りこんでいたエリゼ。
その期間は短かったが、どういうわけかすんなりと受け入れることが出来た。
特に動揺することもなく、そのままエリゼに、
「で、ママの夢を叶えるってことね」
と、問う。
「そうよ、舞台の真ん中で踊る、この夢を叶えるわ」
エリゼはそう言いながら、自信ありげに舞香を見つめた。
「そっか。まあ、ママの夢、それは間違いないわよね。それで、今、ママはどこでどうしているの?」
と舞香が聞いた。
もう一つ、いや一番気がかりだったのが、母、真理の所在だ。
「なんと説明したらいいのかしら。
真理の身体を心を、私が完全に乗っ取っている状態なの。
真理は眠っているのと同じって言うと分かりやすいかな」
とエリゼ。
「じゃあ、そのママの夢を叶えるとき、もママを乗っ取ったままなの?」
と舞香が聞く。
母、真理の夢、舞台の真ん中で踊る。
その時も母の実態はないまま、母の身体の中にいるエリゼが踊るのだろうか。
「それじゃあ、ママの夢がかなったって、ママ自身に自覚はないわけよね」
と舞香。
「いくら舞台の真ん中で踊ったって、ママがそれをわからないんじゃ意味ないんじゃないの?」
と続ける。
「た、確かにそうよね」
とエリゼ。
「そのあたりの事とか、今でもね真理と同居って言うのも出来るらしんだけど、よくわからなくて。
今度の面談で聞いてくるわ」
とエリゼが言う。
「ふーん、その天国の門の審査官ってやつらね。いいなあ、私も一緒に行きたいな」
と舞香。
「それは無理よ。あそこに行けるのは、生死をさまよっている者だけだから。
あなたにはまだまだ無縁の世界よ」
とエリゼが諭すように言った。
「そっか、それなら仕方ない。じゃあ、その面談でちゃんと聞いてきてね」
と舞香が念を押す。
それから。
舞香とエリゼは色々と話し合った。
まずは、週末には帰ってくる、真理の夫であり舞香の父、祥太の扱いについて。
「パパにバレると大変よ。こんなことぜったに信じないから」
と舞香。
「でしょうね」
とエリゼも答える。
舞香は特に何と言うこともなく、真理の中のエリゼを受け入れた。
そもそも、気付いていたことだったし、なによりエリゼとは「気が合う」のだ。
「ねえ、確認していい?」
と舞香が真理を洗面所へと連れて行った。
洗面台には大きな鏡がある。
その前に2人で立つ。
鏡に映っていはのは、舞香とそして「エリゼ」だった。
「前も見たわ。あなたの顔」
と舞香。
かつて、エリゼが舞香の中にもぐり込んでいた時、ふと見た鏡に映っていた顔だ。
「あなた、そんな姿なのね。美人ね」
と鏡を見ながら舞香が言う。
「顔よりも、スタイルを褒めてよ」
と笑うエリゼ。
しかし、エリゼの顔が鏡に映し出されていたが、身体は真理のままだった。
小さくて形のいい頭、堀の深い目鼻立ち。
それに、真理の身体。
「すっごいへん」
と舞香が笑いをこらえながら言う。
「ママの身体、そんな風にいわないの」
とエリゼ。
「でも、鏡に映るんだったら気をつけないと」
と舞香。
「あ、それなら大丈夫。私が見えるのはわかっている人、だけだから」
とエリゼが言う。
どうやら、エリゼの存在を知っている者だけにその本来の姿が見えるようだ。
それも鏡に越しにだけ。
「その素晴らしい、ボディも見てみたいけどね」
と舞香が言う。
まるで二人は友達同士のように、その日は遅くまでお喋りに花が咲いた。
この日から、舞香と「ママだけどママじゃない」真理との生活が始まった。
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