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48歳からの大人バレエ ~うちのママに天才バレリーナが憑依しちゃいました~  作者: 明けの明星


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更衣室での話題

更衣室でのお喋り

「ねえ、康太先生がレッスンしてくれるなんて楽しみ」


「アダージオって、男性とペアで踊るやつでしょ?私にもできるのかな」


「リフトとかもしてもらえる?」


久しぶりのいずみ先生のバレエクラスの後、更衣室はこの話題で持ちきりだった。

合同発表会で、しのぶのパートナーとしてゲスト参加してくれた康太先生。

そのリハーサルでは自分たちの踊りだけでなく、真理エリゼたちにも色々とアドバイスをくれた。

いつもユーモアたっぷりでいて、的確な指摘に生徒たちの踊りへの意識は格段に上がったのだ。


「男性の先生って、盛り上がるわよねレッスン」

といきなり口を挟んだのが真由子だった。


「この前も、康太先生がいるとほんとに場の雰囲気が違うのよ」

と真由子。


この前、とはどうやら合同発表会のリハーサルの事を指しているようだ。

そして、話している相手は、最近ここいずみ先生のバレエクラスの生徒になった「大人からバレエを始めた」真由子たちと同年代の女性だ。


その女性、久美子は真由子の事を崇めるような目で見ながら頷いている。

真由子の話し方、それはまるで久美子を「バレエの世界」へと誘うような心ときめくようなものだったのだ。


「そうね、康太先生面白いのよ」

と幸子。

あかりや、晴美もそれに同意する。


「アダージオってどんなことをするのかしら」

と幸子が言う。


なんせ、大人の生徒たちはバレエの知識が豊富だ。

有名バレエ団のグラン・パ・ド・ドゥの動画など観つくしているほどだ。

さすがに、男性が女性ダンサーを肩に乗せたりする「大技」などは難易度が高い事はわかっている。


「そうね」

と真由子。


「そりゃ、私たちじゃ到底できないような難しいこともあるけど、うーん、アラベスクプロムナードとか、ピルエットとかなら出来るんじゃないかな。いずみ先生が経験させようとしているくらいだから」

とまるで熟知しているかのよう口ぶりで続ける真由子。


「真理ちゃんのお嬢さんは何度も発表会で男性パートナーと踊ってたから、色々と知っているんでしょう?」

と幸子が真理エリゼに声をかけた。


先程から出来るだけ口を出さないように「頑張っていた」エリゼ。

幸子からの言葉に苦笑いを浮かべる。


「そうね、でも私は何度かリハーサルを見ただけだし。でも、見るのとやるのでは全然違うって娘は言ってたわ」

真理エリゼ


そう、

「見るのとやるのでは」

違うのだ。


まるで、簡単だといわんばかりに真由子が例に出したアラベスクプロムナード。

オーソドックスなのは、アラベスクで片足立ちしている女性を男性ダンサーがサポートしながらゆっくりと一周回るものだ。

グラン・パ・ド・ドゥの演目にはよく出てくる定番のテクニックだ。


少しでも軸がぶれていると、回転している間にふらついてしまう。

それに、動きがゆっくりなだけに、上げた脚をキープしておくだけの筋力も必要だ。


パレ・ロワイヤルバレエ学校では、生徒の体格、身長が基準に達したころアダージオの稽古が始まる。

大抵は、入学して3,4年が経った時だ。


男子生徒と女子生徒がそれぞれペアで練習するが、お互いに初めてのアダージオの稽古。

緊張したり動揺したり、最初は大変だった。


エリゼのアダージオの稽古を開始してすぐに、アラベスクプロムナードの練習をした。

普段、ひとりでアラベスクのポーズをとるときに、ふらついたりすることはない。

それなのに、男子生徒がエリゼの腰に手を当ててサポートしながら、回ろうとしたときに軸足がふらつき、ポアントでつま先立ちをしていた足元が何度も崩れた。


そんなことを思い出すエリゼ。

あれから、何度も何度も練習をしたんだっけ。

もう遠い記憶になっている。

真理の中にいるからなのか。

エリゼは実体のない自分にふと寂しさを感じた。


「アダージオレッスンかあ、じゃポアント履いていないとね」

と真由子の言葉が聞こえてきた。


そうだ、アダージオの稽古では女性ダンサーは基本ポアントを履いての踊りとなる。

これがまた大変なのだが。


「久美子ちゃんはポアントまだよね、じゃあ、アダージオの稽古はどうなるんだろう、見学かなあ」

と真由子が続ける、

久美子が少し寂しそうにしているのが真理エリゼにはわかった。


「大丈夫よ、いずみ先生はちゃんと考えてくれているわ」

真理エリゼが久美子に言う。


真由子だってポアントの稽古を始めたのは、ここいずみ先生のバレエクラスに通うようになってからだ。

それほどの期間は経っていない。


「そうよね、ポアント歴、浅い人たちもいるから」

と幸子が真由子をチラ見しながら言った。


「じゃあ、私はお先に」

と着替えを終えた真由子が、さらりと言い更衣室を出ようとしていた。

先程のポアント云々に関してはもう触れることもない。


「次は、幸子さんと真理ちゃんのお誕生日会よね」

まるで話題を変えるようにそう言い残すと真由子はその場を去って行った。

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