表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48歳からの大人バレエ ~うちのママに天才バレリーナが憑依しちゃいました~  作者: 明けの明星


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
7/25

ママの目標

子供の頃依以来のバレエのお稽古は?

「痛い」

と真理が顔をしかめた。


「大人のバレエクラス」を受けたその翌日だ。

ベッドから起き上がろうとした真理、足全体と腕が酷く痛む、筋肉痛だ。


足を引きずりながら、台所までとどりつく真理。

既に、食卓にいた舞香がその姿を見て笑う。


「でも、ママ、翌日に筋肉痛だなんてまだマシじゃいない」

と少しだけ皮肉も混じるのだが。


舞香が登校すると、出来る範囲で掃除をしてそれから、洗濯を始めた。

昨日使ったバレエの練習着やタオルを洗濯機へと詰め込んだ。


「もう少し、派手でもよかったかな。買い増ししようかしら。まだ使うしね」

と真理。


昨日のこと、

初めての大人バレエクラスには10数名の「生徒」が集まった。


年齢は色々、真理と同年代らしき女性もいたが、舞香とさほど年が違わないのでは、と思われる若い子も、それに孫の話をしている、年配の人もいた。


そんな「大人の生徒」たち。

真理が知っている顔はなく、安堵半分不安半分だ。


更衣室でレオタードに着替える生徒たち。

使いこまれた感のウエアを着ている若い子や、ここで慌てて商品タグを切っているマダム風の女性もいる。


真理にとっては舞香のお供で通いなれた更衣室。

周囲を見回す余裕はある。


「みんな綺麗」

と真理。


自宅のクローゼットで着てみたときには、なかなか様になっていたと思ったこの姿が、どうにも直視できずにいた。


「じゃあ、みなさん、バーについて」

スタジオに移ると、講師のいずみが明るく声をかけた。

バレエのレッスンではまず最初に、バーにつかまって姿勢や足さばきを整える“基礎練習”が始まる。

まずは身体を作り踊れる身体に仕上げていくのだ。


そのバーレッスン、どのバーに陣取るか。

それが問題だ。


舞香たちのクラスでは、上手い子と呼ばれている生徒が前、真ん中あたりに中堅、後ろの方に上達途上の生徒、といつも並び順が決まっていた。


しかし、今ここにいるのはほぼ皆、シロウトだし初めて顔を合わす者同士。

先頭にはなりたくない、誰もがそんな空気を醸し出す。


「じゃ、のあちゃん、先頭に」

といずみがあの若い子に声をかけた。

ためらうこともなく、のあはバーの先頭に歩き出した。


「それから、舞香ちゃんママはここね」

と真理が真ん中にと指示された。


他の生徒たちも、いずみがテキパキと振り分ける。

そして流れ始める音楽。


この日集まった大人の生徒たちは、ほぼ未経験者ということだったので、

いずみ先生はバレエのポディションをわかりやすく説明しながら、ゆっくりとした動きを中心にレッスンを進める。


バーでの基礎練習が終わると、いよいよバーから離れてスタジオの真ん中で踊るセンターレッスンに入る。

ここでも、立ち位置は重要だ。


生徒たちは四人くらいずつ並ぶよう指示された。

先頭列、中央にはのあがいた。


他の生徒たちはまたもや譲り合ってしまい、なかなか位置が決まらない。

ここでもいずみ先生が素早く声をかけ、皆を並ばせる。

真理はのあの斜め後ろにいた。


前面が鏡張りのスタジオで、すべてを映すセンターレッスン。

自分の姿が嫌でも目に入る。


斜め前ののあはまるで舞香のような長い手足、小さな頭と細い首、見た目にも美しい立ち姿だ。

その後ろで、


「私は何て醜いんだろう」

と自分の姿を見た真理が思う。

鏡に映る己の姿を直視できないのだ。


自分とさほど変わらないと思われる体型の女性もいる。もっとふくよかな人も。

それでも、目をそらしている気配はない。

優美なレオタードに身を包んだ自分自身に見とれている様だ。


「舞香ちゃんママ、床には何も落ちてないわよ。下ばかり向かないの」

といずみ先生に言われて、渋々顔を上げる真理。

周囲から少しだけ笑い声が上がった。


「さあ、5番ポディションから右足を前にタンジュ、手をアンオーに」

といずみ先生。


足をきちんとそろえる五番のポーズから、右足を前にすっと足先まで伸ばし、両腕を頭の上丸い形を作る。

よくあるバレエのポーズの一つだ。


そう言えば、こんなにつま先を伸ばすなんて、何年ぶりだろう。

バレエは普段使わない筋肉ばかりを酷使するのだ。


センターレッスンではジャンプや回転、それからステップを組み合わせて踊る。

真理も、他の生徒たちももう必死だ。


「そんな怖い顔しながら踊らないの」

といずみ先生が指摘するが、動作を覚えるのに夢中でつい表情が固まっている。


そして、音楽に合わせて優雅にお辞儀をするレヴェランスで、今日のレッスンは終わった。

本当に優雅だったか、は置いておいて、皆とても表情が明るい。


「先生、ありがとうございました。とても楽しかったです」

と一番年長らしき生徒が言う。


他の生徒も同様に、達成感を口にしていた。

真理も、同じだった。


舞香のレッスンと比べたら格段に初心者レベルだが、この充実感がなんだろう。

汗びっしょりになったけれど、少しも不快ではない、むしろすがすがしい気持ちでいっぱいだ。


「みなさん、これからも続けてくださいますか?」

といずみ先生が皆に問いかけた。

もちろんその場の全員が頷く。


「このままレッスンを続けていけば、ここあすかバレエスタジオの次の発表会に、大人クラスとして参加できると思いますよ」

といずみ先生。


「発表会ですって」

と声が上がる。


真理の胸も高鳴った。

また、舞台に。

今度は袖から見ていた保護者ではなく出演者だ。


真理の目標が、次の発表会に出る、そう決まった瞬間だった。

★作中に出てきたバレエ教室のレッスン風景について、少しだけ補足です★

大人の初心者クラスでは、だいたい次のような流れでレッスンが進みます。

・まずは、鏡の前でバーという手すりにつかまって行う“バーレッスン”。

足首や膝を曲げ伸ばししたり、足を前や横に伸ばしたりして、姿勢や体の使い方の基礎を練習します。

・そのあとに続くのが“センターレッスン”。

今度はバーから離れて、スタジオの真ん中で、簡単なステップをつなげたり、小さな踊りの形にしていきます。

実際の振り付けに少し近づいた内容で、『踊っている』感覚が一番味わえる時間かもしれません。

レッスンの最後は“レヴェランス”という、お辞儀のステップで締めくくります。

音楽に合わせて優雅にお辞儀をして、先生や一緒にレッスンを受けた仲間に感謝を伝える、小さな儀式のようなものです。

バレエを習ったことのない方にも、少しでもお稽古の雰囲気が伝わっていたらうれしいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ