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48歳からの大人バレエ ~うちのママに天才バレリーナが憑依しちゃいました~  作者: 明けの明星


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ロワイヤルスタイル

やってるつもり、なんだどね

真理エリゼをちらりと見た真由子。

まるで挑発するかのようでもあり、見下している様でもある。


しかし、ほんの一瞬だった。

その視線を送ったのは。

そして、気付いたのも真理エリゼだけだろう。


一瞬、いやな気分にはなったがそのまま、気付かないふりをしていた。

真理エリゼは、真由子の本心を図りかねていた。

話術にたけており、彼女の話は楽しく、いつも周囲には人が取り囲んでいる。

それは真理エリゼも時間を忘れてつい話し込んでしまうほどだ。

それに、行動力もあり気配りもしてくれる。


それでも、拭えない、真由子に対する嫌悪感。

しかし、波風を立てるわけにはいかない。

真由子の事は気にしないでおこう。

そう思うしかない真理エリゼだった。


「休みが延びてしまって、申し訳なかったわね。今日から再開になります。

綺麗になったスタジオで、頑張ってレッスンしましょう」

とまずは、いずみ先生が皆に言った。


スタジオ内は、床がが張り替えられており、バーが新調されていた。

鏡はそのままだが、クリーニングをしたのか以前より輝いている。


それぞれバーに付く生徒たち。

内装工事があったとはいえ、いつものスタジオだ。

もう自然と、バーに立つその場所は決まっている。


スタジオの壁に沿ってL字型にとりつけられているバー。

いつもなら先頭にいるのはしのぶだが、今日はお休みの様だ。


真理エリゼは自然と、真ん中あたりのバーを陣取った。

後ろにいるのは幸子。

これも以前からの定番だ。


その日、レッスンを受けるために集まったほとんどが、バーの位置を確保したとき。

真由子がきょろきょろとしながら、スタジオに入って来た。

更衣室では一緒に着替えをしていたが、なぜか一番遅れてここに来た真由子。


そして、迷うこともなく一番前のバーについた。

いつもはしのぶのいる位置だ。


そこは、ちょうど位置的に鏡越しに自分の姿しか見ることが出来ず、

「誰かを見ながら」レッスンすることが出来ない場所だ。

だから、大人の生徒のほとんどはその位置に行きたがらない。

それが、迷うことなくこの場所にいる真由子。


しかし、周囲はかえってほっとしていた。

誰かがあの場所に立たなくてはならないからだ。

真由子がいてくれるなら、ありがたいくらいだ。


そして、レッスンはいつも通り、バーを使ってのプリエから始まった。

真理エリゼも、鏡で確認しながら、ゆっくりと身体をほぐしてゆく。


両足の股関節、腕の軌道、そして背中。

丁寧に指先にまで神経を通わせて、柔らかく優雅に動く。

これはまさにロワイヤルスタイルだ。


そんな自分の様子をみながら、舞香に言われたことを思い出していた。

ロワイヤルスタイルがそんなに目立っているのだろうか。


エリゼにとってはバレエを始めた時からこのロワイヤルスタイルで教えられてきた。

ロワイヤルスタイルはエリゼの母国が発祥の地。

どこのバレエ教室でも、このメソッドが定番だった。


もちろん、他にも色々なスタイルがあるのは知っている。

他国のバレエ団に招かれた時は、ロシアンスタイルだったし、どういう流派でも順応できる。

それでも、にじみ出てくるロワイヤルスタイル。


「動画の見過ぎで、って言えるくらいにごまかせる程度にしておかないと」

真理エリゼ


大人の生徒たちは、良し悪しほさておき、バレエに詳しい。

情報量がすごいのだ。

いずみ先生のバレエクラスの仲間たちも例外ではない。

あれこれ詮索され始めたら厄介だ。


「真理ちゃん、つま先と指先はとてもいいけど、足、10センチしか上がってないわよ」

といずみ先生の声がした。


バーにつかまりながらのアラベスク。

片足を、後ろに上げる、アラベスク。

その角度は90度以上が望ましい。

バレエの定番のポーズだ。


きれいに高く足を上げるには、背中の柔軟さも重要だ。

股関節と背中の柔軟性に恵まれていたエリゼ。

特に意識しなくても、綺麗なアラベスクのポーズをとることが出来た。

エリゼとは真逆な真理の身体ではそうはいかない。

意識して背中をそらせて、意識して、足を上げないと、いやそうしたところできれいな形をつくることはできない。


それでも、

「10センチだなんて」

と鏡を見る真理エリゼ

そこには、いずみ先生が言った通りの足の上がらない自分がいた。


「鏡、コーティング加工したから、クリアできれいに見えるでしょう?さあ、自分の姿をしっかりと見なきゃね。ありのままを受け入れることから始めましょう」

といずみ先生が笑顔で言った。

その言葉に周囲からも思わず笑いが沸き起こる。

まあ、同情と「自分も同じ」と言いたげなあたたかい笑い声だが。


鏡には、今まで以上にきれいにはっきりと、10センチほどしか足の上がってない真理の姿が、

ありのままに映し出されていた。


「毎日、ストレッチやってるんだけどな」

とエリゼ。

なかなか効果が出ない、真理の身体に苛立ちは始めていた。


そして、そんなエリゼの追い打ちをかけるかのように、一番前のバーにいる真由子がこちらを見ながら、

クスッと笑った。

周囲とは違う、温かみのない乾いた笑顔だった。

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