いずみ先生のバレエクラス、再開
やっといつもの教室へ
予定より長くかかってしまった、「あすかバレエスタジオ」の改修工事もやっと終わり、
いずみ先生のバレエクラスも再開されることになった。
真理も心待ちにしていたいずみ先生のレッスン。
その日は仕事を早めに切り上げることにした。
「今日から再開なんですよね。真理さん、もう楽しみで仕方ないって顔してますよ」
と笑い顔の絵文字の付いた社内チャットが大河から送信されきた。
スタジオ・アーツインのレッスンで一緒になってから、大河とは増々バレエ談義で盛り上がるようになっていた。
もちろん、チャットでのやりとりだが。
ーお嬢さん。康太先生の教室にはいったんですね。
この前、初レッスンだったそうで。趣味のクラスに置いておくのはもったいないって康太さん、言ってましたよー
と大河。
あすか先生にもきちんと話をしてから、舞香は康太先生の生徒になっていた。
通っているのは、中高生から大人まで幅広い年代の生徒がいるクラスだ。
コンクールを目指すわけでもなく、ただバレエが好きで踊るのが好き、そんな同志たちが集まっているそうだ。
舞香のように、バレリーナを目指していたこともある若手や、現役を退いたかつてのプロダンサーなども参加しており、レベルはなかなかのものだとか。
「あのクラス、僕も時々受けてるんですよ」
と大河。
「この前は残業になっちゃったから行けなかったけど。
今度、舞香ちゃんと会ったら、帰りにお茶でも誘っちゃおうかな」
こんな文面が一瞬送られてきたが、すぐに削除され画面から消えていた。
真理は身を乗り出して、大河のデスクをみつめたが、遠すぎてよくわからない。
「舞香を誘うの?」
と真理。
「まあ、そんなお年頃だものね」
とエリゼの本音がのぞいた。
エリゼの母国では、舞香の年頃になると男女がペアで参加するパーティーが頻繁に催された。
男子が女子を誘って二人揃ってパーティーに出向く。
「ドキドキしななあ」
とエリゼ。
バレエ学校内でも、最高学年になると正式なパーティーが開催された。
エリゼは同学年だが2歳年上のアランからの誘いを心待ちにしていたが、アランが選んだのは別の女子だった。
「学年主席も、男子からはモテないのね」
とその子に言われたのを覚えている。
エリゼは学年トップの優等生ではあったが、男子からの人気はイマイチだった。
近寄りがたい、そんな存在だったのだろう。
男子だけではなく、女子からだって。
小さな新入生たちは、羨望の眼差しで慕ってくれたが、年齢の近い子たちとは打ち解けることが出来なかった。
バレエ学校の寮でも、いつも一人だったことまで思い出していた。
「大河君が舞香をデートに誘いたいってことよね」
とエリゼ。
いつのまにやら拡大解釈をしているようだ。
「さっき、送ったの、見ちゃいましたか?、もし見てたら読んでたら、すみませんでした。
気の迷いです。
お嬢さんに気軽にお声をかけたりできませんよ!」
となんだか慌てたメールが来た。
「こういう時は、ここじゃなんて答えればいいんだろう
とエリゼ。
エリゼの気持ちとすれば、ちゃんとした「デート」のお誘いなら、親たちは暖かく見守る。
相手だって、大河なら申し分ないではないか。
しかし、この国ではそうはいかないらしい。
真理の本心が邪魔をしてくるのだ。
「見なかったことにするわ」
と一言だけ返信をした真理。
その日は、大河は真理の前に現れようとはしなかった。
気まずかったのだろう。
真理はというと、早めに仕事を切り上げるために忙しくしており、
大河の事など構ってはいられなかった。
そして、久しぶりのいずみ先生のバレエクラスへと向かった。
久しぶりの「あすかバレエスタジオ」
更衣室に入ると、すでに幸子やあかりたちが来ていた。
久しぶりのスタジオで、久しぶりの仲間と会う。
これがなんとも、落ち着き安心感を覚える。
いずみ先生のバレエクラが休みになっている間、オープンクラスに参加してレッスンは継続していたが、
やはりホームグラウンドは違う。
それはここに居る皆も一緒のようだ。
いつにも増して、更衣室でのおしゃべりが盛んだ。
「スタジオ・アーツインのレッスン、どうだった?」
とあかりに声をかけられる真理。
「もうとんだハプニングだったわ」
と真理の代りに話し声が聞こえた。
そこには、真由子が立っていた。
「もう、急に初中級クラスを受けることになって。
周りはみんな、もうプロ級な方たちばかりよ。真理ちゃんも動揺してたものね」
と真由子が言う。
「そうなんだ、アーツインの基礎より上のクラス、どれもかなりのレベルだっていうわよね」
と幸子。
幸子はスタジオ・アーツインのレッスンは未経験だ。
それを知っている真由子、
「でも、割と何とかなるものね。
私、ちゃんとついて行けもの」
と真由子。
「大人数で受けたから、センターとかグループ分けれて。
私は基礎クラスの代行受講だから、後のグループだったんだけど、一緒になった他の人たちもそんな感じで。みんな、振りが不安なのか私の事ずっと見てるの。もう、視線が痛いほど」
と続ける真由子。
真理は何も言えずに「固まって」いる。
「真理ちゃんもがんばってたよね」
と真由子が真理に会話を振って来た。
もう愛想笑いで済ませるしかない真理。
「あのクラスについていけるだなんて、さすがね。また行くの?スタジオ・アーツインのレッスン」
と幸子が行った。
「まあ、行ってみてもいいんだけど、知ってる人に会ったら嫌だし、どうしようかな。」
と真由子が笑顔で答えた。
「それ、って舞香が言ってたことそのままじゃない?」
と真理。
思わず真由子を見た真理。
真由子はチラリと真理と目を合わせたが、すぐに逸らせた。
顔を背けるとき、真由子はツンと首を振りながら真理を一瞥した。
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