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48歳からの大人バレエ ~うちのママに天才バレリーナが憑依しちゃいました~  作者: 明けの明星


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舞香の真理観察

舞香が母の事を探り始めています

「ママ、あすか先生と話をしてきた」

夕食時の食卓で舞香が言った。


向かい合わせに座っている母、真理が顔を上げて舞香を見る。

安心した表情だ。


「康太先生のところで、バレエを再開するってちゃんと言ってきたよ」

と舞香。


「そう、それであすか先生はなんて?」

と母、真理が言う。


「おおむね、賛成って感じかな。ほかにもたくさん話が出来たし」

と舞香が答える。


「そう、それはよかった」

と母。


真理エリゼとしては想定していたことだ。

いずみ先生のバレエクラスに行くと、あすか先生に会うこともある。

そんな時、挨拶に加えて少しばかり話をすることが常だったが、話題になるのはいつも舞香の事だった。


「舞香は学校が忙しいみたいで」


「バイトもやっていて夜が遅くなるのが心配で」


「高校のダンスの授業、いつも見本を頼まれるんだそうですよ」

そんな話をした時だ


「舞香ちゃん、本当に踊ることが好きですから。またどこかで踊ってくれたらいいのに」

とあすか先生がポツリと言ったのを真理は印象深く覚えていたのだ。


「じゃ、来週から康太先生の教室に通ってもいいの?」

と舞香。


バレエを再開する、それはまた月謝を払ってもらうことになる。

レオタードやシューズも必要だ。

いくらアルバイトをしているとはいえ、それだけの費用を舞香が自力で捻出するのはいささか難しい。


「そうね、行ってらっしゃい。お勉強も疎かにしないようにね」

真理エリゼが言う。

どうやら費用の方は、親に頼っていいようだ。


「お勉強か」

と舞香。

夕食を終え、食器洗いを少し手伝った後部屋に戻って、先ほどの母の言葉を思い出した。


ーそう言えば、内部進学しないって言ったんだー


舞香は、先日の進路相談の事を思い出した

担任との面談で、

「上には行きません」

とキッパリ言い切ったのだ。


それは舞香が自分で決めた選択だった。

エスカレーター式に進学できる大学は、普通に受験して入学する学生も多い。

難易度もそれなりに高く、人気もある。


付属高校から全員が進学できるわけではないが、舞香の成績なら問題はなかった。

舞香と同じクラスで、内部進学をしないのは舞香とあと僅かのようだ。

もちろん、公表はされないので噂の域を超えないが。


「ママともう一度ちゃんと話さないと」

と舞香。

舞香の進路については、内部進学しないことを、保護者が同意していない、ということで保留になっている。

それもいつまでも、このままにはできない。


先日の保護者の面談の後、母と話をした時の事が気になる。

あまりにも、予想を覆す反応。


「自分の進みたい道を進めばいい」

と当たり前のように言った母。

それは自分のゆるぎない思いを伝えていることが十分にわかる言葉だった。

バレエを辞めた今、そのまま進学しあの大学の学生になることが母の唯一の願いだったはずなのに。


「あれはママの本心じゃない」

と舞香は思う。


エリゼの気持ちなのだろうか。

自分とは住む世界もその時代も異なるエリゼ。

考えの違いがあるのは当然だ。


舞香の知る限り、エリゼの母国ではかなり若い頃から自立を求められる。

エリゼだって、バレエ団に入団したのは16歳の時だ。

そして、自分の進路は自分で決める、これも当たり前なお国柄なのだ。


舞香の推測通り、エリゼ・リデルが母の中に入りこんでいるとする。

その目的は、

「夢を叶える」

ことだ。


そうすれば、エリゼはこの世でのこの先の人生を続けることが出来るらしい。

そうなると、母の中からエリゼはいなくなる。

本来の母に戻ったその時、自分の希望のそぐわない進路に進んでいる自分をどう思うだろうか。


だからこそ、母にちゃんと事実を話し相談をしたい。

リデルではなくて母に。


その夜遅く、風呂から上がり部屋に戻ろうとした舞香。

居間の片隅で、母がヨガマットを広げてストレッチをしているところを見かけた。


「ずいぶん、柔らかくなったね」

と声をかける舞香。


「舞香もバレエに復帰するんだったら日課にしないとね」

と脚を開脚しながら言う真理エリゼ


「ママを見習わないとね。継続は力なりとはこの事よね」

と舞香。


開脚だけでなく、前屈や肩の動きも随分としなやかだ。

今までは対して気にしていなかったが、地道に努力をしていたのが見て取れた。


「じゃ、ママと一緒にやろうかな。毎晩のストレッチ」

と舞香が言う。


「そうね。寝室でやるのもいいんだけど、こういう広い場所の方がね」

真理エリゼ


さっそく自分もマットを持って居間にやってくる舞香。

そして、壁にかかっているモニターでストレッチ動画を流しながら、ゆっくりと身体をほぐした。


「すごわね、この動画の通りにやっていけば一通りのストレッチができちゃうなんてね。

便利な世の中よね」

真理エリゼが言う。


確かに、動画では

「はい、ここで30秒キープ」


そして、

「さあ、きついところだけど、ここからがんばって」

など、まるで専属トレーナーが側にいるようだ。


「私もこの動画知ってるわ」

と舞香。

バレエを辞めた後も、舞香は出来るだけ身体のケアを心掛けていた。

そんな時、ストレッチ動画はとても役に立ったのだ。


「ねえ、ママ」

とマットを並べて、背中を伸ばしていた母に声をかける舞香。


「ママのバレエ、ロワイヤルスタイルなのはどうして?」

と聞いた。


「それは」

と少し言葉に詰まる真理エリゼ


「最近、パレ・ロワイヤルバレエバレエ団のビデオとかレッスン動画ばっかり見ているからかな」

真理エリゼが言う。


舞香にはその言葉が少しだけわざとらしく聞こえた。

そして。


「そりゃ、それ以外知らないんだし」

と小さく呟いているのを聞き逃さなかった。

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