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48歳からの大人バレエ ~うちのママに天才バレリーナが憑依しちゃいました~  作者: 明けの明星


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カトレア・クラブのレッスン

基礎レッスンは大切

「さあ、準備完了」

と舞香が鏡の前から立ち上がった。


買ったばかりのレオタードに巻きスカート。

このスカートは舞香の以前からのお気に入りだ。


鏡の前で髪をシニヨンにまとめて、自分を見た。

久しぶりのバレエ仕様。


小さなころは母が結ってくれたシニヨンだが、小学校の高学年になるころには自分で出来るようになっていた。

そこに真理が覗き込んできた。


「頭、お団子にするのはまだ上手ね」

と言いながら。


そう言う真理も、レオタードにニットを着て、スカートを付けている。

面と向かって母の稽古着姿を見るのは初めてた。


「ママ、意外とサマになってるじゃん」

と舞香が言った。

そう、思いがけレオタードを着た母の姿は背筋が伸びており、首はスラッとして長く、どこか優雅だ。


「じゃあ、スタジオに行きましょう」

と真由子に言われて更衣室を出る三人。


先程の中学生が遠目に見ているが、舞香の姿を見て驚いた様子だ。

久しぶりのレオタード姿、シニヨンの頭、バレエから離れて時間は経っているが、今でも舞香の姿はバレリーナそのものだった。


「あれ、舞香ちゃん、値札付いたままよ」

と真由子が言った。

舞香の背中から、値札のタグが飛び出しているのを見つけたのだ。


あわてて手で引きちぎろうとするが、なかなか取れない。

しかし、今ここでははさみもナイフも持ち合わせてはいない。


「これ、使ってください」

と小さなはさみを手渡したのは、先ほどの中学生の一人だった。


「ありがとう」

と値札を切り取り、礼を言う舞香。

そして、そのままスタジオに移動して行く三人をみながら、


「普通、値札くらいとるでしょ。やっぱりド素人なんじゃないの」

とひそひそ話声が聞こえた。


それを聞きながら苦笑いする舞香。

別にその中学生たちに、何かを言う気もなかったのだが、ふと後ろを振り返った。


舞香と目が合い黙り込む中学生たち。

そのまま、更衣室を出ようとしたその時、鏡に映っている自分たちの姿が目に入った。


先頭を歩いている母の真理。

鏡に映るその顔が、ほんの一瞬だったが母の顔ではなく見えた。


「えっ」

と心で叫び、再び母の姿を見た時にはいつもの母の顔だっだ。


「なんだったんだろう」

と舞香は思ったが、鏡越しに誰かの姿と重なっただけかも、そもそも自分の目の錯覚なのかも、

とさほど気にも留めず、すぐに忘れてしまっていた。


カトレア・クラブのスタジオはフロアに2つある。

同時に二クラスのレッスンが行われるのだ。


真理たちはAスタジオで「基礎クラス」を受ける。

スタジオ・アーツインほど、大きくはないが内装は優美で、まだ新築の匂いのする綺麗なスタジオだ。

照明はシャンデリア、三面の壁一面に鏡。

そしてスタジオ中央には3本のスタンドバーが置いてある。


スタジオに入ると、アーツインの時と同様にこの日の講師らしき女性が名前を確認した。

その講師が、

「あなたも、このクラスの受講でいいの?」

と舞香に確認をした。

みると、周囲に数名の受講者がすでにスタジオにいたが、

少々ご年配のマダムたちばかりだ。


舞香が初心者であったにしても、この場にいれば嫌でも浮いてしまう。

それが、見るからにバレリーナではなおさらだ。


先程の中学生の姿はないので、このクラスを受けるのではないらしい。

もう一つのBスタジオでは、「中級クラス」のレッスンがあるそうだ。

そこには、中高生の受講者も多いらしい。

講師はそちらのクラスと間違えているのでは、と思ったらしい。


講師の指示に従い、バーに付く三人。

真理エリゼと真由子が向かい合い、その隣のバーに舞香。


講師に向かい、レヴァランスであいさつをする、それがレッスンの始まりだ。

このクラスでは、バーの正面に立ち両手でバーを握る。


ゆっくりとした音楽に合わせて、まずは身体をほぐし、関節を緩めていく。

バレエのレッスンでは、初心者でも上級者でも同じ動きから始まる。


真理エリゼは足の先まで伸ばしながらゆっくりとアンディオールに足を開いた

エリゼ本人であれば、ごく当たり前に出来るアンディオール。


脚を付け根から外側に回し、足先を180度に向ける。

これはバレエの基本だ。


エリゼであれば、何の苦も無くできるのだが、真理の身体はそうはいかない。

脚は、やっと90度より少し開くようになった。


エリゼの思った通り、このクラスでは基本的な足のポディションをゆっくりと丁寧に練習する。

それに腕の動きも、顔のつけたかも。


レッスンは進み、バーが終わりセンターレッスンになった。

ここでも、鏡の前に立ち、足と腕、全身を使いゆっくりとした動きを繰り返した。


バレエ学校に入学してばかりの頃を思い出すエリゼ。

はじめての授業は、バーを持つこともせず床に座り、脚のつま先を伸ばした。


エリゼの同級生はエリゼたち最年少の8歳から10歳までがいた。

10歳の子となれば、もう主役のバリエーションも踊れるような子もいる。

それが、ただつま先をの曲げ伸ばしを繰りかえす。


「私はもうポアントで踊れます」

そう言う生徒もいた。


しかし、バレエ学校のカリキュラムは変わることなく、しばらくただただ足先を伸ばす訓練をしたものだ。


基礎クラスのレッスンは、最後のグランワルツに。

しかし、いくつものステップを組み合わせて踊るのではなく、ごく基本的なステップを一つと腕の動きをするだけだ。


それでも丁寧に、つま先、手の指の先にまで神経を通わせながら動く真理エリゼ

その姿は優雅で美しかった。

講師も真理エリゼの動きから目を離せないでいるようだ。

そしてレッスンは終わり、レヴァランスで締めくくる。


「また来てくださいね」

スタジオを出るときに講師が真理エリゼたちにそう声をかけていた。


更衣室では、あの中学生たちの姿はない。

中級クラスのレッスンはまだ終わっていないからだ。


着替えをしながら、舞香が言った、

「ママっていつの間にロワイヤルスタイルを習ったの?あすか先生もいずみ先生もロシアンスタイルだったと思うんだけど」

と。


バレエには幾つかのメソッドがある。

この国で主流なのはロシアンスタイルだ。


しかしエリゼはパレ・ロワイヤルバレエ学校からバレエ団に進んだ生粋のロワイヤルスタイル。

それが真理の踊りにも表れていたようだった。


「ママ?」

と舞香がまた、すこしばかり違和感を持ちながら真理の顔を見ていた。


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