カトレア・クラブとバレエショップカトレア
いよいよ三人でオープンクラス
カトレア・クラブのレッスンに行く日が来た。
平日の午後だ。
その日、舞香は午前授業、真由子は仕事を早退し、真理は休みを取っていた
もともと真理が自分だけで行くつもりでこの日程にしていた。
その日なら、もともと休暇予定だ。
成り行きで真由子にカトレア・クラブのレッスンを受けると伝えたが、真由子が半日とはいえ仕事を休んでまで一緒に来るとは思っていなかった。
「せっかくなので、レッスンの後お茶でもどうですか?」
と真由子から連絡があった。
カトレア・クラブのスタジオは街中の一等地にあり、周囲にはお洒落なカフェがたくさんある。
真由子は行ってみたいという流行りのカフェの情報をスマホで送って来た。
内装もテラスも素敵な、映える店だ。
「カフェいっぱい1200円だって」
と真理はスマホを見て叫んだ。
今この時代の物価はわかっている。
それでも、コーヒーがこんなに高価だなんて。
そんなエリゼの母国には、お洒落なカフェがたくさんある。
メインストリート路地なんか、カフェだらけだ。
小さい頃、時折両親がそんなカフェでアイスクリーム食べさせてくれた。
冷たくて甘いアイスクリームを食べたテラスに似ている。
スマホのお店の画像を見て思うエリゼ。
バレエ学校に入ってからは、甘い物を食べることも少なくなり、再びカフェを訪れたのはバレエ団に入ってからだ。
真由子が行きたいと言うカフェ。
エリゼの母国に本店があるようだ。
どうりで、懐かしい感じたしたわけだ。
「ぜひ、お茶しましょう」
真理は真由子にそう伝えた。
「あ、もちろんお嬢さんも一緒に」
と真由子から。
そうだ、レッスンには舞香も行くんだっけ。じゃあ、お茶も一緒かな。
と真理。
しかし、舞香との待ち合わせはカトレア・クラブのスタジオだ。
今はまだ学校にいるから、メールも読まないだろう。
「カフェ代、二倍か」
と思わずつぶやいた。
そして、早めの時間に家を出た。
カトレア・クラブのスタジオがある、バレエショップカトレアで舞香の稽古着を買うためだ。
カトレア・クラブのレッスンを受けたい、そうは言ったものの今の舞香、バレエ用の稽古着がない。
かつて使っていたレオタードの多くはすべて処分していたし、そもそも高校生になり背も少し伸びている。
残っている手持ちの品では、身体にフィットしないのだ。
「じゃあ、レッスン前、早めに行って新しいの買おうよ。」
と真理。
「え、カトレアのを?高いじゃん」
と真理の言葉に驚く舞香。
バレエショップカトレア。
バレエを通じて女性の輝く瞬間を演出したい。
そんなキャッチコピーのカトレア。
バレエグッズの他に、普段着やバッグ、小物類までトータルで揃えられる。
どれも淡い色合いが特徴で、バレエをやっていない若い女子たちからも人気がある。
しかしお値段は可愛くはなく、トータルで揃えたらかなりの高額になる。
「いつものお店のでいいのに」
と舞香。
「ほら、ママのポアント選んだとこ」
と続ける舞香。
「そ、そうね。でもカトレア・クラブまで行くんだから。
パパのボーナス出たばかりだから奮発しても大丈夫よ」
と真理。
「いつものお店」
そうだ、舞香のバレエ用品を揃えていたのは、カトレアではなく別の店だ。
店員とも顔なじみの。
とエリゼは真理の記憶をたどった。
「そっか、じゃあせっかくなのでお言葉に甘えて」
と舞香。
いつもなら、お高いカトレアでの買い物など、提案しないはずの真理。
舞香の疑心が少しずつくすぶり始めていた。
「ママ、お待たせ」
とカトレア・クラブのあるバレエショップの前に舞香がやって来た。
真理と店の入り口で待ち合わせをしたのだ。
ここは、お店とスタジオが入ったビルになっている。
1階と2階がショップ。
3階がスタジオだ。
この店であまり頻繁に買い物はしないのだが、見るだけ、なら何度も来ている真理と舞香。
さっそく2階のレオタードのコーナーに向かった。
色とりどりのレオタードが並ぶ店内。
平日だと言うのに、客も多い。
さすがは人気のお店だ。
「これがいいかな」
と舞香が選んできたのは、シンプルだけど、胸元にレースをあしらった上品なものだった。
「試着はいかがでしょうか」
と店員さんが言うが、
「サイズ見ればわかるから」
と舞香。
舞香が手渡してきたレオタード、真っ先に値札を見る真理。
確かに、高い。
それでも、予算内だ。
エリゼは天国の門の審査官の指導の下、真理の家庭の経済事情をしっかりと理解している。
裕福すぎるほど、ではないが生活には余裕があること。
それでも、無駄な出費は抑えなければならないこと。
このあたりで、ボロが出てエリゼの計画が狂ったりしたら大変だ。
それに、真理の家庭を経済崩壊させるわけにもいかない。
この家にぴったりな収支で済ませられるよう、天国の門の審査官がエリゼの心に指令をだしているのだ。
「あら、似合いそう」
と真理もそのレオタードを気に入った様子だ。
それと、バレエシューズも買い替えた。
高校のダンス授業でも使っているためか、傷んできており買い替えが必要なくらいだったのだ。
買い物を済ませて、カトレア・クラブのスタジオ前で真由子を待つ真理と舞香。
入り口にはオープンクラスの受付があり、受講者たちがそろそろ集まり始めていた。
「真理さーん」
と声がして、真由子が走ってくるのが見えた。
「いやあ、仕事がおしちゃって。ぎりぎりになっちゃった」
真由子が息を切らしながら言った。
「うちの娘の舞香です」
と真由子に舞香を紹介する。
「舞香です。いつも母がお世話になっております」
と舞香もペコリを頭を下げながら真由子に挨拶をした。
「よろしくね、舞香ちゃん」
と真由子。
さっそく親し気だ。
三人で受付を済ませた。
「基礎クラスのご受講、三名様ですね」
と受付の係の人が言い、受講チケットを手渡した。
更衣室に向かう真理たち三人。
スタジオ・アーツインよりも広くてきれいな更衣室に入る。
そこには既に数人が着替えをしていた。
そこにいた中学生らしき数名が、チラリと舞香の方を見た。
皆、頭をきれいにシニヨンに結い、レオタードから出ている手も足も長くて美しい、いかにもバレエをやっていますといった体型だ。
「あの子、さっきレオタード買ってた子よ」
とヒソヒソ言う声がした。
「基礎クラス受けるんでしょ、初めてのレッスンかしらね」
と。
そんな言葉を聞いているのかいないのか、舞香はただ黙々と支度を始めていた。
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