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48歳からの大人バレエ ~うちのママに天才バレリーナが憑依しちゃいました~  作者: 明けの明星


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イメトレと大きな目標

「そうだったのね、パレ・ロワイヤルバレエ団のDVDね、いい影響がたくさん出ていたわ」

といずみ先生。

今日の真理はそれほど、いつもと違ったようだ。


「いつもは、どんな有様なのよ」

とエリゼは思った。

身体の条件、培ってきたテクニック、それは人それぞれだけれどバレエをバレエらしくするために、できることならたくさんあるはずだ。


つま先が伸びなかったとしても、伸ばそうとしていないのとではまるで違う。

腕や顔のムーヴメント、これだってやろうとしているのとそうでないのとは雲泥の差だ。


いまの自分(真理)だって、つま先から指先にまで神経を通わせて、最大限にこの恵まれない身体を使って踊ったのだ。

気持ちだけでも、心だけでも、バレリーナのように。


「そしたら、この反応だし」


とエリゼが驚くほどいずみ先生と周囲の反応は如実だった。


「一度、真理と話をしてみたいな」

とエリゼは思った。


今、この状況。

真理の心も身体も完全に乗っ取っているエリゼ。

身体だけは真理。

真理の身体をそのまんま使っているのだ。


というわけで、エリゼが真理と意思疎通をすることはできない。

今までの真理の経験値、気持ち、感じていたこと、それはデータとしてエリゼに引き継がれているが、

いざ、真理の身体で生活を始めると、聞いてみたいことがたくさんあることに気付いていた。


「同居、ってのは出来ないのかな。一度ルイーゼに相談してみよう」

とエリゼ。

定期的に、天国の門の審査官と面談がある予定だ。

次に会ったときに、聞いてみよう



「私もよくイメトレしますよ、真理さんのきもちよくわかりますー」

としのぶの声が聞こえた。

すかっかり考え事をしていたエリゼ、話に合わせるのが大変だ。

どうやら、みんなでイメトレの話題でもりあがっているようだ。


幸子や晴美も、プロのバレリーナが踊っている動画をよく見るのだそうだ。

今はスマホで簡単に世界のトップダンサーたちの踊りを見ることが出来る。


すごい時代だ。

と思わず関心しているエリゼ。


エリゼたちの時代にも、ビデオテープやDVDバレエを見ることはできたが、こんなに気軽ではない。

誰もが自分の踊る姿を、世界に向かって発信できる、そんな世の中になっているだなんて。


「この時代のあれこれについて、あまり深入りしないように」

と天国の門の審査官に釘を刺されている。

余計なことに精通して、規約に違反などしたら大変だ。

エリゼは動画に関してこれ以上興味を持たないように努めた。


「でもさ、この動画」

そう言いながらスマホの画面をみせる真由子。


そこには、真理たちと同じような「大人バレエ」の発表会らしき舞台の動画が映し出されていた。

何にか幕物のワンシーンのようだ。

周囲で、数人が踊り、その中央にメインと思われる踊り手とそのパートナがいる。


真ん中の二人は、パ・ド・ドゥを踊っている。

難易度の高い振りはないが、リフトや女性をサポートしてアラベスク、そしてプロムナード、ピルエット。

パ・ド・ドゥの基本的な要素がすべて詰まっている。


「ライモンダ?」

真理エリゼがつぶやいた。


これも有名なバレエ作品だ。

発表会でその一部が踊られることも多い。

個人や数人での踊り、男女ペアでのパ・ド・ドゥ。

アントレー(プロローグ)からフィナーレまで、見ごたえもある華やかな作品だ。


「よく知ってるわね。そう言えばお嬢さん、主役を踊ったものね」

といずみ先生が言った。


そういえば、舞香が中学生の頃、主役のパ・ド・ドゥを踊った。

真理の記憶をたぐるエリゼ。

と、同時に自分もバレエ学校の上級生の時に、同じく主役を踊ったことを思い出した。


「さすが、真理さんのお嬢さん」

としのぶが言う。


しのぶはどういうわけか、舞香の事をよく褒めてくれる。

あすかバレエスタジオのかつての発表会の動画を見たことがあるというしのぶ。

舞香はいつも目立つ役をもらっていたから、印象にも残っているのだろう。


「あんなに素質があるのに、勿体ないですよね。

辞めちゃったのなら、真理さんにくれればいいのにね」

しのぶが言ったことがあった。


その時は笑って聞いていたが、

後になってそれだけ、真理には「才能」がない、と言いたかったのだろうか、とつい勘ぐってしまった。


「でも、この動画の人は」

と真由子が話を遮った。


「なんかさ、背中落ちてるし、首は伸びてないし」

と動画見ながら言う真由子。


ちょうど男性パートナの肩に女性ダンサーが座り、舞台を一周するシーンだった。

確かに、女性の背中には力が入っておらず、芯が通っていない。

これでは、男性も重たく感じるだろうし、見た目も綺麗ではない。


「それに、つま先だってぶらんぶらんだし」

と真由子は続ける。


男性が肩に乗せた女性ダンサーを床に下すとき、足先が伸びておらず足が揃っていなかったのだ。

これはかなり、見栄えが悪い。


その後も、真由子の手厳しい指摘は続いた。

それを見極められる目を持っていることは大したものだ、エリゼは思ったのだが周囲はそろそろ嫌な気分になっていたようだ。


「そこまで言わなくてもね、私たちなんかもっとひどかったもの、この前」

と、ついに晴美が言った。

同調した数人が、何かを言おうと真由子に向かい合ったのだがそこで、


「じゃあ、次こそはリベンジね。

このクラスからも、何人かには組んで踊ってもらうことになると思うわ。

それまで、しっかりお稽古しておいてね、イメトレも忘れずに」

とそこでいずみ先生が割って入った。


「次ですって」


「組むって、まさか」


皆かさざめいた。

その中心で、真由子が自信に満ちた顔をしながら満足げにに笑っていたのを、真理エリゼはしっかりと見ていた。


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