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48歳からの大人バレエ ~うちのママに天才バレリーナが憑依しちゃいました~  作者: 明けの明星


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真理の中のエリゼ

いよいよ真理として始動するエリゼ

合同発表会の翌日は月曜日。

新しい一週間、いつもの日常が始まる。


その朝、舞香はアラームで目を覚まして、自室から居間へとむかった。

家の中がしんとしている。

人の気配がない。

母がまだ起きていないのだ。


「さすがにお疲れね」

と舞香がつぶやいた。

昨日は朝から会場入りし、発表会の続いて打ち上げ、家に帰り着いたのはかなり遅い時間だった。


「でも、ママは」

と舞香。


今までの母は、どんなに忙しくても疲れていても、舞香と兄、そして父、家族の事をおざなりにすることなど決してなかった。

朝は誰よりも早く起きて朝食の準備をして、夜は、まあ、最近は舞香の方が夜更かしだが、

遅くまで色々と家事をこなしている。


そんな真理だから、自分の用事で疲れた日の翌朝に、寝坊をするだなんて考えられない。

舞香に昨夜の違和感がよみがえった。


「あら、おはよう。遅くなってごめんね」

とそこに真理の声がした。


姿形はどう見ても、母、真理だ。

声も普段の母の声だ。

舞香はしばらく真理を眺めたが、おかしな点はどこにもないようだ。


「さあ、朝ごはんの支度、急ぐわね」

真理はそう言うと、台所へと向かい、舞香のための朝食の準備をした。


トーストに、ゆで卵、それにフルーツ。

いつもの朝食だ。


「ママ、今日は?」

と舞香が真理に聞くと、


「仕事よ、今週も始まっちゃったわ」

とさらりと言う真理。


やはりいつも通りだ。

昨日の違和感、あれは気のせいだったのだろう。


ほどなく、舞香は登校のため家を出た。

放課後はバイトだ。

それを伝えると、母は、分かったわ、とそれだけ言って、


「行ってらっしゃい」

と舞香を玄関先で見送った。


この人(真理)には、すこし、いやいやだいぶ後ろ向きなところがあるから、まずはそこね」

と真理の姿をしたエリゼが言う。

舞香を送り出し、一人になった家の中で。


「それにしても、朝からトーストって、クロワッサンの方がずーっと美味しいでしょう」

と独り言を言うエリゼ。


その日の予定は既にエリゼの脳裏にインプットされている。

今日はこれから仕事だ。

その前に、洗濯と掃除、家の事をする。

これもごく自然にこなした。


「なんで、朝のストレッチをしないんだろう」

とエリゼ。


真理としてごく自然に振る舞えるように、その日常生活は既に心に刻まれているエリゼ。

しかし、バレエを踊る人でありながら、そのための体のメンテナンスがほとんど日常にはない。

それが不思議でたまらないエリゼだった。


勤務先に着くと、すでにフロアには大西大河の姿があった。

周囲にはまだ人影は少ない。


大河は真理の席まで出向き、


「真理さん、昨日はお疲れ様でした。素晴らしかったですよ、僕もまた踊りたくなっちゃったな」

と声をかけた。


「素晴らしい、の?」

とエリゼ。


あの「パキータ」と似て非なるもの、あれが素晴らしいとは。

お世辞にもほどがある。


「この人は、ダンサー向きね」

大河の立ち姿を見たエリゼはそう思った。

バレエ向きの骨格と、ダンサーらしいオーラをこの大河から感じることができたのだ。


「じゃあ、踊ろうよ、大河君も」

と真理。


しかしその時、数人の社員たちがフロアに入って来た。

大河はすっと真理の側を離れて行った。


それでも、大河から、社内ツールのチャットが真理の元に送信された。


ーそうなんですよ、バレエ再開しようかと思ってるんです。

昨日の真理さんたちを見て、なんだか背中を押してもらった気分ですー


ーそんな、私たちなんて。でも大河君ならすぐに主役なんか踊れそうー


ーいやいや、あくまでも趣味ですから舞台に出ることは考えませんよー


ーで、何処で習うの?ー


ー康太さん主催の教室に、オープンクラスがあるのでそこに行こうかとー


ー真理さんは外部のオープンクラスなんかには行かないんですか?-


ーもういずみ先生のお稽古だけでやっとだもの、そんな余裕はないかなー


ーじゃあ、いつか一緒に受けましょうよ。このあたりだとスタジオ・アーツインが有名ですね、

ぜひそこにでもー


スタジオ・アーツイン、

バレエ専門のダンス練習スタジオだ。


幾つものオープンクラスがあり、現役のプロダンサーや海外留学生が帰国のして時にレッスンを受ける、

レベルの高い事で有名なスタジオだ。


オープンクラス、曜日を決めて月謝を払い通う「教室」とは異なり、その都度チケットを買って受けられるバレエのレッスンだ。


誰でも受講可能だが、スタジオ・アーツインはレベルが高く、「初級者」と言うクラスでさえ、

周囲はまるでプロ級のバレリーナ、よほどの自信がない限り安易に参加したりは出来ないのだ。


そして、そのアーツイン、かなり昔からあるバレエスタジオだ。

その歴史はかれこれ半世紀になる。


エリゼもかつてパレ・ロワイヤルバレエ学校の生徒として来日した時、

このアーツインを訪れた。

スタジオから、ぜひここでレッスンを、と招かれたのだ。


一般の受講生と一緒に稽古をした。

レベルの高い周囲の受講生でさえ、視線が自分に釘付けになっているのがわかった。

羨望の眼差しが向けられていた。

自分は、世界で最エリート、バレエ学校の生徒なのだから。


その後、大河と真理のチャットはしばし、スタジオ・アーツインの事で盛り上がった。

参加するクラスを間違えて、バーレッスンから途方に暮れたことがあると言う大河。


「そうよね、センターなんてなんであんなアンシェヌマン、って思うわよね。

それも裏からとか」

と真理の中のエリゼが思わず熱く語ってしまった。


ー真理さん、本当に詳しいですよね。これはますます一緒にレッスン受けたくなってきたー

と大河。


「そうね、機会があればぜひ」

と真理が返信をした。

それは、真理ではなくエリゼの気持ちだった。

あくまでも、バレエ仲間としてだが、エリゼはこの大河に興味を持ち始めていた。


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