天才バレリーナ登場
天才バレリーナ、これからどうする?
「え、なに?」
と舞香は思わず振り返った。
確かに、声が聞こえたからだ。
しかし、ここは自分の部屋、ここに居るのは自分だけ、のはず。
誰の声?
不審者でもいるのかを怯えながら周囲を見回す舞香。
でも部屋にいるのはやはり舞香ただ一人だった。
「ああ、聞こえたの?」
とまた声がした。
この声、何処から聞こえているんだろう、
まさか、
舞香は慎重にその声が何処から聞こえてているのかを探った。
そして、探りた当てたのは、
自分の頭の中、だった。
「私、ついにおかしくなっちゃったかしら。幻聴がきこえるなんて」
と舞香がつぶやく。
「このところのストレスのせいかな」
と。
「違うわよ、幻聴なんかじゃないから。私はねあんたの身体にお邪魔してるの」
とまた声がした。
「身体?」
そう言われて飛び上がる舞香、そして自分の身体に何か起きていないか恐る恐る触ってみた。
「安心してよ、何もしないから。
それよりさ、あんた、バレエ辞めたいの?」
と声の主が言う。
「なんで、知ってるの? まだ誰にも言ってないのに。やっぱり幻聴だわ、私の本心が聞こえてくるだなんて重症よ」
と舞香
舞香はあえて何事もなかったように、部屋着に着替え制服をハンガーにかけた。
そして通学鞄から教材を取り出し机に向かった。
舞香の机には、学用品の他にメイク道具やヘアケア用品が所せましと並んでいた。
いつものように、手鏡を取り出して顔を眺めた。
「え」
と思わず絶句する舞香。
鏡に映っていたのは、自分ではなく金髪で蒼い目の女性だったのだ。
手鏡を床に投げ捨てる舞香。
この家が何かに憑りつかれているの?
恐怖で顔をこわばらせる。
「だから、私なんだって。鏡には映るみたいね」
とまた声がした。
その声を聞き、震える手で鏡を拾った。
そして、もう一度自分の顔を映してみる。
そこにはやはり、さきほどの女性が映っている。
見間違えでも、幻覚を見ているわけでもなさそうだ。
「ねえ、あなた、本当に私の中にいるの?」
と舞香が「声」に話しかける。
「そうよ、ちょっと訳ありでね。私の事、認める気になった?」
と声の主が言う。
「認めるですって?私、完全におかしくなってるんだわ。
でも、こんな経験滅多にないじゃない、これ自慢できるかも」
と舞香。
「じゃあ、認めてもらったということで、自己紹介するわね、私はねエリゼっていいます。
一応年齢的には21歳なんだけど、なんか少しだけ時代がずれちゃったかも」
とエリゼと名乗った声が言う。
「エリゼね、で、なんで私の中にいるのかしら?」
と舞香も聞く。
「そうよ、これが肝心。
私はね、いま生死をさまよっているの。それでね天国の門のところで、女神?みたいな人?なんかよくわかんないんだけど、そんな人から、
ーあなたはこのまま黄泉の国に向かわせるのは惜しい人材です。だからチャンスを上げましょう。
誰かの夢を叶えておあげなさい、そうすればあなたは現世に留まることが出来るのですー
って言われたの」
とエリゼ。
エリゼの話によると、女神にそう言われて自分が叶えられる夢を持つ人物を探していたのだとか。
それで、舞香を見つけその身体に入り込んだのだという。
「でもさ、そんなチャンスもらえるんだね、もし私が不慮の事故とかに遭ってもそうなのかな」
と舞香が言うと、
「誰にでも、な訳ないじゃない。私が特別な存在だからよ」
とエリゼが自信満々に言う。
「ふーん、特別な存在ね、何様よあんた」
と舞香。
「私はね世界が嘱望するバレリーナ、エリゼ・リデルよ」
それを聞くや否や舞香はその名をスマホで調べ始めた。
すぐにいくつかの情報が表示される。
エリゼ・リデル
パリ生まれのバレエダンサー。
8歳でパレ・ロワイヤルバレエ学校に入学、
16歳のロワイヤルバレエ団に入団。
21歳の時、不慮の事故によりその後の消息は不明。
「何、これ」
とスマホの画面を興味津々にのぞき込む、鏡の中のエリゼ。
「エリゼってバレリーナ、確かに存在したらしいけど、おかしいじゃないの、
あんた、何年前の人よ」
と舞香が知り得た情報でエリゼに詰め寄った。
「そうね、なんだ時間のずれが起きちゃたみたいね。
私が暮らしていた国ともちがうみたいだし。
だってさ、夢を叶える人を探すのに手こずってしまって、思いの他時間がかかったのよ」
とエリゼ。
「じゃ、今この時代であんたが誰かの夢を叶えたら、あんたの時代のあんたが復活できるっこと?」
と舞香が聞く。
「たぶん、そうじゃないかな。歴史を変えない程度に30年までなら時代を移るのは自由なんだって」
とエリゼが言う。
「そう、じゃぎりセーフなのね」
と舞香。
「そうなの、ぎりぎりなのよ、でもあんたの夢が」
とエリゼが嘆いた。
「なんで、あんなに強い気持ちを感じたからあんたのところに来たのに。
あんた、バレリーナになりたくないんでしょう?」
とエリゼが責めるように舞香に言う。
「あんたをなんとかバレリーナにすれば、夢を叶えたってことで私は生還できると思ったのに。
なんで、バレリーナになりたくないの?いい身体してるのに」
と続けるエリゼ。
「私じゃ無理なのよ。だから私の中にいてもあなたは生還できないわ」
と舞香も譲らない。
その時だった。
舞香の部屋のドアをノックする音がした。
舞香の返事も待たずドアが開いた。
入って来たのは母の真理だ。
「ねえ、舞香ちゃん、どういうことなの?今度のコンクール、出ないって。さっき先生から電話があったのよ」
と母がまくしたてるように言った。
そういえば、今度開催される世界規模のコンクール。
その予選エントリーが始まったのだ。
バレエ教室の先生に、当然のように打診されたが舞香は出場はしない、ときっぱり言ったのだ。
母に内緒で。
「私、もうバレエやめる。
もういいでしょう?他にもやりたいことがあるのよ」
と舞香が言った。
舞香はこの時初めて、バレエに関して母に逆らうようなことを言った。
自分の夢が本心じゃないってお見通しでしたね。
天才バレリーナ、これからどんなふうにこの母娘と関わるのでしょうか。




