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48歳からの大人バレエ ~うちのママに天才バレリーナが憑依しちゃいました~  作者: 明けの明星


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23/26

準備は着々と

発表会が近付くと稽古の回数も増えますね。

合同発表会での演目すべての振りつけが完了した。

あとは練習を重ねるだけだ。


このころになると、いずみ先生のバレエクラスはバーレッスンをするとその後は

発表会での演目をそれぞれ踊りこむ時間となった。

今までのレッスン日に加えて、もう一日追加の稽古日にも多くの生徒が参加していた。

それに加えて、週末には合同で参加するすべての教室が集まっての稽古もある。


大人クラスの生徒たち、それぞれの家庭の事情はそれぞれだが、

表向きには批判が出ることもなく、皆熱心に稽古を重ねていた。


普段使っている稽古場は、それほど広くはない。

奥行きが浅いのだ。


発表会本番は、この前「眠れる森の美女のワルツ」を踊った会場と同じだ。

大体の感覚はわかる。


それでも、一度しか立ったことのない本番の舞台。

イメージするのには限界がある。

この稽古場より、合同練習で使うスタジオの方が断然広いため、週末の合同稽古で位置取りをしっかりと覚えこみたいところだ。


しかし、週末、しかも日中数時間にも及ぶ合同稽古に、毎回参加できる生徒ばかりではない。

ふたりでバリエーションを踊る美咲と雅子。


二人とも、真理と同じでいずみ先生の大人のバレエクラスが開設された当初からの生徒だ。

そんなこの二人、合同の稽古でそろったことがない。

いつもどちらかが「家の都合」で欠席なのだ。

いつもの稽古で合わせると、どうもぎこちない。


そして、もう一つの二人組。

晴美とあかり。

このところ、週末の稽古にあかりが全く来られなくなった。


「旦那が毎週、帰ってきて」

とあかり。


単身赴任中の夫。

自分の実家に近い場所への赴任で、帰省は稀だろう、自分が現地に出むことも少なくて済むだろう、

そう思っていたのだが、どうも様子が違うようだ。


「子供たちに逢いたいって」

とあかり。


小学生になる息子が二人いるあかり。

夫は日に日に成長していく子供たちの姿を、出来るだけ多く目にとどめておきたい、

頻繁に接しておきたい、そんな気持ちが強くあるようだ。


赴任期間は5年の予定。

戻るときには、子供たちは中学生。

難しい年ごろだ。

そうなる前の大切な時期、家族での時間を大切にしたい、という夫。


以外にも家族思いの夫に驚きながら、あかりは内心あせっていた。

家族での時間、それには自分も不可欠なことに気付いたからだ。


夫の気持ちはうれしく、ありがたい。

でも、

「今じゃなくても」

と本音が出るあかり。


それをわかっている相方の晴美。

わかっている、わかってはいるのだが、週末の合同稽古でいつも一人で踊ることに。

なんとなく自信もないし気恥ずかしい。

ついつい動きがぎこちなくなる。


「もっとのびのびと、緊張しないで」

といずみ先生が声をかけるが、晴美は冷や汗をかきならが苦笑いを浮かべるだけだった。


「ソロみたい」

と6人組の誰かが言う。


「いつかセンターでソロで踊りたいな」

と。


「センターで」

そう、真理にとってもそれは目標だ。

大人になってバレエを始めて改めて持った目標。


舞台の真ん中で、自分ひとりだけで踊りたい。

名のある有名な、バリエーションを。


これは、誰にも言ったことのない真理の心の中だけの目標ではあったのだが。



「本番はもっと前に出てこられるからね」

といずみ先生が言う。


いつもの稽古場で、ちょうどコーダの稽古中だ。

並んだ時の間隔がこの稽古場だと狭すぎる。

一番後ろに並んでいる真理たちは、壁に押し付けられているように追いやられていた。

衣装を着ての稽古のため、チュチュのスカートが壁に当たっていた。

本番の舞台で、壁すれすれ、なんてことはあり得ないが、舞台の真ん中、とは程度遠い、舞台の隅っこ、これは間違いなさそうだ。



発表会本番まであと数日となった頃、

真理と幸子、それから晴美の三人で、買い物に出かけた。

発表会で使う品々を揃えるためだ。


メイクの補助道具、髪のセットに必要なヘアピンや、ジェルなど、

個人で持ち込む物も多い。


それらの品だが、真理は一応は舞香の持ち物で賄えるのだが、幸子に誘われると喜んで買い物に同行した。

結婚し、子供が出来てからというもの家族以外とのお出かけは「ママ友」が圧倒的に多かった。

それか、学生時代の友人。


幸子たちは、ママ友でもなければ旧友でもない。

自分の趣味を通じでできた友人だ。

真理はそんな出会いを大切にしていた。


繁華街の中にある大きなドラッグストアで、まずは下調べをする三人。

必要なものを手に取り、使い心地を確かめた。

しかし、そこで買い求めることはせず、一旦保留でお茶タイムにした。


真理たちの住む街にはないような、おしゃれなカフェのテラス席。

三人でおしゃべりに花を咲かせた。


真理と幸子は6人組、だが晴美だけは二人ペアでのバリエーションを踊る。

内心は微妙に思うこともあるが、あえて言葉にも表にも出さずにいた。


「総げい古の時は一人で大変ね」

と幸子が、週末の稽古でいつも相手のいないことを持ち出した。


「そうね、一人きりになると、気恥ずかしくて。先生にも注意されてるわ」

と晴美。


「晴美ちゃん、どんどんうまくなってるじゃない。あかりちゃんと差が付くんじゃないの?」

と真理が言うと、


「でもね、あかりちゃん、すごく華があるの。オーラっていうのか。

目を惹きつけるなにか。だから心配ないのわ。前のワルツの時もそうだったじゃない、本番でいっそう輝くタイプよ」

と晴美。


そう、あかりには生まれながらの華やかさがあった。

バレエの技術、それとは別のなにか持って生まれた才能というのだろうか。


「じゃあ、次はソロかしらね」

と幸子が言いった。


「次?」

と晴美と真理が同時に声を出す。


「そう、つぎのあすかバレエスタジオの発表会。

全幕ものをやるんですって、私たち大人クラスの生徒も配役に入れるんだって。

グランやソロがたくさんあるから、あすか先生の生徒だけじゃ人が足りないみたいよ」

と幸子が言う。


「あ、これはまだ内緒ね。この前あすか先生といずみ先生の話を聞いちゃったのよ」

と幸子が笑う。


「ソロか。私の夢、今度は叶うかしら」

幸子の話を聞いた真理が心で思った。


少しだけ希望に胸を弾ませて。

しかし、それと同時に、

「叶うわけないか」

と落胆の気持ちも押し寄せた。


また、誰かの幸運をきいて、もやってするのだろう。

そんな未来が見えていた。


「あーあ、ネガティブ思考、それさえなけりゃ、あんたに決めるのに」

と真理の頭で声がした。

いつか聞こえた、得体のしれない、しかし、どこか説得力のある声だった。


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