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48歳からの大人バレエ ~うちのママに天才バレリーナが憑依しちゃいました~  作者: 明けの明星


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つのる苛立ち

稽古も大詰め。

合同発表会まであとわずかとなってきた。

稽古にも熱が入り、時間をオーバーすることもしばしばだ。


衣装も届いた。

当然、レンタルだが、発表会までは各自が責任を持って管理する。


深い紅色のクラシック・チュチュに、黒いレースを重ねたパキータの衣装

上半身には金糸の刺繍があしらわれており、胸元からウエストまで細工の細かい飾りが光っている。

スカートは幾重ものチュールが花のように広がり、縁には黒のブレードがぐるりと縫い留められている。


華やかで、豪華な衣装。

「主役」のしのぶも、「その他大勢」の真理たちも全員同じ衣装だ。


そして、髪はきっちりとシニヨンにまとめ、真っ赤なバラの造花を一輪挿す。

シンプルだけど、豪華な衣装には良く似合う。


全員が一旦衣装を身に着け、不具合がないかを確認する。

いずみ先生がバランスを見るために、皆を一列に並ばせた。


華やかな、素敵な衣装。

上着はキャミソールのようで、首筋と腕が丸見えだ。

そして、丸く広がったスカートから延びる脚。


鏡に映るその姿。

隅の方にいた真理は、自分を直視できずにいた。


短い首、ぽちゃぽちゃの二の腕、そしてずんぐりとした脚は内また気味で立っている。

これが自分だ。

あわてて鏡から目をそらし、周囲を見ると、他のみんながワイワイいいながら衣装を着けた自分を眺めていた。


「本番の日は、一緒に写真撮ろうね」

と声をかけてきたのは幸子。

幸子は照れる様子もなく、嬉しそうにチュチュを着ていた。

艶やかな黒髪にさした赤いバラがとても印象的だ。


そんな幸子をみていると、鏡も見られない自分がなんだかみじめになる真理。

こんな衣装が着られるなんて、内心嬉しいはずなのに。


「微調整は各自でお願いね。衣装も、己の身体もよ」

といずみ先生が言う。

また、背中のホックの調整だ。

いや、中身の絞り込みだ。

真理は内心、自分に苛立ちながらため息をついた。


バレエの衣装、チュチュ。

丸く広がる大きなスカートは、持ち運びにはかなり幅をとる。


真理は舞香が使っていた、衣装用の布バッグを持参していた。

衣装がすっぽり入るサイズで、持ち手もしっかりとしている優れモノだ。


その衣装バッグを持ち、帰宅の途につく真理。

稽古場から自宅まで、バスで数分だ。

バスの中で、真理の衣装袋をチラチラとみている女子中学生と思われる女の子数人のグループがいた。


「あれ、レイペインの衣装袋よね」


「ほんとだ、あのロゴ」


「チュチュでも入ってるのかしら、あの丸み」


「誰が使うんだろう」


と言う話声が聞こえる。

バレエには詳しい口ぶりだ。


真理の持っていた衣装袋は世界的に人気のバレエ用品ブランド、レイペインの品だ。

この衣装袋は日本ではなかなか手に入らない。

舞香は海外に留学していた友達からお土産としてもらったのだ。


レイペインの品、バッグや小物などはバレエ以外でも使用しているおしゃれな女子が多い。

しかしこの衣装袋は、他には使い道がない。

そんな衣装袋をもっているこの「おばさん」。


「最近さ、大人でバレエやってる人、増えてるよね」

と女の子の一人が言った。


「そうそう、うちの教室にもいるよ、おばさん」


「一生懸命なにはいいんだけど、邪魔だよね」


「だよね、センターの時とか、方向間違えるし、危ないったらありゃしない」


と女の子たちは話し始めた。


その時、ちょうど真理の降りるバス停に着いた。

女の子たちの横を通って出口へと向かう真理。


「あ、これは娘ので」

とすれ違いざまに言った。

女の子たちが直接真理に聞いてきたわけでもなんでもないのに。


バス停から自宅まで、暗い夜道を歩きながら、

「堂々と言えればよかったんだけどな」

と真理。


見ず知らずの女の子たちだが、

そんな彼女たちにでさえ、バレエを習っているんだ、と言えずにいる真理。


稽古場で見た自分の姿がどうしても脳裏によみがえる。

と同時に、発表会を観に来る、言っている大河の事を思った。


「笑われるだろうな」

と。



今回は合同での発表会だ。

いずみ先生の知人であるのぞみ先生が主催する「リアン・バレエスタジオ」の生徒たちが中心ではあるが、

他に真理たちいずみ先生のバレエクラスの生徒、そしてもう一つのバレエスタジオの大人生徒たちが参加する。


普段はそれぞれの稽古場で練習をしているが、発表会が近くなり全員が集まり合同での稽古する機会もある。


とある日曜日、いつもより広い稽古場で合同での稽古となった。

衣装を着けての本格的なリハーサルだ。


合同稽古の稽古場に、3つの教室の大人生徒たちが集合した。

それぞれ初対面だが、同じ趣味を持ち、同じ舞台を造りあげる者同士。

先生たちが、まずは生徒たち同士を紹介してくれたお陰で、穏やかに打ち解けることが出来た。



稽古場にある更衣室で、皆が準備をする。

真理たち以外の生徒たちも、この日は衣装を着けるようだ。


全員が衣装に着替えて稽古場に行くと、

今回の主催となるのぞみ先生が、


「せっかくの機会ですので、最後、グランドフィナーレとして全員で舞台に上がりましょう」

と提案した。


それぞれの出番が終わったその最後、その日の出演者全員がもう一度舞台の上に上がり、

最後の挨拶をする、そんな演出のようだ。


そして、のぞみ先生がそれぞれの立ち位置を指示し始めた。

事前にいずみ先生とも打ち合わせ済みのようだ。


真理が指示されたのは、最初に舞台に登場しいくつかのステップを踏む。

そして後ろに下がってポーズを取り、そのまま最後までその姿勢で待つ、そう言うものだった。


一列に並ぶ真理たち6人。

それに、ほかの二つの教室での真理たちと同じ立場であるらしい数人が加わった。


真理は一番後ろから、ぼんやりと前を眺めていた。

空しさと募るいら立ちを抱えながら。

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