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48歳からの大人バレエ ~うちのママに天才バレリーナが憑依しちゃいました~  作者: 明けの明星


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19/21

日常生活に見え隠れする「バレエ」

バレエが日常生活に入り込み始めました

合同発表会の稽古は着々と進み、

通常の稽古日以外にも練習をするようになった、大人のバレエクラスの生徒たち。

前回の発表会では、希望者、いや有志のみが参加した形だったのだが、

今回は、全員が稽古日の追加に賛成し「出来る範囲で」参加している。


真理も例外ではなく、今では生活のすべてを「バレエ」中心に回している有様だ。

朝、起きるとまずは白湯を飲み、それからゆっくりと身体をほぐす。


それから家事を済ませてパートの仕事に行くのだが、

テーブルを拭きながら、つい伸びる足先。

高い戸棚の扉を開ける時、指先を意識しながら腕を伸ばす。


仕事先でも同様だ。

歩く時は背筋を伸ばし、つま先をついつい外側に向ける。

椅子に座る時も、背中を丸めるなんてもってのほかだ。


トイレに行けば、自宅よりはるかに大きな鏡の前で、ちょっとポーズの確認だ。

もちろん、周囲に誰もいない時に限るが。


「大澤さん、最近なんかハツラツとしていますね」

と同僚から言われる真理。


「そうそう、なんか楽しそうだし」


「何?推しでも出来たの?」

と口々に真理の変化を語る同僚たち。


「そう、だってね」

と真理は思わず口に出しそうになるが、


まだ言えずにいた。


「だって、バレエを始めたから」

と。


「ま、もう少し上手くなったら」

と真理は思う。


もしも、合同発表会での出番が、「その他大勢」じゃなかったら、

誰かに公表していたかもしれないな。

とふと考える真理。


それでも、自分に与えられた役割を最大限頑張る。

そう決めた。

舞台に出られるだけでこの上なく嬉しい事なんだから。

それは間違いない。


「その他大勢」

そう言う表現もよくないな。

と、真理は一人思案する。


その言い方では、自分を否定しているのと同じだ。

でも、他の言い方が見つからない。


いずみ先生はもちろん、他の大人生徒たちも真理たち6人を、さげすむようなことは言わない。

しのぶだって、決して自分たちを見下しているわけではない。

みんな、仲間なんだ。


「仲間」

そう、お稽古仲間。

それはいつも順序の付く関係。

子供の頃も今も変わらない。


真理は心中様々な想いを抱えてはいたが、バレエが日々の楽しみとなり発表会が生活の張りとなっているのは紛れもない事実だった。


「ねえ、大澤さん」

とある日、職場で声をかけられた。


声をかけてきたのは、同じフロアの若手社員、小西大河だ。

確か、入社2年目くらい。


「あの、大澤さん、何かやってますか?」

といきなり言い出す大河。


「やってる?っいけなおクス、、、」

そう言いかけた真理に、


「違いますよ、もうハッキリ聞きます。真理さん、バレエとかやってませんか?」

と大河。


「え、わかるんですか?」

と驚いて聞き返す真理。


「ときどきエレベーターホールで、振りの練習してるでしょ。僕、偶然見かけてしまいまして」

と大河が言う。


日が暮れると、窓ガラスに全身が映るエレベーターホールはトイレと共に真理の恰好のレッスン場だったのだ。

もちろん、誰もいない事をしっかりと確認していたつもりだったのだが、見られていたのか。


「あの、見てたんですね、恥ずかしい。最近、バレエ始めたんです。おかしいでしょう、こんなオバチャンが」

と真理は笑いながら大河に言う。


「いや、いいじゃないですか。あれ、パキータでしょ?」

と大河、随分とよく知っているような口ぶりだ。


「じつは僕も小さい頃からバレエを習っていて、留学までしました。でも、挫折して、辞めちゃって、

普通に社会人になりました。」

と大河が自分の身の上を語りだした。


大河はバレエ好きだった母の勧めで幼少期からバレエを習い、中学生の時にスイスに留学。

その後も、海外のバレエ学校を転々とした。

しかし、外国のダンサーたちにまったくかなわないと自覚をして、バレエの道で生きることを諦めたのだそうだ。


そして、趣味としてバレエを楽しみながら大学に進学するが、今までバレエ三昧だった生活から、

青春を満喫できる大学生生活は、完全に大河をバレエから遠ざけた。

バレエと関わることなく社会人となり、最近ふと「踊りたい」と思うようになったのだと言う。


「あの、発表会あるんですよね?観に行ってもいいですか?」

と大河が言った。

発表会があること、バレエの事すら社内の誰にも言っていないのに。


「あの、ゲストダンサーの康太さん、僕の知り合いなんです。

少し年上だけど、よくコンクールで会っていて、外国のサマースクールにも一緒に行ったんですよ。

その彼から、今度大人の生徒さんばかりが出る発表会にゲストで出るって聞いて、この前プログラム送ってもらったら、真理さんがいるじゃないですか」

と大河。


先日、出来上がったばかりの発表会のプログラム。

出演する全員が、顔写真入りで載っている。


真理も、髪をアップにまとめ、少し斜めを向いた写真をプログラム様に撮ってもらっていたのだ。

普段、稽古をしているスタジオの片隅に、急ごしらえの撮影コーナーを設置して、

生徒全員がプロのカメラマンに写してもらった写真。


娘の舞香が発表会の度に同じように撮影してもらっていたが、まさか自分が写る側になるとは、

そんな事を思いながらレンズを見つめた真理だった。


「じゃあ、お稽古、がんばってくださいね。楽しみにしてますよ」

と大河。


「でも、でもね、私なんかほんと下手くそで、隅っこにいるだけだから、笑わないで」

と真理が焦るように言った。


「えー、どんな役回りだって重要ですよ、バレエって。でも、楽しんで踊ってくださいね」

と大河はきらりと目を輝かせ、短い言葉ながら熱く語ると、その場を去って行った。


発表会に家族以外が観に来る。

それも、あまり接点のない若手社員。

しかも、からりガチなバレエ経験者のようだ。


「どうしよう」

と真理。

その額からは、知らぬ間に汗が噴き出していた。

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